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狼竜物語  作者: レオ
92/255

(9)

 フェンリルとナーガは、奴に向けて同時に魔法を放つ。


 身じろぎ一つしない奴に、当たったはずの炎と氷の槍は音もなく消えた。


 奴の周囲には光壁。


 床を変化させた時は、空間が歪んだのが見えたのに、光壁は空間が歪んだ瞬間すら見えない程速かった。


「奴は地と光の魔法を使う。マスターは自分の身を守る事だけに専念してくれ」


 攻撃は二人に任せ、言われた通り僕は一人離れた場所で待機する。


 ナーガが空から氷の槍を放ち、フェンリルは地の槍をかわしながら奴に接近する。


 奴は床を蹴り、氷の槍をかわしてフェンリルとの距離を詰める。


 光壁は魔法攻撃に強くても物理攻撃に弱い。


 ナーガが魔法で援護して、フェンリルが接近戦に持ち込めば光壁は使いにくい。


 この二人仲は悪いけど、いつも組み手をしてるようなもんだ。


 何も言わなくても阿吽の呼吸で、己のやるべき事を理解している。


 フェンリルに向けて振られる青龍刀を、バックステップで避けたところへ背後からナーガの槍が襲い掛かる。


 振り向きもせず背後の床が盛り上がり、盾となり防ぐ。


 フェンリルが青龍刀をかい潜り、空間が歪んで炎が生まれ炎と共に突っ込む。


 上手い!


 あれなら光壁で防ごうとしても、フェンリルが光壁を壊して炎が直撃する。


 少なくとも奴はダメージは免れない。


 そのはずなのに炎は霧散して、フェンリルは弾かれ後方に転がる。


 奴の周りには光壁。


 魔法は防げても、フェンリルの身体は純粋な物理だ。防げるはずがない。


 地面から襲い来る槍をかわしながら、フェンリルが体勢を整えナーガは僕の側に降り立つ。


「あの光壁僕等が使ってるのと違うの?」


「同じだ」


 ナーガは今までになく険しい表情をしている。


「力が違い過ぎるんだ」


 僕の光壁でも、小石ぐらいなら弾ける。


 つまり奴にとってはフェンリルの体当たりが、小石程度にしか感じてない。


 フェンリルも一度奴から離れる。


「マズイな。攻撃避けてる間に光壁張られちゃ、こっちは攻撃出来ねぇぜ」


 奴が射程の長い青龍刀を使うのは、攻撃を避けられても飛び込む間に、光壁を張って自分を守る自信があるからなんだ。


 魔法に強い光壁で、本来弱いはずの物理も守れるなら死角はない。


「しかもまだ全然本気を出してねぇ。とかげわかってるな」


 ナーガが頷き、僕に乗れと指示する。


 乗ると同時にフェンリルは奴に向かって走り、ナーガは奴のいる方向とは違う場所へ向かって羽ばたいた。


「ナーガ何処にいくの?」


 問いに答えぬまま向かって行くのはステンドグラス。


 そしてスピードを全く落とす事なく突っ込んだ。


 ナーガも僕も呆然と目の前の光景を見下ろす。


 目の前に広がるのは、石畳の無骨な部屋とヨルムンガンドと対峙するフェンリル。


 僕等はステンドグラスに飛び込んだはずなのに、元の部屋に戻されていた。


「クックックッ逃げられると思ったか?そこは俺の力で空間自体を歪ませている。なに心配するな俺が死ねば元に戻って、そこから出られるようになる」


 顔を歪めるフェンリルとナーガ。


 まだほんの少ししか戦ってないのに、僕を逃がそうとした?


 二人とも物凄く強いのに・・・違う・・・強いからわかったんだ。奴には勝てないって。


「逃げようとした罰は、我が国民に償ってもらうとしよう」


 奴が床に手をやると、地面が大きく揺れた。


 空中に浮かんでいる僕等にはさほど影響はないけど、景色が縦に横に大きく揺れ、フェンリルは四肢を踏ん張って堪えている。


 揺れが納まり、奴が悠然と立ち上がる。


「貴様らのせいで、どれ程の人間が死んだのだろうな」


 今の揺れは僕等を狙った攻撃じゃない。


 じゃあやっぱり。


「ナーガ窓に近づいて!」


 鉄格子の向こうに見えた風景は、僕が見たランドハートの街とは一変していた。


 崩れた家から逃げ出す人々。


 瓦礫の下敷きになった人。


 あちこちから火の手が上がっている。これから被害は更に拡大していくだろう。


 直接僕等に関係ない人の命を、簡単に奪うなんて酷い。


 奴が神界魔界を滅ぼしたとしても、理を変更するだけの力を得るまで糧である人間は滅ぼせない。


 でもこんな奴に支配された人間の、行く末なんて簡単に想像できる。


 ここで僕達が止めなきゃいけないんだ!


 「ナーガ奴が使う光壁は、僕が使うのより強力でも、純粋な物理攻撃に弱いのは同じだよね」


 フェンリルの体当たりよりも、強力な物理攻撃を生み出す方法が今の僕にはある。


 ドランさんに貰った火筒。


 幸いな事にここには無数の火種がある。


 ナーガに耳打ちして飛び降りナーガは左、僕は奴の右手に回る。


 壁と天井から飛ぶナーガを狙って鋭い土の槍が飛び出し、旋回しながらかわすも完全にはかわせず、白い羽毛が篝火に反射しながらきらきらと舞う。


 僕等を援護する為か、それとも自ら攻撃する為か、奴の背後からフェンリルが迫る。


 見えていないはずの背後のフェンリルに床から生まれた槍が襲い、フェンリルはそれを跳躍して越える。


「跳んじゃ駄目だ!」


 僕やフェンリルはナーガと違って、空中で体勢を変えれない。空中にいるフェンリルを追撃の槍が襲う。


 チッ


 舌打ちしながら炎で鋭い穂先を壊し、太くなった部分を蹴り離れる。


 真後ろにいる敵を振り向く事もなく攻撃出来るなんて、気配を読むのも奴は一流と言える。


 でも時間を稼いでくれた御蔭で、僕とナーガはかなり奴に近づけた。

 

 ナーガが低空飛行に移り、篝火を奴に向かって跳ね上げる。


 ドランさんから貰った火筒は火を付けてから、一秒から十秒で爆発する。


 火を付けた瞬間に爆発したら目もあてれない。


 ならこうするだけだ。


 奴に向かう篝火を狙って火筒を投げ込み、ナーガは氷の槍を撃ち込む。


 耳をつんざく爆音。


 光壁を張っても火筒で破壊して、ナーガの氷の槍が奴を貫くはずだ。


 そしてフェンリルが爆発の中に追撃の炎を撃ち込む。


 爆煙をゴクリと生唾を飲み込みながら見守る。


 もう異変には気づいている。


 フェンリルが撃ち込んだ炎の爆発がない。


 まさか・・・


 爆煙が晴れてきて見えてきたのは、光壁と傷一つない奴の姿。


 火筒は物理として僕等が出せる最大の攻撃。


 それでも奴の光壁を壊せないなんて・・・


「それで終わりか?そろそろこちらからもいくぞ」


 死刑宣告のようにその言葉は響いた。


 奴の床がへこむ程の強烈な踏み込みが、爆発的な推進力を生み出し、一気にフェンリルとの間合いが詰まる。


 振り下ろされる青龍刀を横に避けるも、体勢をととのえる前に更に間合いが詰められ、蹴りをまともに受け宙を飛ぶ。


 向かう壁から鋭い槍が飛び出し、フェンリルを串刺しにしようと待ち構える。


 飛ばされながらフェンリルは床に向けて炎を撃ち込み、その爆風で飛ぶ角度を変え、串刺しは免れるも壁に叩きつけられた。


 立ち上がる前に、更に青龍刀が襲う。

 

 身をよじる様にかわすも避け切れず、漆黒の毛が削られ腹部に対照的な赤い色。


 フェンリルが攻められている間に、ナーガが真上から奴を狙う。


 真上からなら奴には見えてないはず。


 そんな淡い期待は張られた光壁に打ち消され、衝突して動きが止まったナーガに青龍刀が振られる。


 張られた光壁は青龍刀に簡単に壊され、ナーガは羽ばたき後方に飛ぶ。


 完全にかわせなかったのか、空から赤い滴が床に落ちる。


 光壁は外からの攻撃に対しては無類の強度を誇るが、内側から触れれば構成が崩れて簡単に消える。


 光壁の内側に潜り込めれば何とかなるかも知れない。


 フェンリルとナーガを同時に相手して、圧倒するヨルムンガンドに何が出来る?


 考えるんだ。


 僕が出来るのはそれだけだ。


 奴が指を二本下から上に引き上げると、床が爆ぜ石つぶてがフェンリルを襲う。


 フェンリルを威嚇して足止めすると、奴は足に吸盤でもついているかの様に壁を上っていく。


 よく見れば壁から迫り出す足場を上っているのだが、力の使い方に馴れてきたのか、人工物を変化させる速度も上がってきている。


 壁を蹴り、一瞬でナーガの背後に回り青龍刀を振るう。


 刃は小さく変化したナーガの頭の上を過ぎていったけど、そのまま青龍刀を回転させ長い柄の部分が胴体にまともに当たり、ナーガは遥か離れた壁に叩きつけられ床に墜落した。


 僕の目の前に着地した奴の背中は無防備に見える。


 チャンスだ!考えるより先に体が動く。


 短剣を抜き奴の背後から迫る。


 よせっ!そんな声が聞こえた。


 ゆっくりと奴はこちらに振り向き、光壁も張らず青龍刀を振るう気配すら見えない。


 両手でしっかり握った短剣を、奴の腹部に突き立てる。


 金属音と痺れる手。


 突き立てた短剣は突き刺さるどころか、表面に傷すら付かず逆に短剣の尖端が欠けてしまった。


 胸倉を掴まれ足が宙に浮く。


「満足したか人間。貴様が何をしようが、無防備な俺にすら傷一つつけられはしない」


 腕に短剣を何度も叩き付け、脱出しようともがく。


「力を失ったとはいえ、古き神と契約し支える程の魂だ、さぞかし美味かろう」


 僕は敵だとすら認識されてなかったんだと知り悔しい。


 フェンリルが炎を放とうとするも、僕を盾にされ空間の歪みが元に戻る。


「理を越える二つの契約にも興味がある。あいつらを殺した後に、ゆっくり調べてから食ってやるから、それまで大人しくしていろ」


 壁に投げつけられ全身を強打して意識が遠くなり、目の前が砂嵐のように霞んでいく。


 頭がズキズキと痛み血が落ちる。


 こんなとこで気を失う訳にはいかないのに…


 抗いも虚しく、視界は真っ暗になっていった。

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