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狼竜物語  作者: レオ
95/255

(12)

 ゲフッ。


 口から吐かれた血が、床で王冠を形作り、崩れ広がっていく。

 

 血を吐いたのは奴の鋭い爪を胸に沈め、反対の腕で首を掴まれ宙吊りになっているフェンリル。


 僕等の全て、フェンリルの命すら賭けた一撃は、確かに奴に届いた。


 でも、その命迄は届かなかった。


 僕等は・・・負けたんだ。


「惜しかったな。人間でも達人ならば、今一歩踏み込んで受けるのではなく、腕を掴んで俺の動きを止めれただろうがな。人間などに頼ったのが間違いだ」


 奴の言っている事は正しい。


 フェンリルが、奴の首につけた傷は決して浅傷じゃない。


 僕にもう少し力があれば、奴の動きを止めてフェンリルがその首を噛み切れただろうし、胸に深い傷を負う事もなかったはずだ。


 フェンリルが新たな血を吐き、口が苦しげにパクパク動く。


 叫ぼうとして言葉を飲み込む。


 それはフェンリルと目が合ったから・・・


 その目は、こんな絶望的な状況でも諦めていなかった。


 またその口が不自然に動く。


 もしかして何かを僕に伝えようとしてる?


 折れた左腕からは、絶え間無く激痛が全身を駆け巡る。


 集中しろ。


 言葉とならない紡ぎだされる言葉を読み取るんだ。


 チャ・・・ャンス・・・を・・・逃す・・・な?


 チャンスなんてないよフェンリル。


 ナーガはもう戦えない。


 僕が奴の捨てた青龍刀を拾って攻撃しても、片腕では扱えないし拾っている間に気づかれて終わりだ。


 またフェンリルの口が不自然に動く。


 読み取り思ったのは、それは不可能だということ。


 無防備な奴に傷一つ付けれなかったのに、刃物ですらないこれが刺さる訳ない。


 せめて短剣みたいに使えれば・・・父さん。


 ‐お前を守ってくれる‐


 粉々になってしまった短剣は、もう僕を守ってはくれない。


 思い出す短剣を貰った時の事、初めて短剣を使った時の事。


 あ・・・これを刃物のように使う方法・・・あるかも・・・


 今は無防備な奴に攻撃した時とは、状況が変わっている。


 フェンリルの届く距離には光壁を使われても何とかしてくれる。


 何よりも奴は僕には何も出来ないと思って、警戒は殆どされていない。


 チャンスは・・・ある!


 最も奴の虚を付ける瞬間、息を潜めその時を待つ。


 ゆっくりとヨルムンガンドが、胸から爪を引き抜いていきフェンリルが細かく痙攣する。


「苦しいか?今楽にしてやる」


 それを逆手に持って、奴がフェンリルに止めを刺そうとする瞬間に僕は動く。


 初めて短剣を使ったのは旅に出てすぐ、フェンリルが竹を切断した時だ。


‐刃に力を集中させんのさ‐


 何も見る事が出来なかった僕は、凄いなとしか思えなかった。


 そしてフェンリルはさっきも見せてくれた。


 力を集中させる。


 それは魔力を剥き出しに集めて、刃のように使うんだ。


‐これぐらいは出来るようにならねーといけねーぜ‐


 やって見せる!


 限界迄魔力を込めたそれを、奴の一番弱い場所に全力で突き刺す。


 フェンリルが命を賭けて付けた首の傷へ。


 簡単に折れてしまうはずのそれは、浅くではあったが折れる事なく刺さった。


 フェンリルに向かっていた爪が軌道を変え、僕に襲い掛かり胸に重い衝撃を受けて後方に弾き飛ばされる。


 奴の爪は空を切った。


 胸の衝撃は、フェンリルが僕を後ろ脚で蹴った衝撃。


 そしてフェンリルの前に小さな炎が生まれ、僕が突き立てたそれに命中した。


 最後の火筒に。

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