(2)
僕達は王都ランバルから大きく離れ、もうすぐ国境付近にある村に到着しようとしていた。
「フェンリル遅いね~」
僕とナーガは、国境沿いの村メンデスの入口で、フェンリルの到着を今か今かと待っていた。
「来たみたいだぞ」
遠くに砂埃が見え、こちらに向かって走って来るのは漆黒の狼。
僕はよいしょっと腰を上げ、お尻についた砂を払いのける。
「遅かったね~フェンゲフッッッ」
僕は、狼のドロップキックをまともに受け、豪快に吹っ飛び砂地を転がる。
「俺様だけ残して囮にしやがって!あいつら水の中まで追っかけてきやがったんだぞ」
フェンリルの漆黒の毛からは、今も水が滴り落ちている。
いたたた・・・どんどんフェンリルの僕への扱いが酷くなっていっているような・・・
「もともと貴様のせいだろ」
冷静にナーガはフェンリルを責める。
「てめぇが避けるからだろうが。大人しく焼鳥になっとけ!」
またも二頭は険悪な雰囲気。
僕だって怒る時は怒るんだからね。
「この村に来るのに道があるのに、わざわざ森を通って来たのは誰と誰のせい?」
黙ったままの二頭にもう一度迫る。
「誰のせい?」
街道を避けているのは、勿論二頭が喧嘩して道行く人を巻き込まないようにだ。
「そりゃとかげ・・・」
「そこの犬が・・・」
言い訳をしようとする二頭に、僕の怒声が落ちる。
「二人のせいでしょ!なんで仲良く出来ないの!」
普段大人しい人間がキレた時程、怖いものはない。
ナーガとフェンリルは、アイコンタクトで意思を交わす。
(逆らわない方が良さそうだ)
(なにガン飛ばしてやがる!)
疎通出来てなかった・・・
「ナーガごめんなさいは?」
逆らわない方が良さそうだと判断したナーガは、素直に「ごめんなさい」と謝る。
「フェンリルごめんなさいは?」
フェンリルは、内心なんで俺様が謝らなきゃいけないんだとソッポを向く。
僕はガシッとフェンリルの頭を掴み、自分の方に無理やり向かせる。
「僕の家はね、悪いことしたら木に縛られて丸一日放置されるんだよ」
「そりゃお前の親父が特殊なだけだろ」
「今日のご飯抜き」
「・・・ごめんなさい」
二頭が謝った事で僕の怒りは溶け、ニコッと笑顔を浮かべ「じゃあ、いこ」と村に向けて歩みを進める。
フェンリルはそれを見て、やれやれだぜと嘆息して歩きはじめた。
メンデスは小さい村ではあるが、国境に接しているという事情から国境警備の兵士が常駐している。
村を守る為ではなく王都に、いち早く他国の侵攻を知らせる為だ。
隣国リリオルとランバルの国交はなく、国境の村といっても旅人は少なく、お世辞にも栄えているとは言えない。
僕たちは道にいた村人に、この村唯一の宿屋の場所を聞き向かう。
「聞いた場所ここで間違いないよね?」
目の前にあるのは、普通の一軒家。
「だな・・・本当に宿屋かよ」
ノックすると淡い栗色の髪に、整った目鼻立ちで、誰が見ても美人だと答える程の若い女の人が出てきた。
「あの、ここが宿屋だと聞いて来たんですけど」
容姿に相応しいふんわりした声で「そうよ」と年頃の男なら、これだけで参ってしまいそうだ。
女の人はフェンリルとナーガを見て頭を下げた。
「ごめんなさい。うちはペット禁止なの」
「ペットじゃなくて僕の使い魔なんです」
「俺様はペットじゃねーぜ」
「私はペットではない」
僕と二頭の声が重なる。
ペットだと思っていた獣が口をきいた事に、女の人は驚きの表情を見せる。
王都のような大きな都市ならともかく、やはり田舎では召喚獣は珍しいみたいだ。
「まあまあまあ喋るなんて可愛いワンちゃんね」
マズイ!フェンリルは犬扱いされると烈火の如く怒る・・・はずなんだけど、当の本人は、頭を撫でられて鼻の下を伸ばしている。
「マスターここは最高の宿屋だぜ」
「・・・泊めてもらえますか?」
ペットではなく召喚獣ならと、僕等はここに泊めてもらえる事になった。




