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狼竜物語  作者: レオ
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九章 罠

 地上には鉄と獣と人の悲鳴が充満し、空翔ける竜の背に乗る少年の耳には、白い翼が風を切る音が聞こえる。


「まだついて来てるよ」


 白き竜の後には、飛竜の亜種であるワイバーンが迫っている。


 リリオルの首都を目指し旅立ったルーク達だったが、すぐにリリオル軍の追手に発見された。


 いや、発見させた。


「奴はいないようだな」


 空を翔ける者として優れた視力を持つナーガは、地上で戦闘をしている漆黒の狼の姿を捕らえている。


 だがその周辺にも、求める人物はいない。


「もう帰っちゃったのかな?」


「それはない。違反者も私達にもう気づいている。ただの人間だけに任せるはずはない」


 ナーガの仲間が違反者討伐の手助けの準備をしているが、それはあくまでも首都に入ってからの話。


 そしてリリオルの王子であるラインハルトの決断を促す為に、こちらもすべき事をせねばならない。


 すなわち力の証明。


「追っ掛けて来るのが、また増えたみたい」


 ナーガの背後の追跡者の数が増え、その数は既に十頭を超えている。


 背後を確認すると、ナーガはさらに上空へと進路をとり分厚い雲を突破すると、旋回してその場でホバリング。


「どうするの?」


「マスターには暫く空中遊泳を楽しんでもらおう」


 僕は言葉の意味を頭で理解する前に、身体でその意味を知る。


 すなわち・・・落とされた。


「ちょっ!ナーガぁぁぁぁ・・・」


 ナーガは背中の荷物を振り落とすと、広範囲にその力を集束させ、追手がその範囲に入ると瞬時に凍り墜落していく。


 広範囲の絶対零度結界。


 全ての追手が地上に向けて墜ちていくのを確認すると、ナーガは翼を畳み隼のように急降下。


 悲鳴を上げながら落ちていくルークに追いつき、自らの身体に掴まったのを確認すると水平飛行に移行する。


「空中遊泳は楽しんでもらえたか?」


 背中のルークは荒い息をついている。


「百年は寿命が縮まったよ」


「百年以上寿命があったようで良かったな」


 僕は笑う竜の背中をつねる。


「もうっ!笑い事じゃないよ」


 ナーガは地上へと降り立ち、既に一仕事終えたフェンリルに声をかける。


「奴の臭いはするか?」


 フェンリルは面倒臭さそうに両前足を広げ「しねえな。わざわざ行く前に倒さなくても、古き神と一緒にやればいいだろ」


 力の証明の為に選んだのはセイドリックを倒す事。


 意外にも、それにこだわったのはナーガだった。


 違反者である古き神は、既に相当な力を持っている。


 そんな者を倒そうと言うのだ。


 ナーガやフェンリルに匹敵するセイドリックを排除したいのはわかるけど、ナーガのこだわりはそれだけじゃない様に思える。


 セイドリックはフェンリルに御執心で、フェンリルは封印をしたナーガに御執心で、ナーガはセイドリックに御執心。


 こう言うのも三角関係って言うのかな?


「さてと、きりきり吐いてもらおうか」


 フェンリルが迫るのは、先の戦闘で捕らえたリリオル兵士。


「セイドリックは何処にいる?」


 ナーガは本当にセイドリックに御執心だね。


 そんな簡単に白状してくれると思わないけどね。


 物語とかでは、死んでも仲間を裏切らないとか何とか、格好いい台詞を言う場面だもの。


「セイドリックなら、リイムでお前達を待っている」


・・・あっさり白状した


 リイムはこのままリリオル首都に向かえば、通る事になる街の名前だ。


 あまりに簡単に白状したので、フェンリルとナーガはお互いに顔を見合わせている。


「俺が簡単に自白したのがそんなに意外か」


 僕はコクコクと頷く。


「セイドリックは、始めから部下にあんた達をどうにか出来るなんて思っちゃいない。捕らえられたらあんた達に、この事を伝えろって言われてたのさ」


 この男はセイドリックを呼び捨てで、上官に対する尊敬の念とかが全く感じられない。


「それなら最初から戦いを挑まずとも、伝えればよいだけだろ」


 ナーガの言う事はもっともだし、僕もそう思うけど兵士の顔は歪んでいく。


「セイドリックがそれを許さなかったのさ。命令はあくまで捕らえられたらだ」


 どういう事?兵士は頼みもしないのに、堰を切ったように喋り始めた。


「そんな理不尽な命令に従ってるのが不思議な顔だな。あんた達食糧を燃やしただろ?」


 フェンリルが、確かに奴らの食糧は燃やした。


「今は食糧は足りている。セイドリックはどうやったと思う?」


「近くの街とかから徴収したんだろ?」


 フェンリルも険しい顔をしている。


「徴収じゃない。強奪だ。奴は自国の街を襲った!それでも戦争続きの我が国の貯えは少なく賄えなかった。その後奴はどうしたと思う?」


 まさか・・・


「足りない分の兵士を減らしたのさ。国に帰ったんじゃないぜ・・・」


「何故そんな指揮官の命令に従う?国を捨て逃げればいいではないか」


 兵士の顔は、さらに歪み涙を流している。


「俺の家族はリリオルにいて、逃げれば殺される。他の奴も似たり寄ったりだ」


 違反者の糧は人間の魂。


 それは自国だろうと他国だろうと変わりない。


「奴が赤毛の野郎に加護を与えたのも納得だぜ」


 他国だけでなく自国も含めて、より多くの人間を殺せる人材。


 奴は本当に死に神だ。


 どうするの?と聞く前にナーガが「待っているなら誘いを断る理由はないな」って…


 フェンリルは、それを聞いて「真正面からいくなんて馬鹿のする事だぜ」って…何かいつもと言ってる事が逆になってるような?


 兵士を解放して、遠くを見つめながらナーガの呟いた言葉を、僕の耳はしっかり捉えた


「私の美しい身体に傷をつけた罪あがなってもらうぞ」


 もしかしてナーガって、ナルシストでものすごく怒ってる?


 夜になりゆらゆらと揺れる炎は、三つの影をそれぞれの方向に映し出す。焚火を囲みながらの三人だけの作戦会議。


「何でてめぇはそんなに赤毛にこだわりやがる。加護与えてる奴をぶっ倒せば加護も消えんだぜ」


 それなら古き神を倒した後に、セイドリックを倒す方が楽だね。


「リイムで待ってるなら、待ちぼうけを食わせるのも有りだよね」


 ナーガは僕達の意見に頷く。


「私達だけの事を考えれば、セイドリックを無視するのも手だ。だがリリオルの後の事を考えればラインハルトの力は必要となる」


 ラインハルトってリリオル王の息子さんだよね?何で後の事を考えたら、その人の力が必要なんだろ?


「後の事なんざぁ俺様達が考える必要ねーだろーが」


 フェンリルはもうわかってるみたいだけど、僕には理解出来ずにナーガを見る。


 それに気づいたナーガが、優しく説明してくれた。


「リリオルは大した理由も無く周辺国に度々攻め込んでいる。沢山の恨みを買っているが、それでも国として存在しているのは、狂王と呼ばれる王と、死に神と呼ばれるセイドリックがいるからだ。その抑止力が一気に無くなったらどうなると思う?」


「攻められる」


「そうだ。それを防ぐには誰かを旗頭に、すぐに国が纏まる必要がある」


 後の事か・・・僕は単純に、違反者を倒せばそれで全部いい方向に向かうと思ってたけど、世の中複雑だよね。


「ナーガは、あんまり人間界に来てないって言ってたのに、よくリリオルの事知ってるよね」


「マスターは本当に馬鹿だな。とかげが知ってる訳ねーよ、大方ラルクとかって奴の受け売りだろ」


 ナーガのお友達って言ってたラルクさんかぁ。


 あれ?ナーガは神様で・・・そのお友達って・・・


「もしかしてラルクさんも神様なの?」


 フェンリルは何を今更みたいに呆れてて、僕の中の神様のイメージはガラガラと音を立てて崩れていった。


「奴も一応神の端くれだ。何をしたのか知らんが、ゴッソリ力を失ったらしいから今以上には役に立たん」


 今でもあんまりなのにね。


「ならやっぱりセイドリックは、先に倒さなきゃだよね。誰かリイムに行った事ある?」


「俺様がそんな田舎に遊びに行くかよ」


 ならナーガは・・・聞くだけ無駄だね。こちらはどんな街なのかも知らないのに、きっとセイドリックは万全の備えをして僕等を待ち伏せしているだろう。


「加護を受けているだけの人間など、どんな策があろうが正面から打ち破るぐらい出来なければ、背後にいる古き神の討伐など覚束ないだろう」


 まあなと同意するフェンリル。


「背後にいる古き神って、どんな奴なの?」


「名前はヨルムンガンド。蛇みてーな奴さ。ああそういや蛇もあいつが昔に造ったんだっけな」


 蛇みたいな奴か・・・やっぱりにょろにょろって感じなのかな?


 結局建設的な考えも出ず、決まったのは行き当たりばったりの正面突破。


 何の為に、作戦会議したんだろうね。

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