(3)
赤毛の男は、逃げていくルークを追おうとはしない。
「あちらは追わなくてもいいのか?」
「兎狩りもオツなもんだぜ。それに今興味があるのはお前だけだ。さっきの奴よりかは楽しませてくれるんだろ?」
赤毛より先にフェンリルが動き、剣の射程に入る寸前にスピードを緩め、前足で砂を赤毛の顔目掛け跳ね上げてから、トップスピードで懐に飛び込む。
反応が遅れた赤毛の装甲が薄い首を狙った鋭い爪の一撃を、赤毛は腕を上げ鉄甲で防ぎ、耳をつんざくような金属音が響く。
返しの鋭い剣撃が、漆黒の毛を宙に舞わす。
フェンリルは至近距離から力を集束させ、かわしようのない炎の魔法を放つと、赤毛はまともにそれを受け後方に下がった。
「チッその鎧は対魔術用かよ」
炎をまともに受け、赤い鎧はブスブスと焦げた臭いを発しているが、赤毛の男にダメージはない。
「汚ったねえ手を使うじゃねーか。こいつがなきゃちょっとヤバかったぜ」
赤毛が喋っている間に、フェンリルは力を集束させ放つ。
男の足元で弾けた炎は、砂埃を盛大に巻き上げ、砂煙は男の視界を奪う。
視界に頼れない同士の戦いなら、鋭敏な感覚を有する俺様のものだとフェンリルは砂煙の中に突っ込もうとすると、地面に影が映り後方に飛びのくと地面を飛竜の鋭い爪が削り取っていった。
空に向けて炎を放つが飛竜は軽くかわしていき、砂煙が薄れて来ると赤毛はそのままの位置でニヤニヤ笑っていた。
「俺の使い魔のウランちゃんは優秀だろ。マスターの危機には駆け付けるんだぜ」
「あのゴツいのがウランちゃんて面かよ」
上空で飛竜がギャースと吠える。
「悪口にウランが怒ってるぜ!」
砂煙を纏い赤毛が間合いを詰め、鋭い剣撃が間断なく襲い掛かる。
フェンリルが間合いを取り後ろに下がると、飛竜が上空から襲い掛かり休む隙も与えない。
フェンリルは、炎を間近に撃ち込み再度砂煙で煙幕を張り、手近な家に飛び込む。
家の中は赤一色で彩られ、家族だろう三人が床に転がっていて、まだ産まれてそれ程たってないだろう赤子も、小さなベッドの上でその目を閉じる事なく赤く染まっている。
「お前戦い慣れてるな。家の中ならウランは手が出せないからな」
外から赤毛が叫ぶ。
「と、思っただろ」
バリバリバリと家の屋根を飛竜が剥ぎ取り、同時に家に飛び込んでくる赤毛を見てフェンリルは窓を突き破って外に飛び出し、反転して瞬時に力を集束させ家に向かって放つ。
「あめえんだよ!」
轟音と共に家が吹き飛ぶ。
赤い鎧は魔法を防ぐ。
それなら魔法と物理の同時の攻撃ならどうだと、炎に包まれた家を見詰める。
「てめぇ・・・いてえじゃねーか」
崩れ落ちる家から、血を流した赤毛が出て来る。
魔法で吹き飛んだ家の板が頭に当たって、ダメージを与える事が出来たようだが倒す程ではない。
だがそんな事は想定内だ。
フェンリルは落ちていた矢をくわえて赤毛に迫り、剣と矢が交差する。
両者が離れると、フェンリルの前足から血が流れ、地面を赤く染める。
対して赤毛は、手の甲を浅く斬られただけのかすり傷だ。
明らかに深手はフェンリルの方だが、笑みを浮かべるのはフェンリル。
「どうした、何かマズイもんでも塗ってたのか?」
フェンリルの笑みにつられて、赤毛も笑みを浮かべる。
「わかってる癖に厭味な野郎だぜ。どうやらお開きのようだな」
口笛を吹き、飛竜を呼び寄せる。
「勝手にお開きにしてんじゃねーよ。俺様がお前を行かせるとでも思っているのか」
「死ぬまで相手するか?この辺りは野生の魔獣も多いし、俺のノロマな部下どももそろそろ到着する頃だぜ」
ケッと吐き捨て少年が逃げた方向に走り出すフェンリルに、赤毛は背後から声をかける。
「俺の名はセイドリックだ。お前の名は?」
「変態に教える名前はねーよ」
そのままフェンリルは消えていった。
セイドリックは飛竜の背に跨がり、上機嫌で呟いた。
「つまんねー命令かと思いきや、中々楽しめるじゃねーか。さて、ノロマどものケツを叩いて兎狩りと洒落込もうぜ」
飛竜は一声鳴くと、主人を乗せて飛び立った。




