(5)
授業を終え、僕は借りている家の庭で、ナーガと距離をとって対峙する。
細かく痙攣していた足は、少しマシになっている。
午後の授業ちょっと寝てたし・・・
光の魔法の生徒は少ないし、講義に出ていたのは僕を含めても三人だけだった。
授業内容も他の二人にあわせて、光源を生み出す魔法だったので、退屈で睡魔に負けてしまった。
本の角で、先生に殴られて起こされたけど。
そうこうしている内に、ナーガの前の空間が歪んでいく。力の具現化。
すなわち魔法の発動。
魔法を使えるようになって、認識するという事が出来るようになった。
今まで見えていた世界と、まるで違う世界。
ナーガの前に、氷の槍が幾つも生まれ、僕目掛けて飛んでくる。
その一つ一つは、フェンリルに向かって放っている槍よりかなり小さい。
唱えていた言霊を組み合わせ、身体全体を覆う障壁を生み出すと、槍は障壁に当たって砕け散っていく。
ナーガは一撃目を防がれたとみると、すぐに次の槍を生み出した。
障壁が間に合わない!
慌てて横に跳ぶと幾つもの槍が、その空間を通り過ぎていった。
そのまま力を具現化しているフェンリルやナーガと違い、僕が魔法を使うには言霊を唱えて構築する必要があり、それが決定的な時間的不利になっている。
加えて光の魔法に、攻撃出来るような魔法が無いのも苦しい。
僕が攻撃するには、手の届く距離まで近づかなければいけない。
いつもならこの後、ナイフ投げの標的になっている人みたいに、木にはりつけにされたりしていたけど、今日の僕は違う!
三撃目の槍に向かって走る。
身体の動きだけでかわせる槍はかわし、避けられない槍は小さく幾つも生み出した手の平程の障壁で、ピンポイントで相殺する
今までで一番近づけた!
尚も呪文を呟き、言霊を組み合わせながら接近する。
ナーガはフェンリルと違って、それ程接近戦は得意じゃないはず。
慌てて次の魔法を発動させようと、ナーガの前の空間が歪んでいくけど、こちらの構築も終わっている。
身体全体を覆う障壁を発動させる。
ナーガの槍より発動が早かった!もう一度防げばこちらのものだ。
僕の視線にナーガの背中が見え・・・えっ背中?
生み出した障壁はシャボン玉が割れるみたいに壊れ、景色が真横に凄い勢いで流れていった。
尻尾の一撃で弾き飛ばされたと気づいたのは、肺から全ての空気を吐き出し、地面を転がった後だった。
「力の発動を見る事が出来るようになったのはいいが、簡単にフェイントに引っ掛かるのはいただけないな」
説明されてるけど、それどころじゃない。
「魔法障壁は魔法には強いが、純粋な物理攻撃に弱い。学校で習っただろう・・・大丈夫か?」
息ができなくて悶えながら地面を転がる僕を見て、ナーガが心配そうに聞いてくる。
十秒程経つと唐突に呼吸が出来るようになり、空気を吸い込む。
「・・・だ・・いじょうぶ」
本当はあんまり大丈夫でもないけど・・・
腹部に衝撃を受けて、息が出来ないのは地獄の苦しみだ。
「障壁を幾つも分けるのは、学校で習ったのか?」
「ううん違うよ。今日教科書に応用で載ってたからやってみただけ」
ナーガは、僕の言葉に考え込んでいるようだ。
最近ナーガは、考えている事が多くなったような気がする。
「終わったならそろそろ飯の用意してくれ」
「たまにはフェンリルが作ってくれてもいいじゃない」
一日遊んでたはずでしょと、非難の視線を送るがフェンリルはどこ吹く風。
僕は全身の土を払い落とし、家のドアを開け入っていった。
「見ただけで出来るようになるほど、魔法は甘いものだったか?」
ルークに続いて、家に入ろうとしていたフェンリルは立ち止まり「知らねーよ。人間に魔法を扱えるようにしたのは、てめぇのお仲間だろ」と言い残すと家に入っていった。




