(3)
「本当に大人しくて可愛いワンちゃんね」
フェンリルは耳を弄られたり、肉球をプニプニされてもなすがまま、怒るどころか女主人の胸の谷間に、顔を埋めたりして恍惚の表情・・・このエロ狼。
案内されて中に入ると、普通の平屋建ての一軒家で、カウンターも何もない。
「びっくりしたでしょ」
女主人ライアさんの話しによると村には宿屋はなく、ここも倉庫代わりに使っている家で、時折来る旅人の為に臨時の宿として貸し出しているだけらしい。
「ライアさんは何処で寝るんですか?」
寝室は一つしかなく、一緒に寝るという訳にはいかない。
「あたしは自分の家で寝るわ。何かあればそこに来てちょうだい」
自分の家で寝ると言うライアさんに、フェンリルはあからさまにがっかりしている。
ライアさんは腕まくりをして「久しぶりのお客様にこの村の名物料理を御馳走するわ」
そう言うと台所に向かっていった。
「僕も手伝います」
僕も何かお手伝いができないものかと、その後に続いて台所に向かっていった。
包丁の小気味よい音が響き、食欲をそそる匂いが部屋に充満する。
「貴様は手伝いにいかないのか?」
取り残され、部屋の隅でふて寝するフェンリルにナーガが話し掛ける。
「俺様は食う専門なんだよ。お前こそ手伝ってくればいいじゃねえか」
「私も食べる専門だ」
「フン。それにあんなところに入っていけるかよ」
台所の二人は、独特の雰囲気を醸し出している。
「上手ね~」
僕の包丁捌きに、びっくりするライアさんに笑顔を返す。
「いつも家でやってたから」
今度はライアさんが、僕にドキリとするような笑顔で「ルー君はいい子ね」
ライアさんの言葉に、フワリとした何とも言えないような感情が僕の胸に湧き起こる。
準備が出来たから帰るわというライアさんを、無理やり引き止め一緒に食卓を囲む。
よくやったとフェンリルは破顔して終始笑顔で、一日家から笑いが絶える事はなかった。
日が完全に落ち玄関でライアさんを見送る。
本音はもっと一緒に居たかったけど、これ以上引き止める訳にはいかない。
「フェンリルかナーガ送ってあげて」
フェンリルが当然俺様がと立候補するものの、ナーガの「貴様では文字通り送り狼になりかねない」で却下された。
僕はそれを聞いてそうだねと笑う。
去り際にライアさんが「またね、小さな召喚術師さん」と僕を抱き寄せ、いい匂いが僕の鼻腔をくすぐり、また何とも言えない感情が湧きおこる。
離れていく後ろ姿に、またねと手を振って、僕とフェンリルは家に入っていった。




