(2)
相変わらず人っ子一人いない城下街。
街の中心に向かっているはずなのに、家の間隔は次第に開いていく逆転現象。
そして開けた場所にぽつんと、レンガ造りの三階建ての建物が建っていた。
「凄いとこだろ?周りの人間は皆引っ越して残ってるのはあの家だけだ」
もう何処から何処までが、家の敷地かすらわからないぐらい草は生え放題で、お伽話に出て来る魔女が住んでる家って感じ。
「俺様はやめとく」
踵を返しその場を離れようとするフェンリルを、駄目だよと尻尾を掴んで引きずるように連れていく。
家に近づき僕にもフェンリルが、何故嫌がるのかわかった。
とにかく・・・臭い。
まだ距離があるのに、まるで卵が腐ったような臭いが充満していた。
「出来れば私も遠慮させてもらいたい」
ナーガ迄・・・
「そう言うな。誰一人近づかないのは保障付きだぜ」
その誰一人ってのには、僕等も含まれていればいいのに。
家の扉の蝶番は外れ斜めに傾いているし、壁には大きな穴が開いていて中が覗けてしまう。
無一文の僕等が雨を凌いで、温かい食事が期待出来るだけでも有り難いと思わなくちゃねと無理やり自分を納得させ、ドアを開けるのを諦めて壁の大穴から中に入っていくラルクさんに続く。
「爺さんこいつらが話していた奴らだ。当日迄宜しく頼むぜ」
「部屋は何処でも好きなのを使え」
ボロボロの衣服に爆発したような白髪の老人が、こちらを振り返る事もなく答える。
「研究に忙しいようだ。当日迄我が家だと思ってくつろいでくれ」
臭いから少しでも離れようと三階に上る。
階段は一歩踏み締める毎に白い埃が舞い、足跡の軌跡をその場に残していく。
いつから掃除してないんだろ?
「発明家って何を発明したんですか?」
「この前は除草剤を発明してたな」
除草剤なんて珍しくもないけど・・・
「売れなかったんですか?」
「上手く調合出来た時は、凄まじく効くぐらい優秀でな。ぺんぺん草すら生えなくなるんだが、失敗した時は逆にジャングルになる。しかも、何を調合してんのか時折爆発するのがあってな、そんな物騒な物売れる訳ないだろ」
除草剤が爆発・・・何を調合したらそうなるんだろ?
三階にある一室も埃だらけで「まず掃除かな」とぽつりと呟き、転がっている埃まみれの箒を握る。
「じゃあ俺はこれで」
逃げようとするラルクさんの服を、にこやかな笑顔で掴む。
「手伝ってくれますよね」
明らかに嫌な表情のラルクさんに無理矢理手伝わせ、多少マシになった部屋でフェンリルを枕に横になる。
「また明日な」
ラルクさんへの返事も曖昧なまま、僕は満腹感と疲労で眠りに落ちていった。




