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狼竜物語  作者: レオ
69/255

(9)

 僕等の行く手は濃い霧に遮られ、何処に辿り着けるのかわからない。


 霧を抜け、僕は叫ぶ。


「ナーガ!やっぱり落ちてるよ!上がって上がって!」


 バッシャーンと、盛大に上がる水しぶき。


 僕は海に投げ出され、波間に浮かぶ荷物に必死でしがみついた。


 海には沢山の荷物がプカプカ浮かび、ナーガは首から上だけを水面に出している。


「やはり無理だったか。大丈夫か?」


 僕はばた足で、ナーガに近づいていく。


「何とか」


 ここは竜の島の結界を抜けたばかりの海の上。


 こうなったのには、理由がある。


 神殿でナーガの話を聞いた後、すぐに村人に出発すると伝えた。


 そうしたら村人達が皆口々に、「せめてこの供物をお持ちになって下さい」と二人の目の前にうず高く積まれていく荷物の山に、引き攣っていくナーガの顔。


 断り切れずナーガに乗せれるだけ乗せて出発したけど、余りに荷物が多過ぎて霧を抜けたところで墜落した。


 村人達に悪気があるわけじゃないけど、人間やっぱり限度ってものが必要だと思う。


 ナーガも神様として見えるところで墜落する訳にもいかず、ここまでは頑張った。


 神様やるのも楽じゃないよね。


「村人達には申し訳ないが、必要な物だけ持って後は捨てていこう」


「そうだね」と、掴まっている荷物の包みを短剣で切り裂くと、中から出てきたのは木彫りのナーガの像。


 これは必要ないかな・・・いや、今は必要だけどさ。


 結局魔獣に食べられて失った鍋の代わりの、新しい鍋と食料を鞄に詰め込む。


 ナーガが羽ばたき、水面に沢山の波紋を残して飛び立ち、一路フェンリルの待つ砂浜に向かう。


「フェンリル大人しく待ってるかな?」


「奴に余り期待しない方がいいぞ」


 果たしてフェンリルはこれから一緒に、古き神の討伐に来てくれるだろうか?


 暫く飛び、砂浜が見えてくるが、白い砂浜に映えるはずの漆黒の身体は見えない。


「いないね。何処行っちゃったんだろ?」


 砂浜の上を旋回する。


「いたぞ。海の中を見てみろ」


 青い海に頭に手ぬぐいを乗せ、プカプカ浮かんでいる漆黒の狼。


・・・海はお風呂じゃないよフェンリル。


 この姿を見て、誰がフェンリルも古き神の一人だと思うだろうか。


 砂浜に降り立ち手を振ると、フェンリルも海から上がって来た。


「なんだ~?もう帰って来たのかよ。せっかく久しぶりの自由を楽しんでたっつーのに」


 物凄く満喫してたね。


「あのね、大事な話しがあるんだ」


 砂浜に二人並んで座り込む。


 ナーガは気をきかせて、少し離れた場所で僕とフェンリルを見ていた。


 緩やかな潮の香りの混じった風と、波の音が僕等を包んでいた。


 先に口を開いたのはフェンリルだった。


「また、嫌な臭いを混ぜて帰って来やがったな」


 臭い?自分の身体を嗅いでみる。


「ば~か、血の臭いすらかぎ分けられねえ奴が、わかるわけねーだろ。おめぇとかげの加護を受けたんだろ?奴の臭いがプンプンしやがる。あ~やだやだ」


「わかるの?」


 フェンリルは得意げに頷く。


「たりめ~だろ。俺様を誰だと思ってんだ?泣く子もさらに泣くフェンリル様だぜ」


 何かちょっと違う気もするけど・・・


「ラグナロクの事聞いたよ」


「俺様のカッコイイ武勇伝を聞いちまったか」


「うん。ナーガの父さんに負けて、尻尾巻いて逃げ出したって・・・いたたた」


 加護を受けて動態視力が上がってはいても、避けられないスピードのフェンリルのビンタが炸裂する。


「負けてねぇ!あれは、戦略的撤退つーやつだ」


 それを負けたって言うんじゃないの?


「だってナーガの父さんに力を封印されて、さらにナーガやナーガの兄弟達にも封印されたんでしょ」


 フェンリルの顔が、忌まわしい思い出を掘り起こされたのか険しくなる。


「五対一なんて、あいつらきったね~と思わねーか?大体とかげが俺様にした封印なんざ、あいつの糞親父に封印されて動けね~とこをやられただけだからな」


 やっぱり負けたんじゃん。


 フェンリルは何かを思いついて笑顔になる。


「マスターからとかげに、あいつの分の封印を解くように言ってくれねーか?」


「言うのはいいけど、多分解いてはくれないと思うよ」


「ケッ使い魔に言う事きかせられね~なんて、なっさけねーマスターだぜ」


 自分も、今は僕の使い魔だって事忘れてない?


 いよいよ本題に入る。


「僕達、これから魔界の古き神の違反者討伐に行くの。フェンリルも来てくれる?」


「古き神の討伐か。面白そ~だな、いいぜ」


 即答、そしてかるっ!フェンリルが来てくれるかわからずドキドキしてたのに・・・


「ねえ・・・フェンリルは何で残される者を裏切って、切り捨てられる者についたの?」


「あん?そんなのそっちの方が、面白そ~だったからに決まってんだろ」


 予想通りの答え。


 でも・・・


「フェンリルは・・・優しいね。・・・いたた・・何で殴るのさ!」


「いきなりおめぇが、気持ち悪い事言うからだろーが!」


 もうっ!本当に素直じゃないんだから。


 でも僕は見逃さなかったからね。


 フェンリルの尻尾が、目立たないようにゆっくりと左右に揺れてたのを・・・そっちの方が面白そーだったなんて嘘。


 切り捨てられる者達を、見捨てる事が出来なかったんだよね。


 僕を見捨てる事が、出来なかったみたいに・・・


 ゆっくり狼の背中を撫でながら「ありがとねフェンリル」と伝えるとフェンリルは何も言わず、ずっと海を見つめていた。


 優しい時間が流れてたけど、離れた場所のナーガはしきりにある一点を気にしている。


 僕も気にはなってたけど、見ないようにしてたのに・・・


「ねえ・・・あの人達何で埋まってるの?」


 そこには首から下を砂浜に埋められた男達が、こちらを見ていた。


「ああっあいつらはこの辺の住人らしいぜ。あの遊びがこの辺じゃ流行ってるらしい」


 そうなんだ。助けてくれって叫んでる人もいた気がするけど、あれも遊びなのかな?


 僕とフェンリルとナーガ。


 向かうはリリオル首都。


 これから何が起こるんだろう?


 でも、何が起ころうと僕等は最後迄一緒だ。

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