(8)
夕闇が街を朱に染める頃、僕はランスさんと一緒に校門をくぐった。
「これからどうするかな」
ぽつりと寂しげにランスさんが呟く。
こんな時、どんな風に声をかけてあげればいいんだろう?
結局ランスさんは、特待生としてルフツネイルに残る事は出来なかった。
「そんな顔すんなって、短い間だったけど大陸一とも言われる学園に通えたんだ。後悔はねーよ」
無理に笑顔を作ってるけど、口角が引き攣り、担いでいる袋がモゾモゾ動く。
「結局スライムと契約したんですね」
「ああ、契約しないでいたら処分されるらしくてな。森にでも行って契約破棄して、放してやるつもりだ」
きっといい召喚術師になれただろうに、現実は無情だ。
「追い出された俺が言うのもなんだが、明日は我が身にならないようにしっかりな」
そこに、いつの間にか来たフェンリルが割って入る。
「俺様のマスターを、スライム呼び出すようなマヌケと一緒にしてもらいたくねーな」
ランスさんは、僕とフェンリルを交互に見つめる。
「僕の使い魔です」
ランスさんは、担いでいた袋を僕に差し出し「これと交換してくれ」
・・・・・・・
「半分冗談だ」
やっぱり冗談ですよねって半分は本気ですか?
「ルークは凄いな。魔法の特待生だけじゃなく、召喚術師としても特待生になれそうだ。もしかしたら、その魔獣トリプルSクラスじゃないか?」
トリプルSというのは、魔獣を細かく分けたランク付けで最上級になる。
因みにシビルタイガーはシングルSだ。
ランスさんが視線を落とし寂しげに呟く。
「ランスロッド伝説早くも頓挫か・・・」
伝説作るってのも本気だった?
「伝説なら作ったじゃねーか」
ランスさんが、視線を地面からフェンリルに移す。
「名門て言われるとこでスライム呼び出したんだ。もう伝説だろ?」
「そんな伝説いらね」
フェンリルはフフンと馬鹿にする様に鼻で笑った。
「これからおめぇは、何処で何をしようがスライム君て呼ばれるんだぜ」
スライム君・・・ランスさんは反芻する。
「おめぇはスライム呼び出した時点で負けたんだ。人生の落伍者なんだよ!」
ランスさんは膝から崩れ落ち、落伍者、スライム君・・・とブツブツ呟き、既に目の焦点が合っていない。
フェンリルはランスに近付き、耳元で「スライム君」
ランスさんがその言葉にビクゥッと反応する。
「落伍者」
わざわざ耳元で言わなくても、ここまで聞こえている。
「駄目人間」
うわぁぁぁぁぁ!
ランスさんは、叫びを上げ物凄い勢いで街に駆け出す。
「ランスさん?待って!」
僕が止める間もなく、ランスさんは雑踏に消えていった。
「フェンリル!いくらなんでも言っていい事と悪い事があるでしょ」
フェンリルは急に真剣な顔つきになり僕をじっと見る。
「俺様は、あいつのメンタルが弱いのを見抜いて、鍛える為にわざと悪役を買ってやったんだ」
「本当に?」
フェンリルが余りに真剣な眼差しで、僕を見つめるから本当にそうなのかもと一瞬思ったけど…
「ぶひゃひゃひゃ、んな訳ねーだろ」
やっぱり。
「フェンリルってトリプルSだよね」
「あん?俺様をランク付けなんて無理だぜ」
「間違いなくトリプルSだよ」
S・・・喋る
S・・・性格が悪い
S・・・ドSのトリプルS
「痛い!」
何故かフェンリルに殴られた。
「何で殴るの!」
「いや・・・何か悪口を考えてる気がした」
人の考えてる事を感じとるなんて・・・
「ランスさんが心配だから探さないと」
今は漫才している場合じゃない。
「心配ねーよ。スライムがいるだろ」
まだそれを言うの?
「召喚術てのは魂の力に応じて、その人間に必要なものが呼び出されるんだぜ。あいつにはあれが必要だったって事だな」
「それは本当なの?」
さっきの事もあるし、全面的には信じられない。
「マスターは何も知らないんだな。召喚と魂の契約もワンセットだと思ってるだろ。もともとは、全く違う用途のものを人間に使えるように、改良して組み合わせて伝わったもんなんだぜ」
フェンリルの言っている事は、召喚術の授業でも出てきた事はない。
「そんな話聞いたことないよ。何でそんな事を知ってるの?」
フェンリルはまた鼻で笑い。
「さあな。マスターもあいつみたいに追い出されないようにな。明日は我が身だぜ」
明日は我が身。
ランスさんと理由は違えども、僕は翌日痛い程、この言葉の意味を知る事になった。




