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狼竜物語  作者: レオ
53/255

(4)

 はぁっはぁっ


 息が切れ、額を玉のような汗が伝う。


 もっと遠く、あの赤毛の男から離れなきゃ。


 腕の中のナーガからは、生温かい血が絶え間なく流れている。


 村が完全に見えなくなってから、初めてその足を止めナーガを下に降ろす。


 首から胸にかけて、剣で付けられた無数の傷。


 背中には、飛竜の鈎爪でえぐられた深い傷。


 それらよりも目を釘付けにしたのは、弓矢で射られた翼の傷。


 翼の傷跡だけが周辺の肌を、どす黒く変色させている。


「ナーガしっかりして。すぐに手当てするからね」


 手際よく消毒し、薬草と血止めを擦り込み包帯を巻いていく。


 包帯はすぐに赤く染まり、その傷の深さを物語っている。


 ナーガの体温がいつもより高いのは、傷だけのせいではないとルークも気づいている。


 変色した肌、動きの鈍かったナーガ。


 最初に射られた弓に、毒が塗られていたんだ。


 毒の種類がわからないと、何も出来ない。


 そんな都合よく、全ての毒物を無効化するような薬草はない。


 出血を止め、後はナーガの生命力に賭けるしか手がない現状に、歯ぎしりする。


 その時、ガサガサ。


 茂みが音を立て、グルルルル・・・


 唸り声を発しながら姿を現す犬型の獣。


「フェンリル・・・じゃないよね」


 短剣を抜いて身構える。


 視線の先には、目が三つもある野犬のような魔獣。


 血の臭いを嗅ぎ付け、さらに後ろから同じ種類の魔獣二頭が、距離をじりじりと詰めて来る。


「ナーガ狭いけど、少し我慢してね」


 鞄から鍋を取り出し、空いたスペースにナーガを入れる。


 値踏みするように威嚇しながら、三頭の魔獣がぐるぐるまわる。


 獲物と認識され、背後と前にいた魔獣が同時に、襲い掛かってくる。


 前から襲い掛かる魔獣が口を開けた瞬間に、取り出していた鍋を突っ込み、背後の魔獣に蹴りを入れるとギャンッと一声鳴いて下がる。


 動かなかった残った一頭に向けて走ると、獲物が自分から向かって来ると思っていなかったのか、後ろに逃げようとする。


 犬型は逃げるものを追う習性がある。


 逆に獲物から追われるのには慣れていない。


 逃げるのを諦め、牙を剥く魔獣の顎の下から全力で短剣を突き刺す。


 ビクンビクンと痙攣しながら崩れ落ちる魔獣。


 倒れた魔獣から、短剣を引き抜こうと引っ張るが抜けない。


 あれ程、多数が相手の時に刺すのは厳禁だと、注意されていたのにやってしまった。


 周辺に武器になりそうな枝も石もない。


 このままじゃナーガと、魔獣のランチになってしまう。


 魔獣は警戒してすぐに飛び込んでは来ないが、いずれ襲い掛かって来るだろう。


 マ・・・スター・・・


 か細い声が、耳に飛び込んでくる。


「喋っちゃ駄目。僕が何とかするから・・・今度は僕がナーガを守るんだ」


 強がってはいても、これといった手はない。


 か細い声は尚も喋りかけ、窮地を脱する為の策を提案してくる。


「そんなのナーガに負担がかかるよ」


 今にも消え入りそうな声で、大丈夫だとナーガはルークに告げる。


 これだけひどい傷で大丈夫な訳ない。


 でも、それ以外に妙案はない。


 鞄から水筒を取り出し、栓を開け裏返しにする。


 中の水がこぼれ落ち、それを合図に二頭の魔獣が襲い掛かって来る。


 空間が歪みこぼれ落ちる水が氷に変わり、即席の剣にその姿を変える。


 うおおおぉぉぉ


 僕は獣のように吠え、魔獣の眉間に氷の刃を突き立て、もう一頭はナーガの作り出した氷の槍に貫かれ、その動きを止めた。


「やった・・・」


 ペタンとその場に座り込み、ナーガやったよと声をかけるが返事はない。


 まだ鞄の中のナーガの胸は上下に動いている。


 ホッと生きている事に安堵するが、こちらに向かって来る何かの気配に気づき、再度身構える。


 現れたのは漆黒の毛並みに紅き瞳を宿した狼。


「フェンリル!ナーガが・・・」


フェンリルは鞄の中身を確認すると、非情に告げた。


「そいつはもう駄目だ。置いて俺様達だけでいくぞ」

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