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狼竜物語  作者: レオ
83/255

(5)

 戦いの前に宴を催すのは、古来より何処も変わりはない。


 ここドランの家でも決戦を前に、ささやかながら宴が催され、一階では笑い声が時折洩れている。


 そんな喧騒から離れ、三階に残る二頭。


 昔を知る者なら、この二頭が一緒にいるなど、想像も出来ない。


 窓の外は雨もあがり、決戦を前日に控え空は星屑を纏っている。


 空がもう一度星屑を纏う時、こんな平穏な時間は流れてはいないだろう。


「いいな。勝ち目が無いとわかったら、どちらかがマスターを連れて逃げるんだ」


「はんっ!逃げるのは、俺様に決まってんだろ。もともと俺様には、関係ね~事なんだからな」


 それでいいとナーガは思う。


 一番関係ないのは、間違いなくフェンリルなのだ。


「ここまで貴様が、付き合っているとは意外だったな。てっきりとっとと尻尾を巻いて逃げ出すものと思っていたからな」


 逃げ出すチャンスは何度もあった。


 ルークが砂浜で頼んだ時に断る事も出来た、セイドリックにナーガが殺されたかけた時、契約の破棄も出来た。


 それでもフェンリルは、今もこうしてここにいる。


「勘違いすんな。俺様は面白そうだから付き合ってやってるだけだからな。おめぇがやられて泣き面になるのなんて、滅多に見れるもんじゃねぇからな」


 そんなものを見たいが為に、力を蓄えた古き神の討伐に参加するなど正気のさたではない。


 だが口ではこんな事を言っているが、実際はそうではないだろう。


 理由は一つだ。


 不意にドアが開き、理由が現れる。


「あ~二人共いないと思ったらこんなとこで何してるの?」


 無邪気な笑顔。


「マスター、ちょうどいい所に来た。もし私達が勝てないと判断したら、すぐさま逃げると約束して欲しい」


「逃げるって・・・ナーガもフェンリルも負けちゃうの?」


「負けると決まった訳ではないが、勝てる可能性は低いだろう」


 笑顔から一転、今にも泣き出しそうな顔に変わる。


「やだ・・・ナーガは島に行って強くなったんでしょ」


「おめぇなぁ・・・とかげは赤毛との戦いで、あんだけ派手に力を使ってんだぜ。島の僅かな人数で、すぐさま回復出来る訳ないだろ。こいつは召喚された時より弱いぐらいだ」


 そうなの?との問いに頷くナーガ。


「そんなの駄目だよ・・・二人ともすぐに強くなって!今すぐに!」


 駄々をこねるルークに呆れ返るフェンリル。


「そんな都合よく、すぐに強くなれる訳ね~だろ」


 チッチッチと指を振るルーク。


「あるじゃない」


 ナーガとフェンリルを指差す。


「二人で加護を与え合えばいいじゃない」


「お・め・えは相変わらず馬鹿だな。加護つーのは弱っちい人間相手にしか出来ね~んだ。俺様やとかげには何の意味もないぜ」


 フェンリルの言葉に、ルークは短剣を抜き自らの首にあてる。


「いいからやって!」


「オイオイ何一人で興奮してんだ?」


「言っておくけど僕はめっちゃくちゃ弱いからね!二人が負けたら僕もすぐに死んじゃうんだよ。」


 首筋から血がツウッと一筋流れ、肩を赤く染める。


「何をしている!」


「今死ぬのも、明日死ぬのも一緒でしょ」


 ナーガは、フェンリルとアイコンタクトで意思を交わす。

(様子がおかしい)

(ガン飛ばしてんじゃねーよ)


 やはりこの二頭にアイコンタクトは不可能であった。


 ナーガはアイコンタクトを諦め、小声で「マスターの様子がおかしい。一先ずここは加護のまね事で凌ごう」と伝える。


 だがフェンリルは「おめぇの血を飲むなんてお断りだ。ごねて何でもかなうなら俺様もやだやだやだ~」と拒否する。


「マスター。私と負け犬が加護をしあえば満足なのだな?」


 ルークは座り込みコクリコクリと頷いている。


「俺様を無視して、話し進めてんじゃねーよ」


 ナーガは指先を噛み、フェンリルの鼻先に突き付ける。


「早くしろ。私だって不本意の極みなのだ」


 チッと舌打ちをしてフェンリルはナーガの血を舐める。


「ヘドロの味がしやがる。これでまん・・・ぞ・・く・・」


 ルークの方に振り向くと、ルークは既に横になり寝息をたてている。


 ナーガが近づきルークの首の血を拭き取ると、傷は何処にも見当たらなかった。


「どういう事だこれは?」


「酒くっせぇ。誰だガキに酒飲ませたのわ」


 フェンリルはそのまま素通りして一階に向かおうとする。


「待て、何処に行く?」


 フェンリルは振り返る。


「決まってんだろ。それともお坊ちゃまのてめぇは止めるのか?」


 ナーガは床に転がる何かの装置を見つけ手にとる。


 ほう・・・よく出来ているな。


 ここを押せば、赤い液体が流れる仕組みになっているのか。


「私も一階にいる者達に用がある。一緒に行こう」


 かくして宴会芸と称してフェンリルとナーガの不細工な像をバーシルに形作らせていたランスロッドが集中攻撃を受け、阿鼻叫喚の一夜は過ぎていった。


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