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狼竜物語  作者: レオ
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(4)

 フェンリルは壁を吹っ飛ばし、知らない家の食卓の上を駆け抜ける。


「もうすぐ着くよ」


 乗っているフェンリルからの返事が返ってくる。


「そうモグモグだなゴクン」


「なんか食べてる?」


 食料が入ってた鞄は落としちゃったし、何処で手に入れたんだろう?


「さっき落ちてただろ」


「拾い食いはしちゃ駄目だよ」


 別に落ちてた訳ではないし、拾い食いより人の家の物を、勝手に食べる方が問題である。


 そんな根本的な間違いに気づかないまま、二人は壁をぶち抜き目的地に到着する。


 さるぐつわをされ首に縄をかけられ、絞首刑用の台にあがらされている兄と妹。


 下にあるつっかい棒を外せば足元が観音開きになり、そのまま首を吊る仕掛けだ。


 執行人であろう二人の兵士が、剣を抜き向かって来る。


「任せる」


 僕は兵士を無視して絞首台に駆け出し、返事をするよりも速く兵士を叩き伏せるフェンリル。


 数段の階段を駆け上がり、少女の縄を切りさるぐつわを外す。


「お兄さんもすぐに助けるからね」


 少女からの返答は意外な答え。


「その人知らない人」


 縛られていたはずの男が、白刃を僕と少女に向かって振るう。


 少女を庇うように覆いかぶさると、足元がガタンと音を立て開き三人はそのまま真下へと落下した。


「いたたたた・・・」


「大丈夫ですか?」


 僕を下敷きにしている少女が、上から聞いてくる。


「重いからのいてくれると助かります」


 顔が良くても、これでは女の子にモテない。


 正直過ぎるのも問題である。


「おめぇは本当に考え無しだな」


 呆れた顔をするのは装置を動かしルークを助け、既にその男をのしているフェンリル。


「そんな事言ったって会った事ないんだから、家族かどうかなんてわからないじゃない」


 俺様はわかっていたぜとフェンリル。


「家族つーのは不思議と匂いも似るんだ。全然違う匂いだったじゃねーかよ」


 加護が眼じゃなくて鼻だったら良かったのに・・・動態視力が上がっても身体がついてこれず、フェンリルのビンタが避けられない。


 殴られてる瞬間を、前よりハッキリ見れているだけだ。


「次は何処に行けばいいのかな?」


「私のお母さんは二番、お兄さんは三番と六番の間にある学校にいるって言われました」


 救助した少女が遠慮がちに答えるが、その瞳には期待と懇願の色が混じっている。


「やっぱそう来たか。わかってんだろうが行けるのは一カ所だけだぜ」


 それはどちらかを見捨てると言う事。


 救助した少女にどちらかを選ばせるのも酷であり、どちらを選択すればいいのか迷う。


「お困りのようだな。俺の力が必要か?」


 フェンリルが空けた壁の大穴からではなく、本来の入口からその声は聞こえた。


 懐かしいと言う程古くはないが、確実に知っている人の声。


「ラルクさん?」


 入口に佇む男は白衣こそ着てはいないが、確かにラルクだった。


 初めて会った時のような白衣ではなく、何処にでもいるようなラフな格好。


 仮にこの人が神様ですと言われても、新興宗教の教祖か詐欺師か頭がイタい人ぐらいにしか思われない。


「てめぇはゴキブリみてぇに何処にでも出てきやがんな」


 フェンリルの言葉に、ラルクは苦笑を浮かべる。


「ひでえ言われようだな。劇なら真打ち登場とか最も盛り上がる場面だろ」


 僕はラルクさんに駆け寄る。


「何で此処にいるんですか?」


 よくぞ聞いてくれたと、ラルクは髪をかきあげた。


「ナーガに頼まれていたからな。助っ人を引き連れて格好良く登場ってやつさ」


「なんでぇ結局使い走りじゃねーか」


 フェンリルの言葉は容赦ない。


「助っ人って誰が?」


 僕の疑問にラルクさんは「雇ったギルドの連中さ」と答える。


 ギルドと聞いて不安になり「ギルドって盗賊ギルド?」と質問すると、そうだの返答にルフツネイルでの出来事を話す。


「そいつは知らなかったが、問題は無いと思うぜ。依頼が継続してれば、こっちの依頼は受けないだろうからな。ナーガも人使い荒いぜ。ギルドの依頼料は、めんたま飛び出るぐらい馬鹿高いからな。こんな短い間に用意するのは大変だったんだぞ」


 盗賊ギルドには鉄の掟があり、依頼を受けている間は絶対に裏切らない。


「依頼料てどうやって工面したんですか?」


 もしかして神様だからお金も作り出せるのかな?


「城の宝物庫に忍び込んで、二~三個借りてきた」


「それちゃんと返すんですよね?」


「ラインハルトが王様になったら、宝物庫の宝もラインハルトの物になるんだ。ちょっと前借りしてるだけさ」


 ルークの中の神様株が、値下がりした。


「でもいつの間にそんな準備してたんです?」


「島でナーガに会った時に、道中の安全確保は頼まれてたのさ。依頼し終わったところでリリオルの兵士が、ナーガの言伝を預かっているってギルドに来てな、こちらは先にリイムに乗り込んで待ち構えてたって訳さ」


 島でナーガに会ったんなら、僕にも会って行ってくれれば良かったのにと頬を膨らます。


 実際会ってはいるのだが、女装していた等とラルクは絶対に言わないだろう。


「あんのトカゲが!な~にがどんな策があろうが、正面から打ち破るだ!チマチマと裏でやりやがって、これだから神界の連中はいけ好かね~んだ!」


 フェンリルは激昂する。


「ナーガって頭いいよね~」


 感心している僕を見て、フェンリルの怒りの矛先が向けられる。


「おめぇも何ヘラヘラ笑ってやがる!いいかおめぇにも黙ってたつ~事は、おめぇは奴にマスターとして認めてもらってねーって事なんだぜ」


 そうなのかな?


 でもそれを怒っているフェンリルは、僕を認めてくれてるって事かな。


「フェンリルは、僕をマスターとして認めてくれてるんだね」


 激昂していたはずのフェンリルは、途端に冷静な表情に戻った。


「チッ俺様とした事が・・・冷静に考えてみりゃあ、おめぇに喋る訳ね~わな」


 どういう意味か問いただすと泣いてしまいそうな気がして、僕はそれ以上聞くのをやめた。


「じゃあ大事な事は伝えたし、俺は首都に帰るわ」


 手を振り踵を返して帰ろうとするラルクさんの背中に僕の声が追いかける。


「ラルクさんは手伝ってくれないんですか?」


 何で?という顔でラルクは振り返る。


「俺弱っちいし」


 ラルクさんと視線が合い、僕はですよね~と頷く。


 神様株がストップ安になった。


ラルクは真っ直ぐなルークの視線に、慌てて釈明を始める。


「セイドリックが怖いんじゃないぞ。俺も一応神界に身を置く神だからな、人間に直接手を出すのは禁止されてるからやらないだけだからな」


 ウンウンと頷くルークの顔には、何の感情も浮かんでいない。


「お、俺だってちょっと前迄は、風神のサイ・・・じゃなくって・・・サイ、サイ・・・そうっ!風神のサイクロンて二つ名があるちょっとした有名人だったんだぞ」

 

 風神でサイクロン・・・神様てネーミングセンス無いのかな?ルークの神様株は底値なので、これ以上は下がらない。


「わ~ったから雑魚はもう消えな」


 フェンリルは相変わらず容赦ない。


「ルークが喜ぶと思ってプレゼントしたから弱っちくなったんだからな」


 プレゼント?何も貰ってないと僕は首を捻る。


「ナーガの島で懐かしい奴に会えただろ?」


「じゃああれは本当に・・・」


 ウインクするラルクさんに、僕の胸が熱くなる。


 ルークの神様株がストップ高になった。


 非常に乱高下の激しい評価である。


「死んだ時に魂を回収して保存しておいて良かったぜ。でも一人で転生なんてやるもんじゃないな。一頭やるだけで消える寸前迄力持って行かれたからな」


 それはその場にラルクが既にいたと言う事なのだが、感動で胸が一杯のルークは気づかない。


「俺様は赤毛のゲームからはリタイアすんから、地図は持っていきな」


 感動に震えるルークをよそに、フェンリルは地図をラルクに渡し、自ら空けた壁の穴から出て行こうとして立ち止まる。


「・・・あのやろう・・・今回はマジになってやがんな」


 リイムの街は濃い霧に包まれていた。


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