(2)
神界アースガルズにある、全てが銀色で彩られたヴァーラスキャールヴ宮殿。
創世の竜の後を継いだ、神界の長オーディンの住城である。
ナーガがその前に降り立つと、近衛兵が槍をかざし立ち塞がる。
「貴様何者だ!ここは神界の長オーディン様の居城。許可なき者は立ち去るがいい」
敵意を真っ正面から受け止め、金色の瞳で睨みつける。
「そのオーディンに用がある。邪魔をするというなら、力付くでも押し通る」
オーディン様を呼び捨てにするなどと、近衛兵達がざわめき殺気が充満していく。
そこにナーガの背後から、聞き慣れた声が近衛兵達にかけられる。
「止めときな。お前達じゃ束になってもナーガには敵わんさ。それにオーディン様はお会いになられるさ。ですよねフギン様?」
声の主は黒髪の青年、サイ本来の姿である。
もっとも永遠に近い寿命を持つ神である者に、姿形はあまり意味を持たない。
近衛兵の間を波を割るように現れた、長身の眼鏡をかけた男フギン。
神界の眼と呼ばれる諜報機関、ワタリガラスの責任者の一人である。
サイはこの機関の、人間界で活動する部所の長である。
「無礼は申し訳ない、この者達は貴方を知らぬ。オーディン様がお待ちです。こちらへ」
かけている眼鏡がキラリと光り、身を翻すフギンの後をついていく。
「急いで帰ってくりゃいきなりトラブってるし、今度は神界相手に戦争でもする気じゃないだろうな?」
出来る限り気さくな感じで問い掛けるサイに必要とあらばと返す。
「何があったかは何となくだが解っているさ。もしそうなったら俺も誘ってくれよ。俺はルークの味方だからな」
「私は話し合いに来ただけなのだが、もしそうなった場合は頼りにしている」
そうなる可能性もあるのかと、サイは両手を広げる。
サイがこの場にいるのだ。
リリオルは収まるべきところに収まったという事だろう。
宮殿の奥、豪奢な扉の前でフギンは立ち止まり「オーディン様はこちらでお待ちになっておられる」と振り返る。
神界でも一部の者しか立ち入りを許されぬ、オーディンの座る王座フリズスキャールヴのある一室である。
「さて真実を聞かせてもらいにいこうか」と扉に手をかけるサイをフギンが制する。
「お前は駄目だ。ここに今立ち入りを許されているのはナーガだけだ」
「ちょっと待って下さいよ。いわば俺も当事者の一人ですよ」
「私は勿論、護衛であるフレキやゲリですら今は立ち入りを許されてないのだ諦めろ」
フレキとゲリは常にオーディンの側にいて、その身を守る任についている腹心である。
その者達すら立ち入りを許されてないのだから、余程人に聞かせたくないのだろう。
「話せる話しなら後で私から聞かせてやる」
絶対だぞとサイの声を背中に受け、ナーガは一人部屋に立ち入っていく。
大広間にあるフリズスキャールヴに座る、長い白髭の老人がナーガに声をかける。
「まさかお前が、ここに来るとは思わなかったぞ。」
ナーガは怒りを含んだ鋭い視線を老人に向けた。
「サイから聞いてないのか?くだらない理由なら覚悟しておけと言っておいたはずだ」
この老人こそ神界の長オーディンである




