表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼竜物語  作者: レオ
67/255

(7)

【創成の竜】


 ナーガの話は、一言目からいきなり衝撃的だった。


「世界は初め、生命と呼べる者は何も無かった。そこにあるのはただ一つの世界。それ以外には、何も存在していなかった。そんな所に運命の悪戯か、それとも世界の意思か、初めての生命が産声を上げた。言うなれば、世界が生み出した子供。全身に金色を纏い世界の全てを糧として生きる竜。後にその竜は創成の竜と呼ばれる事になる。竜は生まれてからずっと一人で長きを生き、世界を糧にしている竜は、強大な力をその身に宿していった。そして、ある時竜は気づく、この力を使って、自分のような知性のある者を造れないかと・・・。試みは成功し、創成の竜は次々と新しい者を生み出していった。生み出された者は、後に神と呼ばれ、時を重ね力を蓄えるとある者は動物を、またある者は植物を造り世界は生命に溢れていった。そして創成の竜が生み出した力ある神達は互いに交わり、また新たな力ある神が生まれた。だが知性ある者が増えるといざこざも起こるようになり、創成の竜だけでは対処出来なくなって来た。そこで創成の竜は自らの血肉から、四方を治める四頭の竜を造りだした。その内の一頭が私だ」


「その創成の竜てのが、ナーガのお父さんなの?」


 ナーガは懐かしげ、に眼を閉じ呟く。


「父・・・そうだな。私にとっての父と言える。全ては上手くいっていたはずだった。父は大きな間違いを、犯している事に気づけなかった。いや、父だけでなくその時にいた全ての神が気づいていなかった。そして気づいた時には、既に手遅れとなっていた。父が犯した間違いは、生み出した者達の糧を自分と同じく世界とした事。力ある者達が増え、無限と思われた世界が生み出す糧が枯渇し始めたのだ。世界はゆっくりとだが確実に終焉に向かっていた。父がとれる手段は二つ。世界と一緒に滅びるか、世界が生み出す糧で維持出来るぎりぎり迄、神を減らすか・・・父が選んだのは後者だった」

 

【残される者と切り捨てられる者】


「父にとっても、それは苦渋の決断だったはずだ。自らの血肉を使って造り出したのは、私を含む四頭の竜だけだが、殆どの神を造り出したのは父だ。言わば自分の子供を、殺すようなものだからな。父が残す者と切り捨てる者を決めた、あの日の悲しげな眼を私は忘れる事が出来ない。当然切り捨てられる者達は、結集し抵抗したが、創成の竜と言われた父の力を上回る者などいない。掃討はすぐに終わると誰もが思っていた。だが一頭の残される者が裏切り、切り捨てられる者側についた事で事態は思わぬ方向に向かっていった。その者が何処でいつ生まれたのか誰も知らない。気づけば漆黒の身体と紅き瞳を持ち、強大な力を有する者となっていた。今思えば奴も、父と同じ存在だったのかも知れないな。世界が生んだ二人目の子供だ」


 紅き瞳と漆黒の身体の持ち主。


「それってフェンリルの事?」


 ナーガは無言で頷く。


「フェンリルは、何で裏切ったの?」


「さあな、奴の事だ。そっちの方が、面白そうだったとでも言うだろう」


 確かにフェンリルなら言いそうだけど。


 ナーガは、尚も話を続ける。


「奴は想像以上に強かった。何しろ父や私達四頭と互角に、数百年に渡り戦い続けたのだからな。父や私達がフェンリルに足止めされている間に、世界は残される者と切り捨てられる者との全面戦争に突入していった。長きに渡る父とフェンリルの戦いだったが、同じ存在であっても先に生まれていた父の蓄えていた力が僅かに上回った。フェンリルを殺す事は出来なかったが、その力の大半を封印され奴は尻尾を巻いて逃げだした。その時父が奴に向かって吐いた、負け犬が尻尾を巻いて逃げ出したぞの一言は、今でも奴のトラウマになっているようだな。何しろ奴にとって、初めてにして唯一の敗戦だからな。しかしフェンリルと戦っている間に、大戦は決着を見ていた。勝ったのは切り捨てられる者達だ。そのまま戦えば父が切り捨てられる者達を滅ぼせただろう。だがそれは結局0に戻るだけだ。父は捕らえられた残される者の解放を条件に停戦を申し入れ、ラグナロクは終わりを告げた。ラグナロクに参加した神達は、皆蓄えていた力を殆ど吐き出し沢山の神が亡くなった。父が考えた形ではなかったが、世界が維持出来るぐらい迄神は減った。父はここでまた大きな決断をした。その父の決断が、今の世界を創る事になった」


【三つの世界】


「父がラグナロク後に最初にしたのは、世界を三つに分ける事だ。残される者が住む世界、切り捨てられる者が住む世界、そして間に緩衝地帯としての世界。それぞれは後に神界、魔界、人間界となる」


「人間界て・・・人間はまだ話に出てきてないよね?」


「そうだ。人間が生まれて来るのは、この後になる。世界が維持出来る迄神は減ったが、また神が増えれば同じ事の繰り返しになる。そこで父は考えた。世界の仕組みを変えバランスを整え、神の力を蓄える器を小さくして世界以外の新たな糧を生み出す必要があると。自らの器を満たす迄糧を得ていた神を造り変え、自ら求めぬ限り生命維持に必要な糧以上を得る事は出来ないようにする事。そして新たな糧となる者として人間を造りだし、残される者が住む神界は人間の信仰を糧とし、切り捨てられる者が住む魔界は人間の魂を糧とすると決め、父はゆっくりと世界に溶け理へとその身を変えていった。それ以前と糧が変わることで、それ以後に生まれる者の器は必然的に小さくなっていった」


「人間は神様のご飯なの?」


 少し微妙な笑みをナーガは浮かべた。


「平たく言ってしまえば、そう言う事になる。だがそれは人間を守る為のものでもある。過ぎたる力は自らを滅ぼすと悟った父は、人間には大した力を与えなかった。そして神の糧となる事で、神界も魔界も人間を滅ぼす事が出来なくなった。人間がいなくなればどちらも滅ぶしかないからな」


 成る程と納得する。


「あれ?でもさ、そんな事が出来るなら最初からやっていれば、ラグナロクなんて起こらなかったんじゃないの?」


「世界の仕組みを変えるのだ。それには長い時間と、莫大な力が必要となる。最初からこの方法をとるには、余りにも残された時間が足りなかったのだ。ただの一神でしかなかったオーディン等は、逸早く糧の仕組みに気づき、せっせと自分が神界の長としての物語を作り上げ、人間達に流布していった」


 何だか行商のおじさんみたいと言うと、その通りだとナーガもつられて笑みを浮かべる。


「だが奴の苦労は報われて、今では神界の長になっている」


 石版にフェンリルとオーディンの記述を見つける。


「オーディンて人、フェンリルに飲み込まれて死んだ事になってるよ。フェンリルは山のように大きいとか、人間に伝わってる話は、本当に嘘だらけなんだね」


 フェンリルは確かに大きいけど、山はいくらなんでも言い過ぎだ。


「自分を死んだ事にするのが、オーディンのしたたかな所だ。そうすれば後からどんな話が伝わろうが、信仰が揺らぐ事はない。だが嘘で塗り固められたと言っても、真実も語られている。私達が助け出したが、奴は確かにフェンリルに飲み込まれたし、フェンリルも昔は山の様に大きかった。奴が小さくなったのは、父と私と兄弟のあわせて五つの力を封じる封印のせいだ」


 山の様に大きいフェンリルなんて、想像も出来ない。


 笑っていたナーガが真剣な顔つきに戻り、続きを語る。


「父が理として世界に溶けていっている間に、また問題が起こった」


【違反者と真の名】


「新たな知性持つ生命であり糧である人間に、興味を持つ神が増え人間と交わり子をなすようになった。生まれて来る子は様々で、神として生まれて来る者、人間として生まれて来る者と多様であったが、問題は獣に近く生まれた者だった。中でも神に近い力を持ち、知性が獣として生まれた者は人間を襲いバランスを崩した。それを防ぐ為に、神界と魔界の長は話し合い幾つかの約定を取り交わした。人間と交わる事や、直接手を出す事は禁忌としお互いの世界の行き来を禁じた」


「理と約定の違いって何?」


「理は世界が決めた、それを超える力が無ければ変えられぬもの。約定はただの約束事だ。だが約定を取り交わした後も、それを守らぬ者が後を絶たなかった。特に魔界側のラグナロクを知らぬ新しく生まれた者達は、力を求めて人間界を幾度となく騒がせた。それを憂いた父は、新たな理を生み出した。それが真の名だ。真の名を用いてマスターと強制的に契約した者は、マスターと同じ世界に縛られ他の世界には行けなくなり、マスターから離れればその力を制限される。マスターが死ねば使い魔となっている者も命を失うのは、もともと違反者を二度と人間界に行かせぬ様にする為なのだ」


 真の名の本来の用途はわかったけど、それだとナーガやフェンリルが真の名を持たず、魔獣が真の名を持っている理由にはならない。


「私やフェンリルが真の名を持たず、魔獣が真の名を持っているのがわからないといった顔つきだな。」


 うわっ考えてる事がわかるなんて、これが神様の力ってやつ?


「既に大きな理になろうとしていた父の力では、完全に新たな理を造り上げるのは無理だった。その為力を持つ古き者に真の名を課すのを諦め、新たに生まれ来る者にのみ真の名を課した。だからラグナロク以前に存在していた、私やフェンリルには真の名がない。私達は真の名を持たぬラグナロク以前に存在していた者を古き神と呼び、それ以降に生まれて来た者を新しき神と呼んでいる。魔獣が真の名を持っているのは、神の血を引く末裔だからだ。言ってみれば、魔獣は神と呼ばれた者達が犯した罪そのものの存在なのだ。そして神界はそれを利用して、召喚術を人間に使える様にした」


 神様が人間に、どうして召喚術や魔法を伝えたのか?


 ナーガが召喚された理由。


 その後も驚きの連続だった。


【力無き者】


「最初は違反者を神界も魔界側も直接排除していた。だがそれでは、神界と魔界の溝は深まっていくばかりだ。もう一度ラグナロクが起これば、神界も魔界もただでは済まない。父が理として世界に溶けた後の神界側は、特にそれを恐れた」


 なんでだろ?


「最大の理由は魔界の長の存在だ。今現在残っている神の中で、一番力を持つ者だ。」


「その人がいるから、ラグナロクは魔界側が勝ったの?」


「残念だが違う。奴はラグナロク後の糧が、信仰と魂と聞いて魔界側に移ったのだ。信仰を集めるより、魂が落ちて来るのを待ってる方が楽だからな。神と一口に言っても考え方は様々だ。手に入れた権力に固執する者や、楽をしようとする者。結局力を持っていても神も人間と何一つ変わらないのだ。そして神界側が軋轢を避ける為考えたのが、直接違反者を討伐するのではなく、人間にやらせる事だ」


 神様が、人間に倒せるなんて思ってもいなかったから、これには本当に驚いた。


「と言っても、人間にはそれ程の力は無い。足りない力を補う為に神界は、魔法や召喚術を人間にも扱えるように、言霊の組み合わせを伝えたり、加護によって人間の能力そのものを強化したりしたのだ。それ程力のない新しき神ならこれまでそれで上手くいっていたが、初めて古き神が違反者となった。そして私が召喚されたのは、違反者である魔界の古き神を討伐させる為らしい」


「違反者って、約束破って人間の魂を集めてるって事だよね?」


 ナーガの瞳は真剣だ。


「それも既に、かなりの数を集め力を蓄えている。赤毛の男を覚えているか?」


 忘れられる訳ない。


「奴は古き神の加護を受けている。加護の強さは与えた者の力に比例する。ただの人間に。あれ程の力を与えるのだ、違反者は既に私達より、遥かに上の力を持っていると思っていい。これからどうするかは、約束通りマスターが決めてくれていいが、私としては断って欲しいと思っている。今回の事はオーディンが考えた事らしいが、私も直接頼まれた訳ではないし、マスターには関係ない事だ。勝てる可能性も低い。そんな危険なものにマスターを巻き込みたくはない」


 ナーガの気持ちがわかる。


 でも僕の答えは、もう決まっていた。


「ナーガの意識がない間に、僕等がセイドリックに襲われた村に、少しの間隠れてたんだ。フェンリルには何も見るなって言われてたんだけど、見ちゃったんだ。僕には力なんてないけど、あんな事をする神様なんて許せない。いつか、誰かがやってくれる。そう思う僕も確かにいるんだ。でもいつかは今で、誰かは僕等だよね?ナーガ・・・やろう。」


 ナーガはじっと僕を見る。


「マスターがそう決めたのであれば、私はそれに従い全力を尽くすだけだ。」


 ナーガに触れた手は震えてるけど、ナーガもいるし、フェンリルだっている。


 きっとやれる。


 マスターと呼ばれて見上げる


「私の加護を受けてくれないか?」


 加護って、フェンリルが僕にくれた動体視力や、夜目の能力だよね?


 ナーガの加護は、何をあげてくれるんだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ