(8)
剣を振るう度に、血が舞い身体が軋む。
舞う血はナーガだけでなく己の傷からも噴き出し、もう止めようとセイドリックの身体が訴える。
極限状態の中、セイドリックは笑っていた。
「楽しいよな!」
剣は空を斬り、身体が軋む。
体勢が僅かに崩れた所に、ナーガの生み出した槍が襲いかかり、セイドリックは鉄甲で槍を砕く。
砕け散った破片が、更に細かい傷を刻んでいく。
「楽しいのは貴様だけだ!」
反転する勢いを利用した尻尾の一撃は、確かな手応えと、セイドリックの切り返しによる痛みをナーガに伝えて来る。
新たな傷が尻尾に増え、セイドリックと対峙するナーガもいつしか笑っていた。
「左腕にひびぐらいはいったか」
尻尾を受けて、痺れるセイドリックの左腕は力が入らない。
殆ど視界が効かなかった視界は段々と開け、今は観客である少年と狼の姿も捉えている。
死闘を見守るルークは、瞬きすら許されない戦いにただただ息を飲む。
翼が傷ついたナーガは、接近戦を選んだ。
接近戦が苦手だと思っていたナーガは、セイドリックと互角以上に渡り合っている。
三対一でやれば楽なものなのに、それはほかならぬナーガが拒否した。
「勝てるよね?」
傍らのフェンリルは、興味なさ気な顔をしているが視線は真剣そのものだ。
「さあな。そろそろ決着がつくぜ」
ナーガとセイドリックは、大きく距離を取る。
ナーガは全身に力を込め翼を拡げ、セイドリックは腰溜めに剣を構える。
どちらもこの一撃に全てを賭けようという構え。
先に動いたナーガが、力強く地を蹴り超低空飛行のまま、もの凄いスピードで直線的にセイドリックに迫る。
セイドリックは慌てる事無く、射程に捉えるギリギリ迄待ち、渾身の力を込めた神速の横薙ぎ。
筋肉が捩切れる様な生涯最高の一撃は、ナーガを確実に捉え切断するが、その姿は水となり空中に飛散する。
その刹那背後に浮かぶ気配と姿に、セイドリックは無理な体勢のまま背後に剣を振るう。
「うらぁっ!」
筋肉が断裂する音を立てるが、もう一度剣はナーガを切断する。
しかし手応えは無く、ナーガの身体は揺れ空中に四散した。
その瞬間肘に激痛が走り、セイドリックの眼は腕を噛みちぎる竜のあぎとと、宙を舞う剣を握ったままの右手を捉える。
「終わってねえ!」
宙を舞う右手を痺れた左手で受け止め、再度ナーガに向けて振るうが幾つも生み出された氷の槍が、ナーガに届く前に空中に最後の一撃を縫い止める。
「貴様の負けだ」
至近距離からナーガの生み出した槍は、鎧の隙間からセイドリックの身体を貫いた。
「ねえ、何がどうなったの?」
ナーガが勝ったのはわかるけれど真横から見ていた僕は、ナーガとの距離はまだかなりあったのに、セイドリックが剣を振ったのがわからなかった。
身体を小さくしながらセイドリックに接近していくナーガ、空中に剣を振るうセイドリック。
二人の間の空間が歪んでいったのは見えたから、魔法を使ったんだろうという予測だけは出来た。
「ん?レンズってやつさ。奴の目には、間近にいたように見えたはずさ。二度目はとかげが生み出した鏡、結局目に頼っちまった奴の負けさ」
「フェンリルはよく知ってるね」
「俺様も、散々あれには苦労させられたからな」
そうなんだ。
二人はラグナロクで戦った事があるもんね。
戦い終わったナーガに近づきたいけど、その場の雰囲気が近づく事を許さない。
フェンリルもそれを感じ取っているみたいで、二人して遠巻きにナーガとセイドリックを見ていた。




