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狼竜物語  作者: レオ
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十章 天才と何とかは紙一重

 リリオル城下街ランドハート。


 リリオル国を立ち上げた、初代リリオル王ランドの勇気を讃え今もそれを冠する街。


 濃い闇に包まれた街を疾走する影が二つ。


 どちらも長い外套を身に纏い、一つはお腹の辺りに何かを抱え、もう一つは明らかに人間ではなく四足の獣である。


 何かを抱えて走る人間が、並走する獣に語りかける。


 聞けば大人ではなく、少年の声だとわかる。


「ねえ、僕はともかくフェンリルの格好は、逆に目立つんじゃない?」


 夏なのに全身を覆う外套を着ているルークは、汗びっしょりだ。


 無一文のルーク達が、外套を買えるはずもなく、何処からかフェンリルが調達して来た。


 どうやって手に入れたか、大体想像つくしねとルークは聞いていない。


 語りかけられた四足の獣は、少年を見る事なく返す。


「潜入するときゃ~こういう格好って相場は決まってんだ。気にすんな」


 はいはいと呆れるルークだが、深夜とは言え城下街なのにすれ違う人もおらず、こんな格好する必要もなかったかなと街の中心に向かう。


 狭い十字路に差し掛かり、初めて人の姿を捉える。


 その男は壁に寄り掛かって地べたに座り、足元には酒瓶が転がっている。


 一見すればただの泥酔者だが、男はルーク達を見ると足元の瓶の方向を変え、ルーク達は指示された方向へと進路を変える。


 狭い路地を暫く行くと、営業中の場末の酒場らしき店のドアから光が洩れており、二人はその店に飛び込んだ。


 店の中は四人かけの丸テーブルが五つ、大きな店ではないが、それでも客が三人しかいないのは寂しい。


 その内の一人はルークの見知った顔で、にこやかな笑顔で出迎える。


「ようやく到着したな。ナーガの怪我はもういいのか?」


「あっち~ぜ。真夏に外套なんざ着るもんじゃねぇな」


 自分でこういうもんだって言ってたのにと、僕は呆れながら外套を脱いだ。

 

 お腹に抱えられたナーガは涼しげな顔で「修業が足りないからだ」と呟いているが、抱えていた時お腹の辺りは冷たく、夏は氷の魔法使えたら便利だよねと笑う。


「元気そうで安心した。じゃあ早速俺の今の主人に会って貰おうか」


 ラルクさんは店の酒瓶の並んだ大きな棚を横から押すと、棚はスライドし背後に階段が現れる。


 お前達はしっかり見張っていろよと、ラルクさんが指示すると店の主人と客だと思っていた男達が頷く。


「一応王族だから粗相のないようにな」


 階段を上っていくラルクの後を、ルーク達も続いていった。


 明かりもない薄暗い階段をラルクさんに続いて上り、突き当たりのドアを開けて中に入る。


 ランプの光りに照らされた小さな部屋。


 小さな窓には、光りが洩れないようにカーテンがされており、部屋の中央には四角いテーブル、ラルクさんが頭を下げる先にその人は座っていた。


 座っていてもわかる長身、肩まであるサラサラの金髪、整った顔立ちは、まるで絵本から飛び出して来たようなまさに王子様。


 傍らの付き添いの従者らしき人が、こちらに声をかける。


「その者達がそうか?」


 多分王子様と同じぐらいの年頃なんだろうけど、こちらは小肥りあばた顔で、申し訳ないけど非の打ち所のない王子の引き立て役にしかなってない。


 ラルクさんがそうですと答えると、王子は驚きの色を浮かべ、従者は信じられんと呟く。


「時間がないので、出来るだけ手短に」


 ラルクさんに催促され、ラインハルト王子が口を開く。


 「自己紹介もまだだったな。私は元リリオル王位継承者第一王子ラインハルト。こちらは従者のパパスだ」


 まるで心地好い音楽を聞いているような、流れる旋律に聞き惚れて固まってる僕に替わってナーガが「私の名はナーガ、そちらの少年が私のマスターでルークだ。以後お見知りおきを」と自己紹介。


 俺様を忘れてんぞとフェンリルも自己紹介して、総勢六人だけの会議が始まった。


「街を見てくれたかな?城下街とは思えぬ程寂れていて驚いただろう。これも我が父リリオル王の、長きにわたる悪政によるものだ。私は国を救う為に、リリオル王グスタフを討つ!あのセイドリックを倒したと言う君達にも、是非協力してもらいたい」


 王子が宣言したのは反乱。


 知られればそれだけで、首と胴がさよならする重罪。


「私達も目的は一緒であるから望むところではある。だが・・・その言葉は本物の王子から聞かせてもらおうか」


 へっ?本物の王子様って?


 ナーガの視線は椅子に座っている完全無欠の王子ではなく、傍らに控えるあばた顔の冴えない青年を捉えていた。


 さっきまで完全無欠だった王子様は挙動不審になり、こちらも従者の方をチラチラ見ている。


「パパス。それではすぐに偽物だとばれてしまう」


 パパスと呼ばれた元王子がすみませんと立ち上がり、替わりに従者であったはずの男が椅子に座る。


「騙すつもりがあった訳ではない。反乱が成功した後も、この男がラインハルトとして国を率いる予定だ」


 椅子に座った従者が僕等に宣言する。


「私が本物のラインハルトだ」  


 非の打ち所がない青年が偽物で、どちらかといえば不細工な部類に入る方が本物の王子様。


 世の女性全てが、嘆き悲しむ衝撃の事実。


 それにしてもナーガはよく見抜いたよねと思ってたけど、後から聞いたらラルクさんに聞いてて最初から知ってたんだって。


 僕やフェンリルに教えなかったのは、素の反応が欲しかったらしい。


 よくわからないけど、大人の駆け引きってやつがあるんだってさ。


 今まで黙ってたフェンリルが、初めて口を開いた。


「影武者ってのは、普通そっくりな奴がやるもんだぜ。不細工なおめぇとそいつじゃ似ても似つかないじゃねーか。おめぇの家の鏡は割れてるのか?それとも目が悪いのか?」


 うわっ・・・思ってても言えない事をさらっと言った。流石トリプルS。


 慌てるラルクさんをよそに、本物の王子様は怒るでもなく、苦笑する訳でもなく、ただ淡々と「私の家の鏡は割れてはいないし、目も悪くはない」


 薄暗いランプの光りに照らされた表情は、僕等を値踏みするように真剣なまま語る。


「私が王位継承権を剥奪されたのは、十にも満たない頃だ。そんな者に近寄って来る者もいないし、成人した私の顔を知っているのは極々一部だ」


 抑止力を失った国を素早く纏めるのは、強力なカリスマを持った人物が必要なんだと、ナーガが言ってた後の事を王子様は考えてた。


「カリスマとは見た目も多分に含まれる。私は自分をよく知っている。父をただ排除するだけでは、国民はついてはこないだろう。人間とは悲しい事に見た目で判断する生き物だからな」


 自分が不細工な事をわかってるならそれでいいんだって、相変わらずフェンリルは失礼で容赦ない。


「それで準備出来た兵力はいかほどか?」


 ナーガの問いに返って来た答えは三百。


 相手は王城だけで三千、街に点在している兵士詰め所を併せれば五千はくだらない。


 三百対五千かぁ・・・やる前から絶望感が漂う。


「私財を全部投げ売ってもそれが限界だ。時間稼ぎの策はあるが、その間にあんた達が王を討てるかにかかっている」


 あんた達ってなんだか他人行儀な感じのラルクさんが、作戦を説明してくれた。


 決行は三日後の夜。


 僕とフェンリルは、王族専用の隠し通路を使って城に潜入。


 最初ナーガは、ラインハルト王子達と行動を共にして、後から僕と合流して王を討つ。


 ナーガが別行動なのは、その見た目が必要なんだって。


「私達に王を討たせ、王子自ら討った様に見せるのは理解した。だがラインハルト王子自ら討っても良いのではないか?」


 ラインハルト王子は、父王が違反者と入れ替わっているのを知らないのに、なんでナーガはこんな質問をするんだろ?ただの人間である王子に、神様が倒せるとは思えない。


「私に出来るのであればやっている。父は…いや、あの男は人間だと思えない」


 王子は組んだ手に爪が食い込むぐらい力をこめて、何度も腕利きの暗殺者を送り込んだが、かすり傷一つ負わせられず全て返り討ちになった事を告白する。


「人間だと思えなくなったのはいつ頃からだ?」


 さっきまでラインハルト王子だったパパスさんが、心配そうに王子を見る。


 王子は静かに大きく息を吐く。


「私と君達は一蓮托生だ。こうなったら全てを聞いて欲しい。昔から父は好戦的な性格だったらしいが、大きく変わったのはあの事件があってからだ。もう十年以上も前に、私にはエイシアという姉がいた」


 王子の告白はずっと心に秘めていた、父に対する深い恨みの吐露だった。


「もう・・・あの事件があってから十年以上になる。私の姉エイシアは、私と違い聡明で見目麗しく、国民全てから愛されていた。隣国から求められて婚礼が決まった時も、国をあげて祝福された。だが婚礼が近付くにつれ姉に変化が訪れた。父や母に婚礼の破棄を訴え始め、夜に度々部屋を抜け出すようになった。」


 王子は一呼吸おき、静寂が部屋に訪れる。


「あろう事か婚礼が決まった身でありながら、男と密会していたのだ」


 何で男の人と会ったら悪いんだろ?ふと思ったけどその場の雰囲気は明らかに、僕の考えは場違いだと伝えて来る。


 大人って難しい。


「姉は母に、本当に好きな人が出来たと言っていたそうだ。政略結婚の道具としてこの国に嫁いで来た母は、姉に理解を示し父に婚約の破棄と二人の仲を認める様に訴えていたそうだ。それが結局悲劇を招いた。」


 母親はいつだって子供の味方なんだと、僕の父さんは言ってた。


 悲劇の結末を王子は語る。


「ある夜父は母を惨殺し、姉と間男の密会現場に乗り込んだ。まだ子供だった私はその現場を見てはいないが、人としての原形を留めない程切り刻まれ、凄惨な状態だったそうだ。父は完全に狂ってしまったようだった。私の王位継承権を剥奪し幽閉して、姉が婚約していた隣国に攻め込んだ。度重なる戦争に国は疲弊し、国民の生活は困窮している。」


 人として原形を留めない程切り刻まれるって、家族なのにそこまで出来るものなのだろうか?


 ううん・・・家族じゃないから出来るんだよね?


 僕も見てきた。戦争は数限りない悲劇と人だった者を生み出す。


 これから僕が飛び込んで行くのは、そんな場所なんだ。


「国民を救う為に王子は起つのか?」


 ナーガの言葉に、王子は頭を振る。


「間違いを犯したとは言え、私にとって姉はいい姉だった。母もだ。私は小さな人間だ、家族を奪ったあの男を許せない。私も歳をとって多少は人の気持ちはわかるようになった。自分の好きになった人と、添い遂げる事も出来ない王族などに最早興味などない。国民の為などではない、これは完全に私怨だ。そんな物に捕われる小さな人間に、国民を導く資格などないだろう?」


「発端が私怨であろうと、結果的に国民が救われるならそれはそれでいい。その間男の身元は割れているのか?」


 ナーガは反乱の理由には、さして興味を示してないみたいだ。


「いや生きている内に会ったのは、父と母と姉の三人だけだ。王城に夜に忍び込めるならどっかの貴族の馬鹿息子だろう。何しろ遺体は原形を留めてないのだ、不始末は隠しておきたい親である貴族も、息子がいなくなったとの訴えは出ていない。」


 マオトコって名前までわかってるのに、身元がわからないなんて不思議。


 再び訪れた静寂を破って、部屋にいる全員に聞き取れるぐらいの大きな音が響いた。


 グ~キュルルルル


 全員が音の発生源を見て、カ~と真っ赤になる僕。


 だって仕方ないじゃない。


 お金も食料も無くして、僕は文字通り道草を食べて飢えを凌いだんだよ?


 薬師になる為に、食べられる草を知っていたのが幸いした。


 いつもは勝手に食べるフェンリルも一切手をださなかったけど、草だけでお腹一杯になる訳無い。


 うう・・・お肉が食べたい。


 一切笑いを浮かべなかった王子が明らかに笑いを堪えて「お客人は空腹のようだ。ラルク私は戻るから後は頼む。幽閉されている人間がいつまでも出歩いていてはおかしいからな」と席を立ち、パパスさんと部屋を出ていき部屋には僕等だけが残された。


「彼の印象はどうだった?」


「特にどうという事はないな」


 ラルクさんに答えたのはナーガ。


 僕とフェンリルは、ラルクさんが一階に頼んで運ばれて来た料理を、皿に顔を突っ込むくらい貪る様に食べていて、答える余裕はない。


「手厳しいな。あれでも中々に頭はキレるんだぜ」


「三百対五千の戦いに挑むのは、頭がいいとは言えないと思うがな」


 う~んそうだけどさ。


「でもさ、それって僕等も頭が悪いって事?」


「俺様達とあいつじゃ目的が似てるようで違うだろーが。要するにあいつは俺様達の囮として使われてるだけだ」


 ラルクさんが頭をかきながら、こっちも手厳しいなと苦笑する。


「食い終わったなら隠れ家に移動するぞ。明日には助っ人も来るからな」


「助っ人って?」


 御馳走様と手を合わせる。


「まさか隠し通路が簡単に通れるなんて思ってないよな?場所はわかってるが、外側には鍵穴も無いし、開けるにはそれなりの技術が必要なんだぜ」


 王子のカリスマを引き上げる仕掛けや城門を開ける為の人間、鍵開けの技術を持った人材は全てギルドに頼んだらしい。


 その金額を聞いたら零が幾つつくの?ってぐらいの金額だった。


 王子には信頼出来る側近もいないし、他言無用の作業を頼めるのは、ギルドしかないから仕方ないとラルクさんは笑う。


「若いが腕のいい鍵開け職人がギルドに入ったらしい。道案内人もつけてるから、当日はその二人についていってくれ。俺は王子やナーガと行動を共にするからな」


 僕等が頷いたのを確認すると、ラルクさんはドアを開ける。


「さ~て当日迄は、ドランて自称発明家の家に匿ってもらうからな。街の中心に家があるのに、少々の騒ぎなら誰ひとり近づかない恰好の隠れ家さ」


 自称発明家・・・僕がドランてお爺さんが、奇人変人の類で有名人だと知ったのは後の事だった。

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