(3)
自分達がいた大陸は、遥か後方で点のようになり、四方はひたすら青い海が広がっている。
そう言えば僕泳いだ事もないやと、万が一落ちた時の事が浮かぶ。
「ねえ、島って遠いの?何があるの?」
矢継ぎ早に質問をする。
「まだ暫くかかるが、日が暮れる前には着けるだろう。島には村があるはずだ」
「あるはずだって・・・行った事ないの?」
確か島は、ナーガの為に作られたって言ってたような?
「最後に行ったのは数百年前だ。その時の人間は、生きてはいないだろう」
「数百年前って、ナーガの歳っていくつ?」
「さて・・・一万年は生きているはずだが、面倒になってから数えていないから果たしていくつやら」
一万年て、いったい僕の何百倍生きてるんだろ?
驚きの新事実に次いで、更に衝撃の事実が追い打ちをかけてくる。
「それ程驚く事か?犬とて私とそう変わらぬ年月を生きているぞ」
お兄ちゃんお父さんどころか、ひいがいくつもつくぐらい御祖父様だ。
僕が絶句している間に、視界が霧に阻まれ、何も見えなくなる。
手を伸ばしてみても、そこにあるのは牛乳を流し込んだような、深い深い霧しか見えない。
「この霧を越えられるのは、私や神界の者だけだ」
「神界て何?」
「マスターはラグナロクを知っているか?人間界にも神話として伝わっているはずだ」
ルフツネイルの授業で、少しだけ聞いた事がある。僕は必死で記憶を辿る。
「ラグナロクは、九つの世界がした終末戦争ってやつかな?」
顔は見えないけど、ナーガが笑っているのがわかる。
「意外にマスターも、しっかり勉強はしていたようだな。人間に神話として伝わっているラグナロクは実際とは違う。全てを説明するには、それよりも昔から話さねばならない」
うんと返し、一言も聞き漏らさないように構えた時、視界が開け目の前に現れたのは中央に大きな山をそなえた島。
山の麓の平野には、僕が住んでいたような平家が沢山並んでおり、村を形成している。
村の中央の広場には旗が掲げられていて、その旗に記されている紋章は父さんが僕を見つけた時に、包まれていた紋章と一緒だった。
「あれ、僕の産着と同じ紋章だよ」
「あの紋章が現わしているのは私だ」
村の上を旋回すると村人が空を指さし、家々から沢山の人が出て来るのが見える。
「物凄い騒ぎになってるよ」
このまま降りるぞと、ナーガは村の中央の広場へと降下していった。
地に降り立つと人垣が僕達を囲み、人々は一様に驚きの表情を浮かべている。
一人の杖をついた老婆が、ナーガの前に歩み出る。
その手はプルプルと震え、目には涙が光っている。
「ナ、ナーガ様・・・ナーガ様じゃ・・・」
前に来たのは数百年も昔のはずなのに、このお婆さんはナーガを知っている。
このお婆さんも、数百年生きているのだろうか?
「皆の者息災で何より。暫く世話になる」
ナーガが一声かけると、村人が一斉に平伏して立っているのは、僕とナーガだけになった。
「ナーガどうなってるの?」
何が起こってるのかわからず、耳元で囁く。
「私はこの島では信仰の対象だからな。マスターも暫く付き合ってくれ」
その後は村人総出の宴会になだれ込み、とてもゆっくり話せる状況でなくなり、全ては翌日に廻される事になった。




