(15)
数多くの馬車が行き交い、馬のいななきと車輪の音が交差する。
朝早くから、結界が失くなった門は、いつもの何倍もの警護の人間が立っており、ルフツネイルは異様な賑わいを見せている。
せめてリュートにお別れを言いたいと来たのだが、ここの生徒だと何度説明しても通してもらえず、門の脇に立って通り過ぎる馬車を凝視する。
殆どの馬車はカーテンが下ろされ、リュートが乗った馬車を見つけるのは至難の業だ。
「フェンリル、リュートの匂いを嗅ぎ分けられないかな?」
既に退屈に負けて、フェンリルは仏頂面だ。
「嗅ぎ分けるつっても、俺様はリュートとかいうガキと会った事無いんだぜ」
それもそうだ。
諦めて出発しようとした時、一台の馬車が止まり、その中から「ルークさ~ん」と黒髪の少年が降りこちらに駆けて来る。
「リュートもう会えないかと諦めるとこだったよ」
黒のクリっとした眼が印象的な、愛らしい少年はニヘラと笑い。
「僕もです。警護の人に、外を見ちゃ駄目だって言われてたけど、見てて良かったです」
行き交う馬車の三分の二は囮で、誰が乗っているのかわからないように、カーテンを完全に閉めているらしい。
リュートに続いて警護の者らしき人が、慌ててこちらに向かって来るけど、リュートが手で制すると直立不動でその場で待機した。
こんな光景を見ると、やっぱりリュートも貴族なんだなぁなんて、今更ながら思う。
「竜さんは見た事あるんですけど、そちらの狼さんはどちら様ですか?」
「竜がナーガで、こっちはフェンリル。どちらも僕の使い魔だよ」
リュートの瞳が、物凄くキラキラしている。
「凄いです!どうやって二頭と契約するんですか?教えてください。そしたら二人分の御給金が節約できます」
教えられるなら教えたいけど、フェンリル二頭と契約するなら、普通に二人雇ったほうが節約出来ると思うよ。
それを伝えるかどうか迷っている間に、リュートはフェンリルの前に立ち「狼さんお手!あうっっっ」とフェンリルの神速の右ビンタで吹っ飛んでた。
「ルークさん!殴られた、殴られましたよ!」
地面に転がったリュートを見て、警護が駆け寄ろうとしたけど、フェンリルとナーガが睨むと、自分達は待機と命令されましたからみたいな顔をしてそっぽを向く。
こんな警護で大丈夫だろうか?
いい機会だから、身を持って教えておこうと覚悟を決め、リュートの肩を掴んで諭す。
「魔獣は契約したら従順だなんて嘘っぱちだから。いい・・・見てて」
リュートの代わりに、フェンリルの前に立ち。
「おかわり!あふぅっっっ」
ビンタじゃなくて完全に左フック・・・マスターじゃないリュートより扱いが酷いってどういう事?
地面に転がりながら、リュートに「ほらね」と言うとコクコクと頷いている。
痛かったけど、わかってもらえて満足。
お互い立ち上がり「お腹の傷は大丈夫?」と聞くと、わざわざお腹をめくり「傷痕もありませんよ」と見せてくる。
ここまでお互い笑顔だったけど、リュートの顔が歪んでボロボロ大粒の涙が零れる。
「リューグざん・・・まだ会えまずよね」
別れを惜しんでくれる友達に、僕もつられて泣きそうになる。
父さんみたいに、頭をポンポン叩いて年上ぶろうとしたけど、頭に手を置いたところで堪えられなくなり、そのままリュートを抱きしめた。
年下に泣き顔見せるなんて、格好悪いもんね。
歳を取ると、涙腺がゆるくなるって言うけど、僕もそうなのかな?
「絶対に会いに行くから。約束するよ」
休校は、僕のせい。
だから、ルフツネイルが再開したらとは言えない。
僕の気持ちを知ってか知らずか、父様と母上様に久しぶりに会えるので、僕は嬉しいですなんて・・・本当にいい子なのはリュートだ。
フェンリルとナーガは、居心地が悪そうにしてたけど、もう格好悪いとか考える余裕なんてなくて、二人でワンワン泣いて、リュートを乗せて走り出す馬車に、僕は見えなくなるまで手を振って、リュートも見えなくなるまで、窓から身を乗り出して手を振ってくれた。
馬車が見えなくなってから、僕は涙を拭いて精一杯の笑顔で「じゃあ行こうか。答えを探しに!」と出発する。
「答えって何だ?」
「僕とナーガの秘密。フェンリルには教えてやんない」
何だよそりゃっ!なんて凄んでも絶対無理。
ナーガは僕とフェンリルの様子を見て笑ってたけど、やっぱり旅立ちは笑顔じゃなくっちゃね。
答えがあるかなんてわからない。
でもきっと求める事に意味があるんだ。
誰でもない僕がそう決めた。




