(3)
王城に続く長い地下通路を、ひたすら走りつづける。
薄暗い地下を城へと続く通路は、まるで無限回廊にでも迷い込んだかのような、終わりの見えない焦燥感すら感じさせる。
「お~いわしを置いてきぼりにするな~」
遥か後方から、通路に反響してドランの声が響く。
寄る年波には勝てないのか、ついてこれずに一人後方を走っている。
「スピード落とさないと、ドランさんがついてこれませんよ」
「むしろ置いてって出入口塞いで、封印した方が世の中の為よ」
そんな魔物みたいに・・・
やがて通路は緩やかな上り坂に変わり、更に階段に変わる。
無限に感じられた通路は行き止まりになっていて、アネルカさんは人差し指を立て口にあてる。
壁の向こうが騒がしい。
「外も始まったようね。私や妄想馬鹿は、またここに戻って来るんだから騒ぎは無用よ」
アネルカさんが壁を規則的なリズムで叩くと、向こう側から合図が返って来て壁が回転した。
そこは城の通路、知らない男の人が立っていてアネルカさんは、その人と小声で話し僕等に振り返る。
「困った事になったわ。王は一人でどこかに行ったらしいわ。この広い城の中を人に見つからずに探すのは至難の業よ」
アネルカさん達は僕等を王様のとこに連れていくだけでなく、その後にも仕事がある。
だから極力騒ぎにはしたくないんだ。
「フェンリル王様の居場所わかる?」
「わかるぜ。奴は最初っから誘ってやがったからな。居場所を隠そうとすらしてねーよ。不思議に思わなかったか?俺様達が城下に来てるのは気づいているはずなのに、街の捜索すらしてなかっただろ」
人が隠れ家に来なかったのは、ドランさんのせいだけじゃなかったんだ。
フェンリルが走り出す方向に、アネルカさんの仲間を残して僕等も続く。
人が近づく気配がして、アネルカさんが見えない剣を抜き身構える。
まるで猫のような身のこなしで瞬時に相手の背後に回り、兵士の口からツツーと血が垂れ倒れる。
「肋骨の間から肺を刺せば、声も出せずに死ぬわ。あんたも覚えておいて損はないわよ」
こんな簡単に人が死ぬなんて・・・知ってたはずなのに目の当たりにするとショックを受ける。
ランスさんもショックなのか、それとも殴られたダメージなのか顔色が悪い。
「血が・・・血が・・・」
そういえば血が苦手だったね。
曲がり角の先から、大勢の足音が近づいて来る。
「まずいわね。戻って迂回するわよ」
来た道を戻ろうとして、全員が凍りついた様にその場に固まる。
僕等の視線に飛び込んで来る、鬼の如くの形相でこちらに走って来るドランさん。
曲がり角を曲がって来る大勢の兵士を見て、ドランさんが任せろとリュックから筒状の物を取り出し、先についている紐にランプの火をつけ投げた。
それは兵士迄届かず、僕等の真ん中に落ちた。
「やべぇ逃げろ!」
轟音を轟かせそれが爆発したのは、逃げ出してすぐの後の事だった。
キィーン
視界がぼやけ耳鳴りがする。爆発した場所の天井は崩れ、瓦礫が道を塞いでいる。
「見たかぁ!わしの火筒の威力」
存分に味わいましたとも・・・
頭がハッキリしてきて辺りを見渡すと、どうやら全員無事みたいだ。
爆発に近かった僕等が無事なら、きっと向こう側にいる兵士達も大丈夫だよね。
「あんたぁ!隠密行動だって言ったでしょーが」
詰め寄るアネルカさんに「はて?そんな事言われたかの?」とすっとぼけるドランさんに、アッパーを入れるフェンリル。
「これからどうしましょうか?」
少し考えて「やってしまった事は取り返しがつかないわ。もう潜入がばれてるなら逆に派手にいくわよ」と提案するアネルカさん。
ここからはドランさんの独壇場になった。
城全体を揺るがすような連続する爆発。
空を飛ぶ兵士達。
人って空を飛べるんだなぁ。
「わしが貧乏なのは、きさまらのせいじゃぁ」
ドカーン!
「結婚どころか、彼女いない歴が年齢と一緒なのもきさまらのせいじゃぁ」
ドカーン!
どう考えても、兵士達に関係ない逆恨みをぶつけるドランさん。
「あの・・・出来るだけ死者とかは出さないでくれると・・・」
ぎっしりリュックに詰まった火筒を、次々と迫り来る兵士に投げつけるドランさんの目は血走り、完全にいっちゃってる。
「峰打ちじゃから心配ない」
そっか峰打ちなら大丈夫・・・て
「峰打ちと峰打ちじゃない爆発って、何が違うんですか?」
「気分じゃ!」
・・・結局一緒って事ですよね。
爆発から逃れた兵士に、ランスさんが剣に変化したバーシルを、上段に構え振り下ろす。
兵士が剣を横に持ち受け止める。
剣が交差した部分が飴の様にグニャリと曲がり、先端が兵士の後頭部を痛打して倒れる。
バーシルって、こんな使い方も出来るんだ。
バルコニーに進路を移す。
「フェンリルまだ遠いの?」
「もうすぐだ。それよりも見てみな。ちょっとやべぇぜ」
言われた城壁の東門を見ると、城壁の下を埋め尽くす兵士。対して守る側は百人いるかどうかだ。
通常守る城壁側が、圧倒的に有利なはずだ。
矢は重力で威力を増し、石や木ですら落とせば武器になる。
攻める側は大掛かりな攻城兵器が必要になるし、自分達の城に攻めるなんて想定してない城下街にいた兵士達は、長い梯子で壁に取り付いている。
人数さえいれば簡単に守れるはずなのだが、その人数が足りない。
破られるのは時間の問題だ。
そして城と城壁の間を、東門に向かって走る騎馬の一団。
このまま行けば挟み打ちで全滅は必至だ。
そんな僕の耳に、ドランさんの「何するんじゃの」叫びが聞こえた。




