十二章 全てを知る者
血と泡の混じった飛沫が、叫びと共に吐き出される。
「ざっけんなぁ~!」
完全に塞がっていない胸からは、血が滲み出ている。
フェンリルは立ち上がると、怒りの矛先をナーガへと向けた。
「てめぇもだ!何で止めなかった!こうなる事は解りきってただろうが!それとも何か?用無しになったからどうなろうと知った事じゃねーてか」
「私とて止められたなら止めていた。全てはお前を救いたいというマスターの意思だ。フェンリル貴様に頼みがある」
驚きでフェンリルの目が大きく開く。
ナーガが頼み事を自分にするだけでも珍しいのに、負け犬でも犬でもなく名前を呼ばれた事に驚いたのだ。
頼みを聞いてフェンリルの顔が苦悶に歪む。
「そんなもん残ってる訳ねーだろ。完全に食われちまってんだ。万が一手に入れれたとしてももう元には戻らねぇ。それからどうすんだ」
ナーガは厳しい表情をさらに厳しくする。
「私は約束を破ったマスターを殴ってやらなければ気が済まない」
「てめぇ人の話しを聞いてなかったのか?もう元には戻ら・・・」
そこまで言ってフェンリルはナーガの言葉の真意に気づく。
「そうか、てめぇ何かに気づきやがったな。なら俺様は乗ったぜトラブルは大好物だからな。俺様もあの馬鹿はぶん殴ってやらねーと気がすまねぇ」
フェンリルとナーガの前に、光り輝く門が現れ開く。
契約によって閉ざされていた、それぞれの世界への道へと続く門。
「ミスるなよフェンリル」
馬鹿にするなという表情を浮かべ「誰に向かってもの言ってやがる。俺様は生まれてこのかた無敗のフェンリル様だぜ」と門へ飛び込む。
ナーガも「貴様は一敗だろ」と自ら開いた門へと飛び込んだ。
神界へと続く道を傷ついた翼で飛びながら、ナーガは思考を巡らせる。
ルークが食われた時、側にいたナーガは見た。
通常身体から魂と順番に食われていく。
力が足りなくてただ食われただけなら、魂を糧としていないナーガがその魂を見る事等出来ないはずだ。
それが一瞬とはいえ見る事が出来た。
その時に何かが起こったのだ。
そして気づいた。
それは不可能とされていた為、思考の外にあった可能性。
理由は解らないが、不可能が可能となるならもう一つの不可能も可能なはずだ。
二つの契約。
古き神を支える人間の存在。
自分とフェンリルが選ばれた理由。
ナーガは確信していた。
全ての答えは神界にある!




