(10)
机に所狭しと重ねられた書類の束に、目を通しながらその女アネルカは満足げに頷く。
「流石、大陸一の都にあるギルドは優秀だわ」
書類以外にも、偽造の身分証明。
ルフツネイルに、通っている生徒の名簿。
普通なら一週間はかかる面会許可書も、買収している門番に今日の午後には、面会出来るよう滑りこませている。
「でも、あねさん。竜のマスターが誰だかわからないっすよ」
両手に書類を抱えた男の疑問に、アネルカは軽い目眩を覚える。
「それだからあんたは、いつまでたっても一流どころか、二流にもなれないのよ。白い竜が確認されたのは僅か一ヶ月前のメンデス。それからルフツネイルに通っているのは一人だけよ」
アネルカは一枚の紙を机の上に滑らせ、男はその紙を見て驚きの声を上げる。
「こいつは・・・子供じゃねーですか?」
寄越されたのは生徒名簿。
そこに書かれていたのは、僅か十歳の子供だった。
「あたしも意外だったけど、その子凄いわ。僅か十歳で、ルフツネイルの特待生になっているのよ」
「でも外から通っているのなら、難しい中に入ってやらなくても、外で待ち伏せた方が確実じゃねーですか?」
今度の男の疑問はもっともだ。
「書類をよく見なさい。その子、魔獣の通行許可を二頭とっているの。つまり、あの竜に匹敵する魔獣がもう一頭いるのよ」
あの竜は、あんなに離れていたあたし達の視線に気づいていた。
そんな化け物二頭相手に近づいて殺るより、近づかせないで殺る方が確実だわ。
既にプランは出来ている。
上手くいきそうになければ、何食わぬ顔をして何もせずに、そのまま帰ればいいのだ。
「でもあねさん。こいつだけじゃ顔がわかりませんぜ」
またでもだ、コイツの馬鹿さ加減には、目眩を通りこして頭痛がする。
「ランバル出身の十歳なんて、そんなに数はいないでしょ。中にいる留学生に手伝ってもらうわ。自分の国の王様の依頼ですもの、快く協力してくれるでしょうよ」
男はやっと得心がいったようだった。
「あたしは優しいから、その留学生にもチャンスはあげる。中で爆発でも起こって、パニックになっている隙にでも殺れば、誰が殺ったかなんてわからないでしょ?」
優しいなんて嘘。
自分の手は極力汚さないで、手柄だけいただくのが一流なのよ。
「でも、爆発物なんて持ち込めねっすよ」
「無ければ作るのよ。あれだけの人数が通う学校よ、貯蔵庫には十分な量の小麦粉があるはずだわ」
「小麦粉?パンケーキでも作るんですか」
男は自分で言った、くだらない冗談に笑っている。
コイツは一から十どころか、百まで説明しないとわからないらしいとアネルカは額を押さえた。
「あたしはドレスに着替えるから、あんたは馬車の手配をしてきなさい」
アネルカは、男を部屋から追い出すと、ドレスに着替えながら思う。
この依頼が終わったらパートナーを変えてもらわなきゃ。
数刻後
ルフツネイルの校門に、豪奢な馬車が止まり、中から着飾ったアネルカが御者に手を借り降りる。
面会許可書を門番に渡し、執拗なボディチェックを受けるが程なく校内に入場する。
案内人に先導されながら、アネルカは表情に出さないように毒づく。
(あの門番、執拗に胸を触りまくりやがって!)
内庭でナーガを見つけ軽く視線で挨拶をかわす。
ここまでは順調ね。
さあ、パーティーの始まりよ。




