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狼竜物語  作者: レオ
97/255

(14)

 見渡す限りの暗闇と、針を落とせば数キロ先迄響き渡りそうな静寂に包まれた場所。


 そこにフェンリルは一人いた。


「なんでぇ、やっぱ俺様は死んじまったのか?」


 上も下も暗闇なのに、不思議とそこが地面だと解る。


「お~い俺様が来てやったぞ~」


 呼びかけは闇に溶け、返事は返って来なかった。


「なんでぇせっかく俺様が来てやったのに、美女の出迎えも無しかよ」


 何か聞こえた気がして振り向くが、そこには闇が広がっているだけだった。


 心が安らぎを感じる方向へ本能が赴くまま歩き出し一人ごちる。


「また一人っきりか」


 また・・・?


 浮かんだのは遠い昔世界が一つで、まだラグナロク等誰も想像だにしない頃の記憶。


「俺様の森に迷い込んで来た馬鹿なガキがいたな」


 全く傑作だったぜ。


 俺様を見るなり‐狼さん僕を食べちゃうの?‐ときたもんだ。


 仕方ねーから人がいるとこまで乗せて送ってやったら喜んでたっけ。


 ‐狼さんまた来ていい?‐


 たくっ来んじゃねーよつっても毎日来やがって・・・遊んでやったのも仕方なくだからな。


 いつしか来んのが当たり前になってたが、‐父様がもう森にいっちゃ駄目だって‐泣きながら言ってきたっけ。


 まあ行くなって言われて当然だな。


 迷ったら俺様に喰われちまうなんて、根も葉も無い噂があった森だ。


 いい機会だから住家を変えるつったら‐フェンリル僕達ずっと友達だよね‐なんて笑わせるぜ。


 何を勘違いしてんだか、友達なんてなったつもりもねーし、別にてめぇの為にいなくなる訳じゃねーよ。


 あのガキの名前はなんつったかな?


 また音が聞こえた気がして、思考を止め振り返る。


 その音は、何処かで聞き覚えのある音だった。


「何処にいこうってのさフェンリル」


 夜目が効くフェンリルの目でも、闇以外は見えない。


 だが不意にかけられた声は、フェンリルが歩いて来た方向からはっきりと聞こえた。


「誰でぇおめぇ?何処に行こうが俺様の勝手だぜ」


「まあ何処に行こうが自由なんだけどほって置けなくてね。僕にはこれぐらいしか出来ないからさ」


 声は成人した男性の声で、フェンリルには聞き覚えがない。


「おめぇは耳が悪いのか?誰だって聞いたんだぜ」


「もう少しで全てが上手くいくとこだったのに、本当に残念だよ。これもあの子が選んだ選択だから仕方ないさ」


「質問に答える気がねぇなら俺様は行くぜ。じゃあな」


 安らぎを求めフェンリルはまた歩みを進めるが、背後からまた謎の声が追い掛ける。


「そっちに行っちゃうんだ。やっぱりフェンリルは負け犬なんだね」


 なんだと!


 フェンリルは安らぎを求めていた事も忘れて怒りに支配され、声のする方に炎を撃ち込もうとするが、炎は生まれる事はなかった。


「ここじゃ力は使えないよ。そんな事も解らないなんて、フェンリルは負け犬なだけじゃなくて馬鹿なんだ」


 声はするんだ。そこに居やがるのは間違いねぇ。


「ぶっ殺す!」


 声の主に向け、フェンリルは走り出す。


 そして音が聞こえた。


 それはいつも聞いているはずの音。


 何の音か理解出来ぬまま闇は晴れていった。

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