(9)
「負けた、負けた。お前何者なんだよ」
決着をつけた槍は貫通こそしていないものの、それは鎧が防いだだけで身体の中で砕けた槍は、内臓をズタズタに引き裂いている。
常人なら瞬時に絶命してる程のダメージで、血を吐きながらも命を繋ぎ止めているのは驚愕と言えた。
「私はかつて人間が神と呼んだ者だ」
今はナーガを含めて、神と呼ぶに足る程の力を持つ者は少ない。
「冗談きついぜ。神なんざいる訳ねーだろ」
「冗談ではない。貴様とて古き神の加護を受けているからこそ、それだけの力を有している」
「・・・加護なんか受けてねーよ。全部俺の力で手に入れてきたもんだ」
セイドリック自身は、加護を受けたのを知らない。
神界でも討伐者に知らせる事無く、加護を与える事はよくある。
「思い出せ。貴様が常人では考えられぬ程力を伸ばした時期があるはずだ」
セイドリックは少し考え込み、思い当たる事があったのか寂しげに笑いを浮かべる。
「なんてこった。あのジジイ人間じゃねーて訳か・・・俺はお前ら神ってやつの玩具じゃねーんだぜ」
「人間もお前の玩具ではない」
玩具さとセイドリックは独白する。
「神のお前に頼みがある。ウランは俺には関係ねえ。俺が死んだらあいつは自由にしてやってくれ」
これまでしてきた事を考えれば、都合のいいお願いだがナーガは答える。
「死にゆく者の最後の願いだ。叶えなくもない。だがそれには交換条件がある」
ナーガの交換条件を聞いて、セイドリックは最後の笑い声をあげる。
「神ってやつも案外ちっちぇーな。乗ったぜ。今の俺には出せるもんなんかねーからな」
ナーガは飛竜の氷の鎖を解き放ち、セイドリックは契約破棄の誓言を唱える。
そしてセイドリックは、最後の言葉をナーガに向かって放ち動かなくなり、ナーガはその場を後にした。
ゆっくりと僕の方に歩いて来るナーガは、傷だらけで楽な戦いじゃなかった事を物語る。
「心配をかけたな」
僕は黙って頷き、手当をしようとして鞄を落としてしまった事に気づき、自分の服を破りフェンリルに炎を生み出してもらって炙って消毒をした布を、小さくなったナーガに巻き付けて止血していく。
「傷だらけだな。既に人間雇って準備してたなんて、俺様を騙した天罰が下ったんだな」
「別に騙してない。聞かれなかったから言わなかっただけだ」
しれっと答えるナーガに、絶句する僕。
フェンリルはフフンと鼻で笑い。
「てめぇの舞台に引き込んでおいてなっさけね~戦いしやがって。所詮十万の価値しかねー奴なんざその程度よ」
今度はナーガが鼻で笑った。
「残念だが私の懸賞金は百一万だ。セイドリックが、いまわの際に私の懸賞金を上げた」
「そんなの無効に決まってんだろ!大体懸賞金支払う奴が死んじまってんだからな」
「そうだな。残ったのは私にかけられた懸賞金が、貴様より上という事実だけだ」
絶句するフェンリル。
その懸賞金をかけた人物は、氷の槍に貫かれ物言わぬ骸になっている。
さっきまでナーガがいた場所に今は、身体を引きずるようにして来た飛竜が陣取り、僕等を威嚇している。
それを見つめる僕に「奴と飛竜は逃がしてやると約束した」とナーガ。
セイドリックは好きになれないけど、自由になったはずの飛竜が亡くなった主人を、必死に守ろうとする光景を見て僕の胸に、寂しいというか羨ましいというか何とも言えない感情が湧き起こる。
召喚術はその人間に必要な者が呼び出される。
セイドリックは飛竜に何を求め、飛竜は何をセイドリックに求めたんだろう?
「他の人間にはともかく、飛竜にとって奴はいい主人だったのだろう」
僕が考えてる事を読み取ったナーガが囁き僕は頷く。
きっと契約だけでない何かが、そこに存在してたんだ。
「僕等だって負けてないよね」
ナーガは頷いてくれたのに、フェンリルは「あ~ん?俺様が逆の立場だったら、マスターの死体なんざ放り出して逃げるぜ」って…
じとめで睨む僕にボソッと「死んだらそこで終わりさ」と街の出口に歩き出すフェンリル。
口は悪いけど僕は、フェンリルにこう言われた気がした。
死んだら終わりさ。
だから、僕を死なさないって・・・勝手に思う位いいよね?
最後の戦いが、とても厳しいものになるのはわかってる。
僕に何が出来るかもわからない。
だからせめて僕の心の中で誓わせて。
僕も二人を絶対死なせないって。
王と呼ばれた者しか入れないリリオル城の一室。王座に腰掛けた男は一人ごちる。
「セイドリックが死んだか・・・オーディンめ、どんな手を使ったのか知らぬが本物だな」
男は思う。何かを成し遂げる者は、得てして常人には考えもつかぬような僥倖にありつくものだ。
男は既に僥倖を得、神界は事実をひた隠しにして十年という長い時間を得た。
「オーディン貴様が今更何を仕掛けようがもう無駄だ。既に私の力は貴様は疎か、魔界の長すらも上回る」
男は立ち上がり独白する。
「ナーガとフェンリル。貴様達は全世界の唯一神となる私への供物になるがいい」




