(7)
カツーンカツーン、地下に続く階段に、幾つもの靴音が響く。
先頭に召喚術の講師、ランスロッドさんと僕とリュート、それに数名の生徒が後に続く。
最後尾は、武装した兵士とバルガス先生。
召喚の儀式の見学許可をもらうのに、僕とリュートは、何が起きても自己責任みたいな事を書いている書類に、サインさせられた。
ギィィィ、厚い鉄の扉が開けられる。
無機質な岩壁の部屋。
所々にどす黒い血のような後があり、部屋の中央には召喚陣。
全員が部屋に入ったところで扉が閉じられ、カチャリと鍵は閉められた。
不安を感じてバルガス先生を見上げると「時々しか事故は起こらないから心配するな」と魔獣より怖い笑みを返してくる。
・・・時々は起こるんですね。
魂の力の強い特待生候補の召喚だけに、時折御し切れない程、強い魔獣が召喚されてしまう事もある。
地下の部屋で召喚を行うのも、万が一の事故に備えて魔獣を閉じ込める為らしい。
バルガス先生がいるから大丈夫だよね?
今日は珍しく帯剣しているけど、丸太のような太い腕は、素手でも魔獣を叩き潰してしまえそう。
授業では怖いけど、こんな時はやっぱり頼りになる。
「緊張してます?」
声をかけたランスさんのポニーテールが揺れる。
「儀式の時、血垂らさなきゃいけないんだよな・・・俺、血苦手なんだよ」
そっちの緊張ですか・・・
「見てな、すっげえの呼び出してランスロッド様伝説の始まりだぜ」
自分で様って・・・狼の姿が浮かび、フェンリルが二頭いたら・・・なんか嫌。
「ロッドさん頑張って下さい。・・・イダイ!痛いですロッドさん」
呼び方統一しろって言ったよなと、リュートの頭をランスさんが、両拳でグリグリしている。
「そこ!遊びじゃないんだぞ」
先生に怒られて、リュートが怒られたのはロッドさんのせいですからねと、恨めしげにランスさんを見ている。
「さて、いっちょかましてくるか!」
ランスさんは、腕をまわしながら中央に向かっていく。
「緊張も解けましたかね?」
僕よりも年下なのに、こんな事が自然に出来るのがリュートのいいところだ。
「ロッドさんにいい結果だといいですね」
・・・やっぱり天然かも知れない
ランスさんが召喚陣の前に立ち、召喚の儀式は厳かに始まった。
誰も一言も発しなくなった部屋に、ランスロッドの叫びが木霊する。
「いて~って、もっと優しくしてくれ」
血を落とす為に、何処かを切らなきゃいけないのだが、ランスさんは自分で出来ずに先生にしてもらっている。
意志の強そうな太い眉毛は見掛け倒しらしい。
悪戦苦闘の末、ようやく召喚陣の中央に血が落とされ、静寂の中召喚の呪文が響き、そして唱え終わる。
少し前に僕もしたけど、装備した人が控えてたり、やっぱり召喚は危険な事なんだ。
「おらっっっ来たぜ!」
物思いに耽っていた僕の思考を、ハイテンションなランスさんの叫びが遮る。
召喚陣から青く幻想的な光が漏れ、光は中央から全体に拡がってから中央に収束していく。
「何がでるかワクワクしますね」
軽口をたたくリュートと違って、バルガス先生は剣のつかに手をやり、険しい目で中央を見つめている。
青い光が一つの形になっていく。
でも随分ひらべったいような?
高さが、ランスさんのくるぶしぐらいしかない。
ゆっくりと青から銀色のフォルムに姿を変えていき、それはその全体を現わした。
「何でしょうね、あれ」
「多分・・・スライムじゃないかな?」
そう、そこにいたのは、どう見てもスライムとしか言えない、銀色のひらべったい物体。
「ロッドさん特待生として残れるんですかね?」
バルガス先生は、鍵を受け取り出て行こうとしているし、ランスさんは膝から崩れ落ちている。
リュートの質問に、僕は答えてあげる事が出来なかった。
【スライム】
生息地・世界各地
洞窟の上などに張り付き、下を通る小動物に目掛けて落ち、捕食して吸収消化する。
自我は殆どなく契約は簡単である。
銀色のスライムは目撃例・召喚例がなく詳しい生態は不明。




