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狼竜物語  作者: レオ
33/255

(6)

 今や村のあちこちから火の手が上がり、夜が明けていないというのに、真昼のような明るさになっている。


 空から見下ろすと、村を攻めている軍勢の巨大さもハッキリとわかる。


 地上を埋める軍勢、それは小競り合いではなく本気の侵攻。


 僕はフェンリルを残してきたのを後悔する。


「ナーガ戻って!フェンリルが殺されちゃう」


 ナーガは聞こえないかのように、方向を変える事なく村から離れていく。


「奴なら大丈夫だ。人間に殺されるほど弱くはない」


 村から離れた山の中腹にナーガは降り立ち、僕はその背から降りる。


「僕はここで隠れているから、フェンリルを助けにいって」


 自分に何も出来ないのがもどかしい。


 いつも守ってもらって、足を引っ張ってばかりだ。


 短剣に埋め込まれた牙の持ち主に、父さんに、そして二頭の召喚獣に。


「何が潜んでいるかわからない今は、マスターから離れる事は出来ない」


 ルークからナーガは離れる事なく村の惨劇を見続け、狼が村から森に逃げ込んで行くのも、その瞳は捉えている。


「あれは?」


 僕の目に飛び込んで来たのは、最初に攻撃された兵舎から飛び立つ鷲のような頭を持ち、主に連絡用に使われるグリフォンと言われる魔獣。


「王都に敵襲を知らせる為のものだろう。もっとも奴らに気づかれたようだがな」


 グリフォンを追って敵の軍勢から、空中戦に優れた巨大な鳥ビッグバードが飛び立つ。


「ナーガ助けに行かなきゃ」


「言ったはずだ。今はマスターから離れる事は出来ない」


 キッと僕はナーガを睨む。


「僕も行く。それともナーガは、僕を乗せたままじゃあいつらに勝てないの?」


「安い挑発だな」


 ナーガは動かない。


「ナーガ・・・お願い・・・」


 僕はナーガを掴む手に力を、想いを込める。


「誰かを助けるのは、時には相手の命を奪う選択をしなければならない。その覚悟はあるのか?」


 ナーガは一人を助ける為に、沢山の命を絶つ覚悟が僕にあるのかを問うている。


「選択しなきゃいけないなら・・・僕は自分の選択から目を逸らさない」


 ナーガは僕を乗せ翼を広げ、大空へと舞い上がっていった。


 僕を乗せたナーガは、山の斜面ギリギリに滑空し、グリフォンを追い掛けるビッグバードの真下に位置すると「しっかり掴まっていろ」と指示を出す。


 渾身の力を、両手両足に込めナーガにしがみつく。


 ナーガはそこから急上昇に転じ、真上に向かって氷の槍を無数に撃ち出す。


 氷の槍は、的確にビッグバード達の身体を引き裂き、目に映るは空から降る赤く染まった魔獣。


 辛うじて急襲を交わしたビッグバードと交差する時、真上にいた人間をナーガが叩き落とすと、その人間と僕の視線も交差する。


 叫び声を上げながら地上に落ちていく人。


 僕も最後まで目を逸らさない。


 浮かんでくる涙を、ナーガに気づかれないよう袖で擦る。


 彼が地面に叩きつけられると、乗っていた魔獣が糸の切れた操り人形のように、力を失くし地上に落ちていく。


 頭に浮かぶフェンリルの言葉。


‐てめぇは俺様やとかげの命もしょってんだぜ‐


 今まで深く考えた事もなかった魂の契約。


 僕はフェンリルやナーガの命も背負っているんだ。


「残った奴らも片付けるぞ」


 戦場は、感傷すらも許してはくれない。


 最初の一撃で残ったのは、人が乗っている一羽を含めても三羽のみ。ナーガは旋回すると唯一人が乗っているビッグバードに、正面から突っ込んでいく。


 ビッグバードに乗る人間が何かを唱えている。


「ナーガ魔法が来るよ!」


 僕の声が聞こえないのか、ナーガは尚も突っ込んでいく。


 至近距離からの一撃。


(駄目だ!かわせない!)


 放たれた魔法は僕達に当たる事なく、光の壁に阻まれ四散し、驚愕に見開かれた男の頭は、竜のあぎとに飲み込まれていった。


「人間程度の魔法では、私の障壁を貫く事など出来ない」


 そう語るナーガの口は赤く彩られ、逃げ出していく二羽の魔獣も、背後から無慈悲に撃ち落としていく、その金色の瞳からは感情は見えない。


 村外れの森から爆発音が耳朶を打ち、炎が上がる。


「今度は何?」


 炎が上がる森から飛び出してくる漆黒の狼。


 そして空まで響く地響き。


「頭が悪いなりに考えたようだな」


 地響きの正体は、フェンリルを追い掛けて来るハヌマンカバの群れ。


 ナーガの氷の壁を打ち破る程の質量を持ったカバが、リリオル軍の中心に突っ込んでいく。


 騎馬ですら宙を舞い、カバに踏み潰されていく人。


 思わず目を覆いたくなるような惨状だが、僕は視線を外す事はなくそれを目に焼き付ける。


・・・父さん・・僕の選択は正しかったの?


「終わらせるぞ」


「どうするの?」


「混乱している隙に指揮官を討つ」


 ナーガは、空からもっとも陣形の厚い場所の中心にいる男に、空から近づいていく。


 地上からは混乱しているリリオル軍の間を、縫うように疾走する漆黒の狼。


 一瞬速くナーガの放った氷の槍が男を貫き、その後にフェンリルの放った炎が爆発する。


「てめぇ!何、俺様の獲物を横取りしてやがる」


 地上から罵声を浴びせるフェンリルに、ナーガは悪びれる事なく「貴様がとろいからだ。ほら後ろからカバのお友達が来ているぞ」


 フェンリルは後ろを振り向くと「ちっくしょう」と叫びそのまま駆けていった。


 朝日と共にリリオル軍は退却し、戦闘は終わりを告げた。


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