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狼竜物語  作者: レオ
34/255

(7)

 リリオル軍が完全に撤退したのを確認して、僕を乗せたナーガは昨日ライアさんを送り届けた家の前に降り立つ。


 かなり早い段階で火を放たれたのか、家は殆ど燃え尽き燻った煙をあげていた。


「ナーガ・・・」


 僕の視界は歪み、言葉にならない。


 焼け落ちた家の中心にあるのは、もう性別すらもわからぬ程焼け爛れた、かつて誰かだったもの。


「こんなとこで何してんだ?」


 不意に話しかけられ振り返ると、いつの間に帰って来たのかフェンリルがいた。


「フェンリル・・・ライアさんが・・・」


 僕は込み上げて来るものを抑えられず、足元に小さな染みを作っていく。


 フェンリルは焼けた誰かのもとに歩み寄ると、臭いを嗅ぎ開口一番。


「誰だこれ?」


 えっ?


「誰って・・・ライアさ・・・ん」


 フェンリルはいつものように、僕を馬鹿にしたような表情を浮かべる。


「人間の鼻は何のためについてるんだ?本当に役に立たねぇな。ライアの臭いなら村の外に続いてるぜ、運よく逃げれたみてーだな」


「本当?本当なのフェンリル」


「俺様が嘘ついて何の得があるんだ」


 張り詰めた糸が切れたように、僕はその場に座り込んだ。


「よかっ・・・」


 よかった?


(この人にも家族がいて・・・きっと悲しむ人がいるのに・・・僕は・・・)


 両手で顔を押さえ、僕は嗚咽を耐え切れなくなりそこで泣いた。


「マスターそろそろ行くぞ」


 僕の嗚咽がおさまってきたのを、見計らったようにフェンリルは声を掛け、僕は袖で涙を拭う。


「でも、せめてその人のお墓を作ってあげたい」


「ここは戦場になるかも知れない。早く離れるのが賢明な判断だ」


 ナーガの提案はもっともで、いつ撤退したリリオル軍が引き返して来ないとも限らない。


 心の中で何も出来なくてごめんねと謝る。


「で、こっから何処に向かうんだ?」


 リリオルを、横断するのが当初の予定だった。


 僕はナーガを真っ直ぐに見つめ、決意を込めて思いついたことを口にした。


「もし、目的地の島に行くのを急いでないのなら行きたいとこがあるんだ」


 何処だと聞き返すナーガに、僕は「ファンリ」と答える。


 魔導都市ファンリ


 この世界で唯一、何処の国にも属さない自治都市。


 魔法は言うに及ばず、剣術、文化においても大陸一とされ、各国の貴族、王族の子弟が留学に訪れる大都市である。


「今のままじゃいけないと思うんだ。一緒に・・・ううん、せめて自分を守れるぐらいにならなきゃ」


「いいんじゃねぇか?まあ、俺様は面白くて美味い物が食えりゃそれでいいがな」


 ナーガは少し悩んだ様子を見せたが「別に急ぐ旅でもない。マスターがそこに行きたいのであれば反対はしない」と賛同してくれた。


「二人ともありがとう。じゃあ出発しよ」


 強くなりたい、自分を守れるぐらい。


 そして、いつか誰かを守れるぐらい


 僕は心に決意を秘め、フェンリルとナーガと新たな目的地に旅立っていった。


 メンデスからかなり離れたところで、フェンリルはチッと舌打ちをする。


「どうしたの?」


 フェンリルは忌々しげに振り返る。


「完全にまいたと思ってたが何頭か、カバがついて来てるみてーだぜ」


フェンリルの視線が向く方を見てもカバの姿は見えないけど、鋭い嗅覚を持つフェンリルの事だ、きっと言葉通りいるのだろう。


「ちょっくら俺様が追っ払ってくるから先に行ってな」


「気をつけてね」


 フェンリルは、村の方向に走っていった。


 数刻後


 既に火の消えた家の庭先でフェンリルは穴を掘り、誰かも知れない遺体を埋めていた。


「助けてやれなかったな。・・・おめぇ本当に美人だったぜ」


 戻る時に見つけた花をその上に供える。


「マスターには本当の事は黙っておくぜ。じゃあな」


 名もなき花は、いつしか風に吹かれ、何処かに消えていった。


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