五章 自覚
森の木々が薙ぎ倒され、轟音が静かな森に響く。
「フェンリルのせいだからね!」
僕は、額に汗を滴らせながら、並走するフェンリルを非難する。
「俺様じゃなくて避けたとかげのせいだろーが!」
背後からカバをふたまわりも大きくして、像のような長い鼻を持つハヌマンカバが、大群をなして木々を薙ぎ倒しながら迫っている。
事の発端は、いつもの二頭の喧嘩。
低空飛行だったナーガに放ったフェンリルの炎が、運悪く群れで移動していたハヌマンカバに命中してしまったのだ。
普段は大人しいハヌマンカバだが、仲間が襲われると一致団結して、襲撃者に襲い掛かる習性がある。
「あいつらぶっ倒した方が手っ取り早いぜ」
「こっちが悪いんだから絶対ダメ」
と言っても、フェンリルやナーガならともかく、僕の足ではすぐに追いつかれてしまう。
「私に任せておけ」
そう言ってナーガは、大きな氷の壁をカバとの間に生み出した。
ドシーンとカバが壁に突進した重い音が辺りに響き、見事氷の壁はカバの突進を受け止める。
「やった!流石ナーガ」
少しの沈黙。
「無理だったようだな」
見るとカバの二撃目で、氷の壁に大きなひびが走り、その後ろにいたカバは氷の壁を回り込もうとしている。
「仕方ない。マスター私の背中に乗れ」
僕は急いでナーガの背中に駆け上がり、ナーガが空に向けて飛び立つと同時に、氷の壁は音をたてて崩れ落ちた。
父さんを探す時以来のナーガの背中は大きく、空から見下ろす景色は綺麗だった。
いつも乗せてくれれば楽なのに・・・ふと何か足りない気がして見回す。
「フェンリルは?」
「あいつの汚い足を乗せるつもりはない」
下には一頭取り残された漆黒の狼を、追い掛けるカバの群れ。
少なくとも三十頭はいる。
フェンリルに向かって大声で僕は叫ぶ。
「フェンリル~怪我させちゃダメだからね~」
森にフェンリルの叫びが木霊する。
「てめ~ら覚えてやがれ~」




