(12)
栗色の長い髪が白いドレスに映え、入口を塞ぐように立つ女性の美しさを際立たせている。
「綺麗な人ですね」
自らの血で、服を赤く染めたリュートが呟く。
何も考えてないのか、それとも大物なのか・・・多分前者だ。
「で、どちらがルーク君なのかしら?」
リュートを庇うように、その前に立ち女性を睨む。
「ルークは僕です、おばさん」
おばさん呼ばわりされた女性のこめかみが、ぴくぴくと痙攣している。
「ルークさん。綺麗な女性におばさんは失礼ですよ。せめてお姉さんと言わないと」
全身の力が抜けそうになる。
「そっちの坊やは、よくわかってるじゃない。せめて苦しまないように殺ってあげるわ」
女性の狙いは僕だ。
でも、リュートを逃すつもりもないらしい。
「おばさんが、その人を使ってリュートを襲わせたの?」
「誰がおばさんですって?お姉さんでしょ」
「おばさん」
「お姉さん」
「おばちゃん」
「お姉さん」
数度そんなやり取りを繰り返すと、女性が完全に切れた。
「いい加減にしないとぶち殺すわよ!」
殺気を含んだ視線を受け流し、とにかくリュートから気を逸らさないとと考える。
「僕があいつを引き付けるから、リュートは誰かに助けを求めて」
まだ状況を把握してないリュートは、不思議そうにわかりましたと頷く。
「行って!」
合図と同時に本を投げつけ、入口を塞ぐ女との間合いを詰める。
女が投げつけた本に、右手を一閃すると、本は空中で弾かれ分解する。
何か持ってる?本は手が当たるより先に弾かれたように見えた。
手が届く距離にないはずの、顔目掛け突き出される右手を早目にかわすと、何もない空間に斬られたように肩に痛みを感じる。
構う事なく唱えていた呪文を構築し、女の顔目掛け放つ。ただ光を放つだけの魔法。
女が一瞬気をとられた隙に、体当たりをし、塞いでいたドアから引き離すと、その後ろをリュートが通り外に飛び出していった
「あらら一匹逃しちゃったわ。あなた中々やるわね」
痛む肩に手をやると、スッパリと切られ血が滲んでいた。
女の手には、何も握られてはいないはずなのに、虚空が一瞬日に反射してキラリと光る。
透明の武器。
自分の肩を傷つけたのは、そう考えるしかなかった。
「本当にゾクゾクさせてくれるわ」
上段から右手を振り下ろしてくる女に、後ろに避けるのではなく逆に一歩踏み込み、両腕をクロスさせ女の手首を受ける。
武器の長さがわからない以上、これが一番確実に防ぐ方法だ。
女の右手を掴み、投げようとした時に、女の左手が横なぎに払われる。
嫌な予感がして、払われる方向に全力で飛びのくと、今度は空間にお腹を浅く斬られ痛みが走る。
いつの間に、左手に持ち替えたんだ?
武器の長さも、どっちに持っているのかもわからないというのは、想像以上に厳しい。
とにかく時間を稼がないと・・・
「お姉さん、誰に頼まれたの?」
喋りかけながら、気づかれないように、椅子を足で引き寄せる。
「時間稼ぎが見え見えよ!」
迫りくる女に椅子を投げつけ、倒れたままの生徒の側に飛びのき、床にあるそれを手で握り込む。
椅子を弾き飛ばし、尚も向かってくる女にそれを投げつけると、何もなかった空中に赤い色が付着する。
女が右手を振り上げるが、その手には何も持っていない。
武器が握られているのは左手と判断して、振り下ろされる右手を無視して思いっきり打ち込むと、たたらを踏み女が後方に下がり膝をついた。
「本当にあなた末恐ろしいわ・・・誰の血なのかしらこれ」
「貴女の仲間が刺したリュートの血だよ」
女は可笑しそうに口角を吊り上げる。
「そいつは仲間なんかじゃないわよ。ランバルから来た十歳の特待生と伝えたのに、間違えて刺すような間抜けは、あたしの身代わりの襲撃犯ぐらいにしかなれないわ」
立ち上がると女は着ているドレスで、武器に付着した血液を拭き取っていく。
「そろそろ死んでくれないかしら?」
付着した血液は拭き取られ、うっすらとしか見えない。
戦闘中に判別するのは難しい。
だけど僕は微笑を浮かべ、手に構築した光を生みだし、外に向かって放つ。
「もしかして使い魔への合図かしら?ここを何処だと思っているの、魔獣が結界を通れる訳無いわ」
普通ならそう考える。
でもナーガは結界を破れない事はないと言っていた。
そして外の騒がしさの質が変化したのを、僕は感じとっている。
「ナーガなら絶対に来る」
言葉と同時に壁を突き破り、白い竜が教室に飛び込んで来た。




