(2)
「フェンリル・・・見て・・・」
山の山頂で目の前に広がるパノラマは、息を呑むような絶景。
空の青さを写した水面は、地平線まで空と同じ色を讃え、交差するまでひたすら続いている。
「あ~おめぇは、海を見るのが初めてだったか。知ってっか?海つーのは美味いもんが沢山あるんだぜ。海の幸っつーくらいだからな」
美味しい物と聞いて思わず溢れる涎を拭くと、モゾモゾと肩にかけている鞄が動き、ナーガが首を出す。
「ケッ美味いもんと聞いて、卑しい奴がもう一匹増えやがった」
「貴様と一緒にするな」
「ナーガもう動いて大丈夫なの?」
万全ではないが問題ないと鞄から飛び出し、ナーガはその大きさを変えていく。
「俺様は先に砂浜に行ってんぜ」
フェンリルはそう言うと、雪を跳ね上げながら麓に向かっていった。
ルークを背に乗せると、ナーガは地を蹴りその身体は白銀と一体化するように、山の斜面を滑空していく。
「島に行くのに、船探さなきゃいけないね」
「船では島にはいけない。私がマスターを乗せて連れていく」
ナーガの身体も心配だけど、それだとフェンリルはどうするんだろ?
海の上を走れる訳ないし、まさかナーガがフェンリルも乗せていくのかな?
浮かんだ疑問は、すぐに答えが出た。
「犬はお留守番だ。だが勘違いしないで欲しい。奴は島には入れないので、連れていくだけ無駄なのだ」
フェンリルも船も入れない島。
きっとその答えは、島に到着すればナーガが教えてくれるだろうと、僕は聞く事なく眼下に広がる絶景を見下ろす。
遠ざかっていく山脈は、登る時はあれ程大変だったのにと別れを告げ、ナーガの白銀の身体は砂浜に音もなく降り立つ。
ナーガの背から降りると、足元が砂に埋もれよろめく。
「見て見て海って水が動いてるよ」
先に到着していたフェンリルは呆れ返る。
「海なんだから波があって当たり前だろ。もしかしておめぇ海の水は物凄く甘くて、うめぇってのも知らないのか?」
フェンリルは辺りをキョロキョロと見渡すと「普段なら勝手に飲まれないように見張りがいたりするんだが、ラッキーだな誰も見張ってねぇ。今のうちに飲んでみな」
美味しい?これだけ綺麗なんだからと、波打際に走ると手の平で掬い上げ疑う事なく一口。
ぶふぅっ
「ぺっぺっフェンリルの嘘つき!」
「ぶひゃひゃひゃ海の水が甘いなんて、俺様も初耳だぜ」
フェンリルの笑いが、砂浜に響き渡る。
「それくらいにしてそろそろ出発しよう」
僕は頷き、フェンリルの頬を撫でる。
「フェンリルはお留守番だって。いい子にしてなきゃ駄目だよ。美味しそうな物が落ちてても、食べちゃ駄目だからね・・・いったっ~い」
フェンリルに膝を蹴り上げられ、思わずその場に蹲る。
「俺様を何だと思ってんだ!とっとと行きやがれ。何ならそのまま島から帰って来なくてもいーんだぜ」
僕は足を引きずりながら、ナーガの背に乗る。
「もう!冗談が通じないんだから・・・行ってくるねフェンリル」
「遊び相手がいるようだから退屈はしないだろ」とナーガが終わりのない地平線に飛び立ち、フェンリルの姿は小さくなっていく。
砂浜に残されたフェンリルは、二人を見送ると背後を睨み付けた。
「赤毛がいねーんじゃ役不足だが、おめぇらが俺様の遊び相手になってくれるんだろ?いつまでも隠れてねーで出てきな」
呼びかけに答え砂浜に現れた人影は、剣を抜きフェンリルに襲い掛かっていった。




