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狼竜物語  作者: レオ
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(7)

「何で・・・」


 困惑している僕の様子を見て、赤毛は満足げな笑みを浮かべる。


「死にかけの竜を大事そうに抱えてたお前なら、必ず解毒剤を取りに来ると思ったさ。」


 僕は短剣を抜いて、白衣の男に飛び掛かり首筋に短剣を当てる。


「薬を渡して下さい。じゃないと、この人を傷つける事になります」


 首筋に刃を当てられているのに、白衣の男はリビングで寛いでいるかのように、うろたえもしない。


「俺を人質に取っても無駄だぞ。セイドリック様は、部下の命なんて何とも思ってないからな」


「よく知っているな。俺の軍に来たばかりとは思えないぜ。運が悪かったな」


 村人を皆殺しにするような男だ、一人ぐらい見殺しにする事など何とも思わないだろう。


 僕は白衣の男の耳元で告げる。


「解毒剤は、何処にあるんですか?」


 答えたのは白衣の男ではなくセイドリック。


「薬なんてもうないぜ。俺が使った後に、全部捨てさせたからな」


 そんな・・・それじゃ何の為にここに来たのか・・・


 落胆する僕に、セイドリックは愉悦を感じているようだ。


 その時白衣の男が、短剣を握った僕の右手首を掴んだ。


「俺もツイてるのか、ツイてないのかよくわからないな。そう思わないか?」


 そう言うと、目の前にあった診療用のベッドをセイドリックに向けて蹴り上げ、僕の手を引いて後ろ向きに走り出す。


 セイドリックにベッドが真っ二つにされ、僕は何が起きてるのかわからないまま、白衣の男に引きずられるようにテントから逃げ出す。


「フェンリルも来てるんだろルーク」


 この白衣の男は僕だけじゃなくフェンリルの事も知ってる?


 男の顔を凝視してみるけど、やっぱり知らない人だ。


 男は走りを緩める事なく、僕の困惑の顔に気づいた。


「ああ初めてだったか。俺の名はラルクだ。そうだな、ナーガの友達だと言えば信用してもらえるかな」


 ナーガに友達がいたなんて初耳だ。


「フェンリルを呼べ。自慢じゃないが、俺は弱いからセイドリックとやり合うなんて無理だからな」


 後ろには僕らを追いかけて来るセイドリック。


 フェンリルは、会ったら死ぬ気で逃げろと言っていた。


 僕は急いで言霊を構築して、空に向けて放った。


 空に明々とした光が灯って辺りを照らす。


 ラルクさんがその光を、走りの速度を緩めないまま見上げて、顔を歪ませる。


「あれが合図か・・・ちょっとまずいんじゃないか?」


 何がまずかったのか、すぐにわかった。


 消火に当たっていた兵士達が宙に浮かぶ光を何事かと見上げ、その真下でセイドリックに追いかけられている僕達に気づいて道を塞ぐ。


「前門の兵士と後門のセイドリック。どっちがいい?」


「どっちも嫌です!」


「同感だ」


 僕とラルクさんは真横のテントに飛び込み、その中を駆け抜ける。


「ポケットに、解毒剤が入ってる。持って行け!」


 白衣を脱ぎ僕に放り投げ、僕はポケットをまさぐって小さな箱を鞄に急いで詰め込み、裏側から抜けようとして向こう側に沢山の人がいる気配がして立ち止まる。


 ラルクさんは、腰から手術用の小刀を取り出す。


「飛び込んだのは失敗だったな。完全に囲まれた」


 テントの周りには、僕の生み出した光に照らされた人影が映っている。


「絶体絶命ってやつだな」


 こちらにある武器は小刀と短剣。


 囲まれた兵士達に、弓で一斉射撃でもされたら一巻の終わりだ。


 緊張しながら外の様子を窺っていたけど、兵士達は遠巻きに囲んでいるだけでテントにも入っては来ない。


「セイドリックの病気が出たらしいな。今の内にナーガの処置を終わらせておこう」


 ラルクさんに箱を渡すと、中から小さな瓶と細長い針のついた長い瓶を取り出し、針を小さな瓶に突き刺すと長い瓶に中の液体が吸い上げられていく。


「珍しいか?これは注射器っていってな。最近作られるようになったもんだ。ナーガをこちらに」


 固くなったままのナーガを手渡すと、針がナーガに刺されて中の液体が減っていく。


「助かりますか?」


 注射器の液体が無くなり、ナーガから針が抜かれる。


「かなり時間がたってるからな。後はナーガの生命力次第だ。絶対安静と言いたいとこだが・・・」


 確かにそれは無理そうだ。


「セイドリックの病気って何?」


 もしかしたら、それがこの窮地を脱する糸口になるかも知れない。


 ラルクさんは困った顔で髪をかきあげる。


「病気っても身体的なもんじゃない。あいつは指揮官としても優秀なのに、部隊の死傷者が異常に多い。何故だと思う?」


「激戦区に投入されるからとか?」


 ラルクさんは即座に否定した。


「わざと死傷者が多く出るような作戦をとるのさ。そして面白そうな獲物は、自分で狩らないと満足しない」


「獲物って・・・僕の事?」


 無言で頷かれる。


「お別れは済んだか?」


 セイドリックが、テントの入口から初めて会った時の赤い鎧を着けた姿を現す。


 もうやるしかない。


 鞄をラルクさんに渡し、短剣を抜き構える。


「ガキに攻撃をかわされたままじゃ、俺の沽券に関わるからな」


 かわせたのは、ラルクさんの視線の御蔭でたまたまだ。


 セイドリックは、外の部下達に向けて命令を下す。


「てめえら蟻一匹も通すなよ!通したら全員死刑だ!」


 この男は本当にやる。


 セイドリックが剣を抜き構えた時、僕の横に小刀を持ったラルクさんが進み出た。


「いくら何でも子供にやらせる訳にいかないからな」


 僕と視線が交差し、ラルクさんがジッと僕を見つめ腰をポンと叩く。


「ルークの方が可能性ありそうだな。任せた」


 そう言って格好つけた割りにあっさり逃げた。


 気を取り直してセイドリックと対峙する。


 遅いのが気になるけどフェンリルが来れば、逃げ出す事も可能かも知れない。


「何で村の人達を殺したの?」


 それには、時間を稼がなきゃいけない。


「時間稼ぎか?あの狼を待ってるんだろうが、今頃俺のウランちゃんと追いかけっこしてると思うぜ」


 あっさりばれた。


「俺もあいつを待ちたい気持ちがあるからな。ちょっとだけ時間稼ぎに付き合ってやるよ。村人を殺したのは、俺にとって必要のない人間だからさ」


 この男は完全に狂っている。


「お前を餌に、狼がかかるのを待ってやってるんだがな」


 さっき蟻も通すなと言っていた癖に。


 外の兵士達からどよめきが起き、セイドリックが叫ぶ。


「通すなよ!」


 そして小声でまだなと続ける。


「お前の後に、ゆっくりとメインディッシュを楽しむとしようか!」


 僕が死ねば、メインディッシュもお預けになるのを知らないセイドリックが、僕目掛けて動く。


 さっきラルクさんが腰を叩いた時に、気づかれないようつけてくれた小刀を引き抜き、セイドリックの足目掛けて投げる。


 見事な足捌きでそれをかわされるものの、僅かに踏み込みが浅くなった。


 セイドリックの僅かに鈍った斬撃を全力で弾くと、体勢が崩れ返しの斬撃に反応が遅れてしまった。


 かわせない!と諦めた時、僕の身体が背後に引きずられるように移動して、セイドリックの剣は空を切る。


「やっぱり大人が頑張らなきゃな」


 僕の首筋を掴んで、助けてくれたラルクさん。


 だけどそれなら、僕の前に立ってくれなきゃいけないと思う。


「うほっかなりマジにいったのにかわされちまったぜ。大人が頑張るならお前が先か?」


 セイドリックが剣先でラルクさんを指すと、ラルクさんは僕の後ろに下がる。


 大人が頑張るって言ったのに・・・


 ラルクさんが僕の後ろで、大声で外に向けて叫んだ。


「いつまで油売ってやがるんだ負け犬!」


 疾風のように漆黒の狼がテントに飛び込んで来て、セイドリックの横を駆け抜け、僕の横も駆け抜けていき。


「ぐはぁ!」


 ラルクさんが、フェンリルの右ストレートを受け、地面を転がっていった。


「誰が負け犬だこの野郎!」


 大人が頑張るって・・・ラルクさんじゃなくて、フェンリルが頑張るって事?

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