(5)
山の頂上に続く階段は、果てしなく続く。
一歩一歩力を込め重くなった身体を、ルークは上へ上へと運ぶ。
ナーガの話しが終わるまで待ってた方が良かったかな?
ナーガに乗ってくればどんな高い山でもひとっ飛びなのに・・・
マスターがこんなにキツイ思いをしているのに、ナーガはナンパだなんてとルークは立派に駄目な大人への階段を登っている。
平野部だけでなく山谷部にも人は住んでいるらしく、神殿に向かう途中にも家は点在している。
前から階段を下りてくる水色のワンピースを着た幼い女の子は、この山に住んでいる子供なのかな?
母親にでもお使いを頼まれたのか、手にはバスケットを持ち、後ろを黄色い子犬が一生懸命ついていっている。
微笑ましい光景だなと、女の子と会釈をしてすれ違うが、ルークは何かを思い出したように呼び止める。
女の子は知らない人に、呼び止められた事に怪訝な表情で首を傾げる。
「な~にお兄ちゃん?」
「その後ろについていっているの、もしかしてシビルタイガーの子供?」
黄色くて、ましてや短いながらも立派な牙を生やしている犬なんていない。
女の子の顔は、パアッと明るくなる。
「そうよ。この子は私の使い魔なの。凄いでしょ!」
こんな小さい子供が小さいとはいえ、シビルタイガーを使い魔にするなんて確かに凄いと、僕は素直に感嘆する。
「僕シビルタイガーを見るの初めてなんだ。その子触らせてもらってもいいかな?」
女の子の表情は途端に曇る。
「いいけど・・・怪我しても知らないよ。この子あたし以外に懐かないから」
僕は膝を折り、手をシビルタイガーに伸ばす。
手を伸ばされたシビルタイガーは盛んに警戒音を発し、手をクンクン嗅いでいる。
「この子の牙どうしたの?先がちょっと欠けてるね」
シビルタイガーの片方の牙が、ほんの少しだけ欠けている。
「知らない。あたしが召喚した時にはもう欠けてたの。お母さんが言うには、野生の時に喧嘩でもしたんじゃないかって」
ふう~うわっ!
相槌を打とうとして、僕は急に飛び掛かって来た、シビルタイガーに押し倒され尻餅をつく。
僕を押し倒したシビルタイガーは、膝の上に乗りこれでもかと顔を舐めまくっている。
「うひゃっべっちょべちょにされちゃう」
女の子はその光景を見て、驚きの声を上げる。
「すっご~い。この子あたし以外には絶対懐かないのに・・・お兄ちゃん・・・泣いてるの?」
えっ?僕は言われて初めて、自分が涙を流しているのに気づいた。
変わらず自分を舐めまくっているシビルタイガーを撫でると、何処か懐かしい温もりと不思議な感情が溢れて来る。
ギュッと抱きしめる。
やっぱり僕はこの感触を知っている。
後から後から涙が溢れ、女の子は座り込んでそんな僕を不思議そうに見ていた。
暫くして女の子は立ち上がる。
「あたしお母さんにお使い頼まれてるから、もう行くね」
僕は、うんと抱きしめていたシビルタイガーを解放する。
「行こっ」
シビルタイガーは悩んだ様子を見せながらも、女の子の後をついていった。
「待って!」
また呼び止められ、女の子は振り返る。
「その子の名前はなんて言うの?」
女の子はプウっと頬を膨らませる。
なんかマズイ事でも聞いちゃったかな?
「もうっ!こんなに可愛い女の子がいるのに、あたしじゃなくてこの子の名前なの?そんなんじゃ女の子にモテないよ」
まさか自分より小さい子供に、そんな事を言われるなんてと苦笑する。
「いいわ、教えてあげる。この子の名前はルークよ。じゃあね泣き虫のお兄ちゃん」
女の子はそう言うと、シビルタイガーと一緒に階段を下りていった。




