(2)
「そろそろ向こうも着いてる頃だ。準備はいいか?」
ナーガに声をかけるラルクは、普段着では無く鎧を身につけている。
「準備はいいが・・・これは何だ?」
ラルクがナーガに、突き出しているのは肩かけ鞄。
「ナーガは当分の間、この中にいてくれ。出番はまだ先だからな」
やれやれと、ナーガは大人しく鞄の中に入っていく。
全ての作戦を考えたのは、ラインハルトとラルクなのだ。
今は従う以外に無い。
それでは参りましょうと、ラルクは馬に跨がり、ラインハルトとパパスと三人だけで駆け出す。
まずするべきは、城下街に点在する兵舎と城の分断。
ラインハルト配下の三百の兵士も、散り散りに城に迫っているはずだ。
一度に集まり移動すれば、すぐに気づかれる。
小人数だからこそ出来る作戦だ。
城門に近づくにつれ、ラインハルトの周りに続く兵士も増えていく。
「予定通り東門から突入する。ラルク手筈はついているな」
元ラインハルト、今はパパスがラルクに緊張を含んだ声で問い掛ける。
緊張をするなと言うのが無理な話だ。
もし城門が開かなければ門の前で立ち往生になり、異変に気づいた城下街からの兵士にたちどころに壊滅させられる。
現に今も後方には少ないながらも、リリオル正規の装備を付けた一団が迫っている。
小人数で分けたとはいえ、武装している者が普段人通りのない城下街を駆けているのだ、聡い者は異変に気づく。
「大丈夫。ギルドの連中は出来ない事は受けませんから」
ラルクは、大丈夫なはずだと聞こえぬ様呟く。
この作戦は目隠しで綱渡りをしているぐらい不安定で、突風でも吹けば簡単に奈落に落ちる。
東門が見えスピードを緩めぬまま、閉まったままの城門に近づく。
「合図を!」
ヒュンと火矢が、空に打ち上げられる。
だが門は沈黙し閉じたままだ。
どんどん門との距離は縮まっていき、壁上からは矢の雨が降り注ぎ、射られたラインハルトに続く兵が次々と落馬していく。
開け!開け!開け!ラルクは握る手綱に力を込め祈る。
ゴゴゴゴ・・・
鈍い音と共に城門がゆっくりとだが確実に開いていく。
やってくれたぜとラルクは胸を撫で下ろす。
「突撃!」
パパスの号令で、次々と城門内に飛び込む。
「城門を制圧する!私に続け!」
パパスは馬に乗ったまま、城門の石段を駆け上がる。
ラルクだけは、それに続かず一人城に向かう。
「ナーガお芝居の前に一仕事頼むぜ」
ナーガは力を収束させ、それを厚い氷に閉じ込める。
城の出入りの為のメインの門。
こちらも入る事が出来なくなるが、それは問題ではない。
城にいる兵士を一度に、出れないようにするのが目的なのだ。
ラルクはそれを見届けると、馬の進路を変える。
「あと西南北の城壁の門を、通れないようにするぞ」
上手く制圧出来たのだろう。
東門の扉が閉まっていく。
開いた僅かな時間の内に通り抜けられずに、外に残された者はなぶり殺しだろうが、見捨てるしかない。
外からの観客である城下街の兵士には、東門に集まってもらわねば困る。
取り残された兵も無駄ではない。
これは戦争なのだ。
とにもかくにも目隠しの綱渡りの一歩目は、綱を確かに踏み出した。




