(2)
商業都市リイム。
昔からリリオルの輸出入を商っていたが、殆どの国との国交が断絶してからは、寂れる一方の街。
それでも昔の栄華の名残りか、煉瓦造りの二階建ての家が並び、今でもそれなりの人口を保っている。
僕等はリイムに入るなり、セイドリックの熱烈な歓迎を受けた。
雨のように降り注ぐ矢と所狭しと並ぶ兵士・・・ではなく、本当の熱烈な歓迎。
街の入口には、歓迎フェンリル様御一行の垂れ幕。
フェンリルは名前を教えてないって言ってたから、違反者のヨルムンガンドから聞いたのだろう。
ナーガはそれを見て、自分の名前じゃないのに憤慨してたけどね。
今も十人程の街人に囲まれて、僕等の目の前には沢山の料理が運ばれて来る。
何が入っているかわからず、僕とナーガは自前の食料を食べてたけどフェンリルだけは「うめ~なこれ。毒なんて入ってねーぜ、おめぇらも食える時に食っておきな」てパクパク食べてた。
フェンリルの鼻は信じたいけど、無味無臭の毒物もあるからね。
食べながらもフェンリルの耳は細かく動き、警戒は怠っていない。
歓待している街人は皆笑顔で、悪意は感じられないけど眼には脅えの色が見え、何故か仕切りに自己紹介を繰り返し、こちらからセイドリックの事を聞いても答えをはぐらかし、一向に要領を得ない。
相変わらず無遠慮に、出された料理をぱくつくフェンリルに、そっとセイドリックの事を聞くと「臭いがバラけて何処にいるか迄はわかんねーが、間違いなくこの街にいんぜ」と料理を貪る口を休めずに返答。
噛んでいた料理を飲み込み「白トカゲとどっこいどっこいの、ブッサイクな緑トカゲはあの建物だ」と窓から見える倉庫らしき建物を指差す。
いるのに姿を現さないセイドリックに、この異様な歓迎。
何を企んでいるのかわからないだけに、嫌な予感しかしない。
フェンリルの悪口に、眉間をピクピク痙攣させるナーガ。
うん、やっぱり嫌な予感しかしない。
歓迎会がお開きになり、案内された部屋の前でも歓待してくれた街人達は、僕の手を握りながら再度の紹介。
そこには何故か懇願の色さえ見える。
余りに何度も何度も自己紹介されるものだから、短い時間でも全員の顔と名前を覚えてしまった。
え~とパン屋のストレージさんに、飲食店経営のナンさんに、専業主婦のイリアさんに…職業はバラバラで共通点は見いだせない。
あえて共通点をあげれば、リイムの住人て事ぐらい。
部屋に入り外を伺うも街は平常のようで、そこに何かあるようには思えない。
僕等はすぐに気づかれないように部屋を抜け出し、街に出て物陰からその建物を見張る。
歓待してくれていた街人達が建物から出て来て、一様に僕等が案内された部屋を見上げ、中には手をあわせて拝む人、お辞儀をする人がいて皆それぞれの方向に歩き出す。
「誰を追い掛けるの?」
傍らの二頭に声をかける。
「あいつらよりも、確実に戦力を削ぐ為に、飛竜から先にやろうぜ」
フェンリルの意見に賛同し、飛竜の臭いがするという倉庫に急ぐ。
倉庫前に到着した僕等の目に飛び込んで来たのは、歓迎フェンリル様のノボリを持って佇む男。
「どういう事?」
「俺様達の行動は、読まれてたって事だな。俺様を御指名のようだから行ってくるぜ」
フェンリルがノボリを持った男に話し掛け、男から何かを渡され戻って来る。
「チッやられたぜ。緑とかげはあそこにはいねぇ。もう別の場所に移動してるぜ」
フェンリルがくわえてる物は三枚の地図。
三枚とも同じこの街の詳細な地図で、十箇所に印がしてあり一から十迄番号がふってある。
これ何だろうね?といぶかしむ僕等だけじゃなく街全体に響く、配管を伝い魔術で増幅させたセイドリックの声。
「最後の晩餐は楽しんでもらえたか?」
それがセイドリックの考えたゲームのスタートの合図だった。
「何処から喋ってるの?」
ナーガは、忌ま忌ましげに上を見詰め。
「反響を利用して居場所を特定出来ぬようにしている」
それなら臭いでと、フェンリルを見る。
「奴の臭いの付いた物を身につけて、歩き廻ってるのが沢山いて特定は難しいな」
何の手も打てないまま、セイドリックの話しを聞く。
「番号が振られた地図は受けとっただろ?まずは三番と八番だ。三番にはナンの家族、八番にはバンチの家族が待っている。制限時間は三十分だ。見捨てるのも有りだが・・・行かなきゃ死ぬぜ」
ナンさんもバンチさんも、歓待してくれていた人の中にいた。
でも行かなきゃ死ぬって?
「あの野郎・・・俺様達に関係ない奴を人質に取りやがった。俺様達には関係ねぇ、ほっておこうぜ」
歓待してくれていた人達の懇願するような眼。
その理由はこれだったんだ。
急いで地図を確認すると、三番と八番はどちらも街の端で正反対の位置。
三十分以内に二カ所に行くには、僕等も二手に別れるしかない。
「ナーガは三番に向かって!僕とフェンリルは八番に行く!」
ナーガは任せろと二つ返事だったけど、フェンリルが反対する。
「何処まで甘ちゃんなんだおめーわっ!奴の狙いは戦力の分散だ。次は三箇所を指名してくるに決まってる。おめぇは一人で赤毛を相手に出来んのか?関係ねー奴らなんてほおっておけ」
わかってる、わかってるよフェンリル。
奴の狙いも、僕の甘さも・・・
でもほってなんていられない!
先に行くぞと飛び立つナーガに、俺様は行かねぇとその場に座り込むフェンリル。
今は説得する時間も勿体ないと、その場にフェンリルを残して、僕は八の番号が振られた場所に走り出す。
指定された場所に走る僕の眼に映るのは、異変など無いように普段と変わりなく生活する人々。
もしかしたら歓待してくれてた人達以外は、この事を知らないのかも知れない。
市場の人混みの中を駆け抜けると、日中から街中を全力疾走する僕をチラリと見る人、そして不自然に懐に手を入れ行く手を塞ぐ男。
考えるより先に身体が動き、間違ってたらごめんなさいと謝りながら、男が懐から手を出すより速く肩から下げてる鞄を外し全力で顔を殴る。
当たった鞄の中の鍋が重い音を立て、倒れていく男と懐からこぼれ落ちるナイフを見て、間違ってなかったと安堵する。
今度は横手にいた男が、ナイフを取り出し僕に向けて白刃を振るう。
遅い!
左手で男の肘を叩き軌道を変えかわし、瞬時に短剣を抜き隙だらけの男の足を切ると、呻きながらその場に疼くまる。
日中の流血事件にパニックになり逃げ惑う人々と、それを見ても顔色を変えない人々。
兵士がいなかったんじゃない、普通の格好をして街中に紛れ込んでいるんだ。
僕の前に筋骨隆々の男が剣を抜き立ち塞がる。
「ガキにしてはやるな。俺はセイドリック様一のぶごぅ!」
男は何かを言っていたが、言い終わる前に漆黒の塊に殴り飛ばされ、地面にはいつくばる。
「フェンリル来てくれたの!」
じわりと目頭が熱くなる。
「勘違いすんな!おめぇが死んだら、俺様も死んじまうから仕方なしだからな!」
悪態をつく黒狼。
そんなの全然気にならない。
絶対来てくれるって信じてたもん。
でもそんな感動も吹き飛ぶような、二度目のセイドリックの放送が街中に響き渡った。




