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狼竜物語  作者: レオ
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(6)

 離れた平野を一望出来る場所で、僕とフェンリルは息を殺しその様子を窺っていた。


「二百から三百ぐらいはいるな。俺様達を探索に出てる奴らを加えれば、ざっと五百ってとこか」


「これ以上、隠れて近づけそうなとこもないね」


 森にでも陣をしいてくれていればよかったのだが、隠密行動ならともかく火攻めの危険性があるので、余程無能な指揮官でもなければそんな愚策はやらない。


「となりゃ闇に紛れて近づくのが一番だな」


「闇っても今日は物凄く明るいよ」


 夏になり日が長くなってしまったのか、僅かに薄暗くなっているだけで、これでは闇に紛れて近づくのは難しい。


「おめぇちょっとこっち向いてみな」


 ジーと僕を凝視するフェンリル。


 そんなに見つめられると、照れてしまう。


「とっくの昔に、真夜中になってんぜ。空を見てみな」


 言われて真上を見れば、黄色い月が浮かんでいた。


「今日は月が明るいね」


 ずっこけるフェンリル。


「おめぇはアホか!俺様の力でおめぇの肉体の能力を引き上げてるから、夜目が効くようになってんだよ」


 夜目って、夜でもよく物が見えるようになるってやつかな?


 自分を見る事が出来ないルークは、フェンリルと同じ紅い色が混じっているのに気づかない。


「力ある者が血を介して、おめぇみたいな貧弱な奴の力を引き上げるのを、加護っつーんだ覚えときな」


 ああ、それで僕に血を舐めさせたのかと納得する。


「フェンリルの加護は、夜目が効くようになるだけ?なんかショボうわっ!」


 フェンリルの右フックを、すんでのところでかわす。


 フェンリルはチッと舌打ちしてから「夜目が利くだけじゃねーよ。今のもちゃんと見えたろ?」


 確かにハッキリと見えましたよ。


 殺意に満ちた狼の眼が。


「加護つーのは、与える奴によって何を引き上げるのかはちげーんだ。俺様のは、動態視力やら夜目やら、目に関するものだったみてーだな」


「みてーだなって、フェンリルも知らなかったの?」


「やったのは初めてなんだから知る訳ねーだろ。そもそも加護だって、それなりの力がなけりゃー受けられないんだからな」


 それなりの力が僕にあるかはわからないけど、フェンリルの御蔭で夜は明かりがいらなくなったのは確かだ。


「あのブッサイクな飛竜の飼い主も、加護を受けてんだぜ」


 幾つもの簡易テントが並ぶ陣の中央に、他より少し豪華なテントと横にいる飛竜が見える。


 飛竜がいるという事は、マスターである赤毛もあそこにいる。


「赤毛は誰に加護を受けたの?」


「俺様のふっるーい顔見知りさ」


 友達じゃなくて顔見知り。


 まあ、フェンリル友達いなさそうだけどね。


 視線を外してた僕の後頭部に鈍い衝撃。


「痛いよ・・・そんなポンポン殴られたら馬鹿になるでしょ」


「おめぇはもう馬鹿なんだから、それ以上馬鹿になんねーよ」


 酷い言われようだ。


「同じ加護を受けてるなら、僕あいつに勝てるかな?」


 フェンリルは信じられない事を聞いたみたいに、ポカーンと口を開けている。


「マスターは一回死んでも治らないぐらい馬鹿だな。そもそものベースが違い過ぎるんだ。あいつに会ったら死ぬ気で逃げな」


 そんなに世の中甘くない。


 ジッと陣を凝視していると、幾つも並ぶテントの一つから怪我人と思わしき人が出て来るのが見えた。


「あのテントが医療部隊のテントかな?」


「かもな。俺様が騒ぎを起こすから、おめぇはその隙に薬を手に入れな」


 わかったと返事をするとフェンリルは、陣の反対側に向けて駆けていった。


 それから、地面にはいつくばる事数時間、いや本当は数分も経ってはいない。


 たった数秒間が数時間にも感じる、そんな濃厚なようでいて虚無の時間を僕は過ごしている。


 脇に抱えた鞄からは、溶けだした氷の水が染み出していて、そんなに時間の猶予はないと知らせていて、フェンリル早くと心が急く。


 陣から火事だ~と叫びが聞こえた時、僕は全速力で陣に向けて駆け出し、テントの一つに辿り着き、息を整え様子を窺う。


 離れた場所のテントの一つが燃え上がり、兵士達は消火作業に追われ周りを気にする様子はない。


 今ならいける!


 怪我をした兵士が出て来たテントに、僕は飛び込んだ。


 ツンと薬品の臭いが鼻をつき、目指していた場所に間違いはない事を僕に伝える。


 中は診療用の簡単なベッドと、何が入っているのかわからない瓶が沢山並んだ棚、そして椅子に座りこちらを見る白衣を着ている黒髪の男がいた。


 男は中肉中背で、歳は25~30ぐらいだろうか?


 白衣を着ているとこを見れば、多分医者なのだろう。


 いきなり飛び込んで来た僕に驚く事もなく、黒髪をかきあげ「まさか、本当に来るとは思わなかったな。見張りもいなかったから、ここに忍び込むのは難しくなかっただろ?」


 本当に来るとは思わなかった?


 男の視線が僕ではなく、脇のカーテンで仕切られた場所に向けられているのに気づき飛びのく。


 白刃が裏側から煌めき、カーテンが切断され落ちる。


「あらら避けられちまったぜ。まあ、せっかく待ってたんだ。あっさり終わってくれても面白くねーよな」


 カーテンの裏側から現れたのは、赤毛の男だった。


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