十一章 決戦
夜陰の草原に、三頭の馬の蹄と獣の足音が響く。
先頭にはアネルカが見事な手綱捌きで馬を操り、その横を漆黒の狼が並走する。
アネルカはルークの乗った馬の手綱も引き、ルークは必死に馬にしがみついている。
そして、遅れてもう一頭。
「何であのジジイがついてきてんのよ!」
アネルカは忌ま忌ましげに呟く。
ランスロッドは鍵を開けるのは時間が掛かると、朝早くから先に出発している。
最後尾の馬を駆るは、背中にリュックを背負い、ボサボサの髪を振り乱し、悪鬼の如く眼を見開きながら馬を操るドラン。
「ごめんなさい。お前達だけに任せておけないってどうしても聞いてくれなくて」
振り落とされないように、馬にしがみつきながら釈明する。
「まあ、坊やが言っても大人しくしているようなジジイじゃないけどね。大金が、かかってるなら尚更よ」
ドランさんへの報酬は革命が成功して、初めて研究費用の名目で支払われる。
「お金がそんなに大切なんですかね?」
確かに生きていく為には多少のお金は必要だけど、命を賭ける程大切だとは思えない。
でもアネルカさんの考えは僕とは違ってた。
「大切に決まってるじゃないの!お金があれば世の中の99%の事は解決するのよ。お金こそ神よ!」
すぐ横に、百万ジェニーの神様が走ってますよ。
そう言いたくなるのをグッと堪える。
森と草原の境目に差し掛かった頃、馬の速度を落としランスさんを探す。
ゴスンと馬が何かを蹴り、草むらに何かが倒れた。
アネルカさんが馬を降りその何かを掴む。
「あんた何のんびり寝てんのよ!仕事は終わったの?」
掴んでいるのは草を全身に纏い、草原と同化していたランスさん。
これじゃちょっとやそっとじゃわからないはずだ。
ランスさんが揺さ振られ意識を取り戻す。
「はっ?寝てねぇ俺は寝てねぇぜ」
寝てた訳じゃないよね・・・何故か顔面も腫れ上がっているけど、昨夜何者かに殴られたらしい。
僕は宴会の途中から記憶がないけど、酷い事をする人もいるもんだ。
「鍵はもう開いてる。これを持って引っ張ってくれ」
ロープ状になったバーシルを全員で引っ張ると、地面が開き地下通路が現れる。
王族が逃げる為の通路に続く扉だ。
殆ど隙間なんてなかったはずで、そこを鍵を開けれるだけの質量が通るのには時間が掛かる。
ランスさんが、早く出発したのも納得だ。
驚いたのは扉の先で鈎爪状となったバーシルと、僕等が掴んで引っ張ったロープ状の間は糸よりも細かった。
目に見えない程の細さで、扉の重さを支えたバーシルって凄いんじゃないだろうか?
「のんびりしている時間は無いわよ」
ランプに火が灯りバーシルは剣に変化して、ランスさんの手に握られる。
「いい?あくまで私達は隠密行動よ」
隠密行動・・・フェンリルよりも問題児がいるのに・・・そんな事を考えながら頷き、僕はアネルカさんに続いて地下通路に入っていった。
まだ平穏に見える城下街の水面下では、静かに大きなうねりが起きようとしていた。




