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狼竜物語  作者: レオ
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(6)

 蝉の声が煩いほど、耳朶を打ち聞こえてくる。


 ルークとフェンリルは、ルフツネイルに向かって行った。


 あの犬がまた噴水で泳いだり、警備の者を吹っ飛ばしたりしなければいいがと思いながら、ナーガは木陰でまどろむ。


 ナーガはフェンリルのように、自由な時間も街に出かける事はない。


 小さくなっていても、やはりその容姿は目立つ。


 つい先日も、ルフツネイルの召喚術の講師が一目見るなり「一回でいいから解剖させてくれ」と一日追い掛けまわされた。


 ルーク達が借りている家は、ファンリの中心からかなり離れている。


 家賃が安かったのと、家に近づく不審者を、遠目からもいち早く確認出来るからだ。


 そして今、家に続く一本道を、杖を付き腰の曲がったかなり年配の老人が歩いて来る。


 その老人はゆっくりとナーガに近付くと、しわがれ声で「やあ、今日はいい天気ですな」と挨拶をかわす。


「世間話をしにきたなら失せろジジイ」


 普段のナーガからは、想像も出来ないような言葉遣い。


「最近の若いもんは、年配を敬う事もできないとは、嘆かわしい世の中じゃ」


 ナーガはゆっくり立ち上がり、氷より冷たい視線を老人に向けた。


「私はお前より年上だ。茶番はもういい。先生の次は老人か・・・サイ」


 サイと呼ばれた老人の曲がっていた腰が、若者のように真っ直ぐになり、持っていた杖を肩にかける。


「なんだ気づいてたか。せっかく気合い入れて変装してきたのに」


「これだけ近づけば、どんな変装をしようが無駄だ。大方、先を急げとでも伝言を預かってきたか?」


 老人の声は、しわがれ声から張りのある声に変わる。


「先に言われても困るんだがな。真っ直ぐ向かってるかと思えば、こんなとこに寄り道してるし探すの苦労したんだぜ」


「その程度の伝言ならば、他の者に任せればいいだろう。それにお前は故郷に帰ったんじゃなかったのか?」


 サイはため息を落とす。


「帰ったんだがすぐに次の仕事を言われてな・・・全く何考えているんだか・・・おかしな事がある」


「何だ?」


「この件で動いているのは俺だけみたいだ」


 一人だけしか動いてないだと?


「オーディンは私に何をさせようとしている?」


 サイは明らかに狼狽し「俺は一言もオーディン様なんて言ってない」と釈明をするが、ナーガの視線は冷たい。


「お前を本来の職から外して、十年以上も人間界にやれる人物など一人しかいまい。直接問いただしたいが、今の私は契約の理に捕われていて、帰る事が出来ない」


「あんたでも父親の作った理は変えられないのか」


 サイは依頼主が、オーディンである事を否定はしなかった。


「父を超える力のあるものなど存在しない」


 だが一人だけ理を超えた人物がいる。ナーガの頭に少年の姿が浮かぶ。


「おかしな事はまだある。あんたが呼び出されたと報告に行った時オー・・・依頼主はそうかと短く返しただけだったが、フェンリルの事を報告したらあからさまに狼狽してたぜ」


 私が呼び出されるのは予定通だが、フェンリルはオーディンにとってもイレギュラーだったという事か・・・


「さて、伝言は伝えたし本来の仕事に戻る。かなり面倒な仕事でな、俺としてはゆっくりしてくれてた方が助かるんだが」


「先を急ぐかどうかは少年次第だ。成長している最中に、私としては急がせたくはない」


 サイは驚きの表情を浮かべた。


「あんたがそんな事言うなんてな。氷竜じゃなくて、元の水竜と呼んだ方がいいか?」


「どちらでも好きな方で呼べばいい。お前はオーディンと私どちらの味方だ?」


 肩を軽く竦めると「どっちでもないさ。あえて言うならルークの味方さ。思わず加護を与えたくなるくらいいい子だろ?」


 ナーガは初めて笑みを浮かべた。


「加護を与えたくなるかはわからないが、それ以外は否定しない」


 やっぱりあんた変わったよと言い残し、サイは消えた。


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