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狼竜物語  作者: レオ
89/255

(6)

 城壁に立つ、元パパスに気づく者はまだ少ない。


「聞け!」


 元パパスは叫ぶが戦いの最中に、一個人を気にする者等いない。


 誰一人耳を貸す事無く、戦いは続く。


「あの・・・聞いて下さると、有り難いんですけど・・・」


 丁寧に言い直すが返事がわりに飛んで来る矢に、元パパスは伏せようとする。


「動くな!」


 声をかけたのは城壁を背に、表から見えない様に元パパスの足元に座り込むラルク。


 矢は元パパスに当たる事無く逸れていった。


 ラルクを信じると決めた元パパスは、震えながらも身じろぎする事なくその場に立ち続ける。


 当たるはずの軌道で飛んで来る矢も、全て外れていく。


「これは・・・ラルクさん貴方魔法使いだったんですか?」


「さあね。神様の加護っつーやつかもな。胆は座ったか?今度はここにいる全ての人間に声が届く、気合い入れていきな」


 音は空気の振動によって伝わる。空気の扱いなら俺の右に出る者はいないと、ラルクは力の範囲を広げていく。


 元パパスは大きく息を吸い込み叫ぶ。


「聞けぇ!」


 今度の叫びはここにいる全ての者の耳に届き、一気に注目を浴びる元パパス。


 だが一部の兵士は、一斉に声の主に矢を放つ。


 城壁に身じろぎ一つせず立つ男は、まるで何もなき野を行くかの如く平然と立ち続け、無数の矢はかすりもしない。


 そして空から戦場に響き渡る咆哮と共に、元パパスの背後に舞い降りる白き獣に全ての人の注目が注がれる。


 突如現れた竜に驚愕する兵士達の中で、勇敢なのか無謀な者なのか一本の矢が放たれ、元パパスの足元に刺さる。


「我が主に仇なす愚かな者共塵芥ちりあくたになりたいか」


 竜の前に氷の槍が生まれ、城壁に攻め込む兵士の頭上を越え街の中心に消えていき、直後に天空を焦がす程の大爆発。


「派手なのはいいが、街に被害が出てるのではないか?」


 ナーガの疑問にラルクは答える。


「心配はいらないさ。中心部で一番人のいない広い場所を選んだからな」


 氷が爆発する訳がない。


 望遠鏡で様子を見ていたギルドの者達が、タイミングを合わせ爆発させたのだ。


 爆発したのは街の中心にあり、ドランが作った火薬を見つからぬ様に、大量に準備出来る場所。


「持ち主に許可をとってないけどな。まあ大丈夫だろ」


「どうせなら持ち主ごと吹き飛ばすべきだったな」


 つまり爆発したのは、ドランの家。


 爆発が収まり兵士の中から「あれはセイドリック様を殺した竜じゃないのか」と声が上がりざわめく兵士。


 タイミングよく矢が飛んできたり、ナーガがセイドリックを討ち取った等と知り得る者が、都合よくこの場に居合わせる訳がない。


 最初から打ち合わせした者を、駐屯兵の中に紛れ込ませていたのだ。


「さあしっかり決めろよラインハルト様」


 元パパス、今はラインハルトが剣を抜き兵士に叫ぶ。


「聞け!我が名は元王位継承権第一位ラインハルト。我が父グスタフの非道なる行いを正す為に、この剣を手にし立ち上がった」


 白銀の竜を背に、肩まである金髪を風に靡かせる青年は、名匠が描く名画のようだった。


「既にグスタフに加担し、国民を苦しめ続けたセイドリックは私が討ち果たした」


 もう矢を放つ者はなく、兵士達はラインハルトの声に耳を傾ける。


「胸に手を当て思い出すがいい。父がお前達に何かをもたらしてくれたか。豊かな生活?平穏な暮らし?父がもたらしたのは恐怖と苦しい生活だけだったはずだ」


 頷く兵士達。


「変革の時は来た。今すぐ私に味方しろなどとは言わぬ。その場にとどまり見届けるがいい」


 ラインハルトが深紅の旗を掲げる。


「この新しき旗が、朝日と共に城に翻るのを!」


 深紅の旗には中央に剣が、左右には竜と狼、上部にはサイの風を表す紋様。


 国旗のデザイン等聞いてなかったナーガは、ジロリとラルクを見る。


「これぐらいの役得はあってもいいだろ?ほらほら続き続き」


 兵士達に見えない様に、尻尾でラルクの膝を打ちナーガは劇の続きを演じる。


「我が主の命令だ。この場にいる全ての人間よ、一歩でも動けば今度は迷わず塵に変わると心せよ」


 兵士達はナーガの迫力に圧倒され、凍り付いた様にその場に固まる。


 ラインハルトはナーガの背に乗り剣を天に向け「見届けよ我が国民達よ」と空に飛び立ち単騎城に向かうラインハルトに、呆気にとられていた兵士達から、悲鳴にも祈りにも似た歓声が上がる。


 誰も聞く者のいなくなった上空で「上手く出来ましたでしょうか?」とラインハルト。


「上出来だ」


 多少の予定変更はあったが、これで門外の兵士は簡単には動けまい。


 東門に殺到した兵士は、ラインハルトが王を討った事を証明する証人。


 そしてその場で動かぬ様に命令したのは、新たな兵が来た時に対する人の壁役なのだ。


 期限を朝日が昇る時までにきったのは、その内城の塞ぎ切れない出入口から、城内の兵士が東門に殺到する。


 残ったラインハルト配下を城壁に集め、狭い階段で迎え撃てば朝日が昇る迄は堪えられるとの計算だ。


 後は最後にして最大の難関、違反者の討伐を果たすのみ。


 ナーガは自らに気合いを入れ、本当のマスターを思い浮かべそして思う。


 この場にいる全ての者の命を本当に背負っているのは、僅か十歳の少年なのだ。


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