(4)
僕とリュートは、午前の授業を終え食堂に来ていた。
「ルークさんスプーンが持ち上がりません」
リュートの腕が、プルプル震えて食器の端にスプーンが細かく当たり、カチカチと音をたてている。
かくいう僕も、足が細かく痙攣している。
まだ僕やリュートはマシな方で、はす向かいの生徒は、頭から食器に突っ込んで爆睡している。
午前に剣術の授業を受けた生徒は一目瞭然で、ある意味名物と言っていい。
「無理にでも食べておかないと持たないよ」
疲れ過ぎて食欲が湧かないけど、吐き気を堪えて無理やり喉に流し込む。
「午後の授業寝てしまいそうです」
「僕も一緒だよ。リュートは経済の学科だったよね」
貴族は剣術の授業は必修で、リュートのような将来治める領地を持っている者は、その勉強も必須だ。
「ルークさんは、魔法の授業でしたっけ?」
「うん。だけど先生がいないから、あんまり役にはたたないかな」
本来の光の魔法を教える先生が、他国に招かれている為今は不在なのだ。
普通は残ってる先生でも十分らしいけど、僕は光を生み出す魔法の他に、障壁の魔法も習ったその日の内に使えるようになった
呪文を唱えている内に、何故かまるで使った事があるみたいに、頭に言霊の構築の仕方が浮かんで来る。
光の魔法は大まかにわけると光源を生み出す、魔法を遮る障壁、人の怪我を治す治癒の三つ。
でも光の魔法は使える人が少なく、治癒まで使える人になるとさらに少なくなる。
しかも、治癒を使える人は短命な人が多いらしく、ルフツネイルでも今他国に招かれている一人しかいないらしい。
「ここいいか?」
声をかけて来たのは、リュートと同じ黒髪で肩ぐらいまである髪を女の子のように、後ろで束ねてポニーテールにしている男。
僕よりも幾分年上に見え、意志の強そうな太い眉毛に、目には強い光を宿している。
「空いてるからどうぞ」
彼は隣に腰掛け右手を差し出した。
「ランスロッドだ。午前の授業見てたぜ」
差し出された手を握り返す。
「ルークです。そっちはリュート・・・ランスさんも特待生なんですか?」
彼の腕には、僕と同じ特待生を示す腕輪が光っていた。
「仮だけどな」
仮?特待生に仮なんてあるのだろうか?
「ロッドさんは召喚術の特待生なんですね」
リュートは、理解したと答える。
「まあな、どっちでもいいけど呼び方統一してくれないか」
「じゃあ間をとってスロさんで」
ランスロッドさんは、間抜けな提案をするリュートを睨むけど、リュートはその視線を受け流している。
「俺が呼び方は決める。そうだな・・・疾風の貴公子バルデムート・エスペランサにしよう」
「長っ!それに元の名前の原型とどめてないし」
彼は「ランスでいい」と笑った。
それなら最初からそう言えばいいのに。ランスさんは、魔法の特待生である僕が、剣術の授業に出ていたのを見て興味を持ったらしい。
特待生は必修であるマナーや、特待生になった分野以外は、無理に出る必要はない。
「せっかく極上の教えをただで受けれるのに、受けないなんて勿体ない事出来ないだろ」
なるほど、そんな考え方もあるのか。
「俺は明日には、ここを追い出されるかも知れないしな」
追い出される?リュートが興奮を隠せない様子で叫ぶ。
「召喚の儀式をするんですか!」
ルフツネイルでは、リュートの方が僕より先輩でよくものを知っている。
「ああ、さっき先生から言われた。明日の午後だ」
僕もリュートも、明日の午後は召喚術の授業をとっている。
召喚術は、魂の強さの試験を受けて仮の特待生になる。
その後召喚術を習ってから召喚の儀式をして、呼び出した魔獣によって特待生として認められるかが決まると、リュートから教えてもらった。
「じゃあ、召喚される瞬間をこの目で見れますね」
「俺が世界に名を轟かす世紀の瞬間を見逃すなよ」
世紀の瞬間かどうかはわからないけど、他人が魔獣を呼び出すのを見れるなんて、ルフツネイルに来て良かった。
僕の胸は、自分の事ではないのにドキドキしていた。




