(7)
ナーガは素早く思考を巡らせる。
セイドリックの使い魔である飛竜は地面に縫い付けており、位置も魔力を通した霧により把握出来る。
徹底的に利を活用すれば、セイドリックは手も足も出なくなるはずだ。
そう判断したナーガは霧の中にその身を溶かし、空からのロングレンジの攻撃を選択する。
常人なら視界の悪い中かわす事など出来ぬ槍を、セイドリックがかわしていくのを感じ取り、ナーガは僅かながらの焦りを感じる。
気象条件に合わぬ生み出した霧を、維持するのにもかなりの力を使っている。
かわしようのない絶対零度結界は、力を使いすぎて倒せなければ完全に後が無くなる。
霧の中からセイドリックが挑発する。
「なんでえ芸のない奴だな。さっきから馬鹿の一つ覚えみてえに、安全なとこから撃って来るだけ。それとも俺とまともにやり合うのが怖いか?」
「そんな挑発は無駄だ。現に貴様は手も足も出ないではないか」
セイドリックがいる場所が、放射状に明るくなる。
「だな、やっぱり同じ高さにいなきゃ不公平ってもんだろ」
放射状の明りが、ナーガに向かって飛んで来る。
先程セイドリックが入った家で手に入れたのだろう、火のついた瓶がナーガの数メートル手前で力を失い落ちていく。
「射て!」
セイドリックの号令と共に響く無数の風切り音。
霧は相手の視界を妨げるが、ナーガ自身の視界も狭める。
完全にかわすのは無理だと判断して、的を小さくすべく身体を小さくしていくが、翼や肩口に矢が突き刺さる。
人が周辺に集まって来ていたのは知っていた。
霧で人の位置を把握は出来るが、それがセイドリックの配下なのか、ただの街人なのか迄はわからない。
何よりセイドリックに、配下を呼びに行く間等無かったはずだ。
地表に不時着し、身体に刺さった矢を抜いていく。
「これで平等ってもんだな」
完全に槍をかわすのは無理だったのだろう。
無数の切り傷を刻んだセイドリックが、ナーガに近づいて来る。
「ん~?俺の無能部下どもが集まって来たのが不思議な顔だな。人間ってのは本当に駄目な生き物だと思わね~か?せっかくお前に助けられたってのに、金をちらつかせたら簡単にお前を裏切るんだぜ」
セイドリックの配下を呼んで来たのは、あの人質になっていた夫婦かと納得する。
ナーガは素早く自分の状態を確認する。
まだ飛べる、そしてまだ戦える
「人間なんて皆こんなもんさ」とセイドリックは笑い、持っている瓶に火をつけ投げる。
瓶はナーガの間近で割れ炎を上げた。
「まあまあ楽しかったぜ。名残惜しいが終わりだ、射て!」
セイドリックの号令は、そのまま霧に溶け静寂へと変わる。
「貴様はろくな人間に会って来なかったようだな。私は恐怖にも屈っせず絶対に裏切る事の無い人間を知っている」
もっとも私もあの少年に出会う迄、似た様な考えだったとナーガは自嘲する。
霧の中からその少年の声が聞こえて来る
「ナーガ大丈夫?」
続いて狼の声。
「ぶひゃひゃひゃやっぱやられてやんの。俺様に露払いさせてねーでさっさと変わりな」
貴様は余計だとナーガは立ち上がる。
「小細工無しの第三ラウンドといこうか」




