(14)
見渡す限りの暗闇と、針を落とせば数キロ先迄響き渡りそうな静寂に包まれた場所。
そこにフェンリルは一人いた。
「なんでぇ、やっぱ俺様は死んじまったのか?」
上も下も暗闇なのに、不思議とそこが地面だと解る。
「お~い俺様が来てやったぞ~」
呼びかけは闇に溶け、返事は返って来なかった。
「なんでぇせっかく俺様が来てやったのに、美女の出迎えも無しかよ」
何か聞こえた気がして振り向くが、そこには闇が広がっているだけだった。
心が安らぎを感じる方向へ本能が赴くまま歩き出し一人ごちる。
「また一人っきりか」
また・・・?
浮かんだのは遠い昔世界が一つで、まだラグナロク等誰も想像だにしない頃の記憶。
「俺様の森に迷い込んで来た馬鹿なガキがいたな」
全く傑作だったぜ。
俺様を見るなり‐狼さん僕を食べちゃうの?‐ときたもんだ。
仕方ねーから人がいるとこまで乗せて送ってやったら喜んでたっけ。
‐狼さんまた来ていい?‐
たくっ来んじゃねーよつっても毎日来やがって・・・遊んでやったのも仕方なくだからな。
いつしか来んのが当たり前になってたが、‐父様がもう森にいっちゃ駄目だって‐泣きながら言ってきたっけ。
まあ行くなって言われて当然だな。
迷ったら俺様に喰われちまうなんて、根も葉も無い噂があった森だ。
いい機会だから住家を変えるつったら‐フェンリル僕達ずっと友達だよね‐なんて笑わせるぜ。
何を勘違いしてんだか、友達なんてなったつもりもねーし、別にてめぇの為にいなくなる訳じゃねーよ。
あのガキの名前はなんつったかな?
また音が聞こえた気がして、思考を止め振り返る。
その音は、何処かで聞き覚えのある音だった。
「何処にいこうってのさフェンリル」
夜目が効くフェンリルの目でも、闇以外は見えない。
だが不意にかけられた声は、フェンリルが歩いて来た方向からはっきりと聞こえた。
「誰でぇおめぇ?何処に行こうが俺様の勝手だぜ」
「まあ何処に行こうが自由なんだけどほって置けなくてね。僕にはこれぐらいしか出来ないからさ」
声は成人した男性の声で、フェンリルには聞き覚えがない。
「おめぇは耳が悪いのか?誰だって聞いたんだぜ」
「もう少しで全てが上手くいくとこだったのに、本当に残念だよ。これもあの子が選んだ選択だから仕方ないさ」
「質問に答える気がねぇなら俺様は行くぜ。じゃあな」
安らぎを求めフェンリルはまた歩みを進めるが、背後からまた謎の声が追い掛ける。
「そっちに行っちゃうんだ。やっぱりフェンリルは負け犬なんだね」
なんだと!
フェンリルは安らぎを求めていた事も忘れて怒りに支配され、声のする方に炎を撃ち込もうとするが、炎は生まれる事はなかった。
「ここじゃ力は使えないよ。そんな事も解らないなんて、フェンリルは負け犬なだけじゃなくて馬鹿なんだ」
声はするんだ。そこに居やがるのは間違いねぇ。
「ぶっ殺す!」
声の主に向け、フェンリルは走り出す。
そして音が聞こえた。
それはいつも聞いているはずの音。
何の音か理解出来ぬまま闇は晴れていった。




