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狼竜物語  作者: レオ
27/255

(11)

 地面の感触が冷たく、後ろ手に縛られた縄が腕に食い込む。


「ふむむふよ(離してよ)」


 必死に抵抗しようとするが、子供の力で大人三人に敵うはずもなく、地面に転がされていた。


 男の一人が無造作に髪を掴み、その痛みに僕は顔を顰める。


「結構可愛い顔してるし売る前に俺が楽しんでもいいか」


 男の言っている意味はわからないが、良からぬ事だという事は伝わり恐怖が湧いて来る。


 縛られたまま見上げると、空から降って来る漆黒の塊。


 その塊に押し潰された髪を掴んでいた男が、グヘッとまるで蛙の断末魔のような声をあげ、地面に叩きつけられ動かなくなる。


「よお、マスター。いい格好だな」


 僕の目に映るのは、倒れた男の上に乗り笑うフェンリル。


「ふぁふへふふぇへふぅへはふぉ(助けに来てくれたの)」


「おう!助けに来てやったぜ」


 初めて心が繋がった。


「ふぁふふぁふぁふふふぁほ(この縄を外してよ)」


「任せな。ぶっ飛ばしてやるから」


 気がしただけだった。


 残った男二人が後退る。


「なんだこのでっかい犬は」


 フェンリルの毛が逆立つ。


「マスターを殴ったのは許せても、俺様を犬呼ばわりは許せねぇ」


「ひゃふへよ!(逆でしょ)」


 僕の非難も右から左のフェンリルは、男との距離を縮めていく。


 背後では、こん棒を持っていた男の足が凍り付けになり、悲鳴が辺りにこだまする。


 僕の横にナーガが降り立ち、さるぐつわを外してくれ晴れて自由の身だ。


「フェンリル殺しちゃダメだよ!」


 残ったフェンリルと対峙する男は懐からナイフを取り出し「く、来るな。ぶっ殺すぞ」と威勢を張っているがその手は震えている。


 フェンリルが地面を蹴り、男がナイフを繰り出すよりも速くその横を駆け抜け、男の足から鮮血が噴き出す。


 そのまま背後から男を押し倒し、ナイフを持った手に足をかけた瞬間ゴキィッと鈍い音が響き、男は泡を吹いて白目になり動かなくなった。


 僕は急いで倒れている男に駆け寄った。


「やり過ぎだよ」


 転がっている鞄から薬草を取り出し、手で潰した後、傷口に塗り込み手際よく包帯を巻いていく。


「殺すなって言うから、ちゃんと手加減はしたし死んでねーだろ」


 フェンリルは不満顔だ。


「そうだけど・・・」


「じゃあ俺様は、親玉に挨拶に行ってくるわ。こいつらから、昨日の門番の臭いがプンプンしやがる」


 走り去ろうとするフェンリルに「殺すのも怪我させるのも無しだからね」


 僕の声に、フェンリルは振り返り「わ~ったよ。マスターはおやさしい事で。俺様は紳士だから任せておきな」


 フェンリルが道の向こうに消えた後、転がっているこん棒を拾うと男の折れた腕を固定していく。


「慣れたものだな」


「父さんに教えてもらったから。ナーガそこの人の足の氷外せる?」


 パキィンと渇いた音を立てて氷が砕け、男はヘナヘナとその場にへたり込んだ。


 僕はその男の前に歩み寄ると「この人を病院に連れて行って下さい」


 男はル僕から視線を外し「そんな金があったらこんな事してねーよ」


 僕は鞄からお金を取り出すと、男の手に握らせ急いでと男に告げた。


 最初にフェンリルに潰された男を叩き起こし、怪我をした男は二人に抱えられ、その場から逃げるように消えていった。


「いいのか」


 ナーガの声には不満がありありと現れている。


「甘い・・・と思う。でもほって置けないんだ。ごめんね」


 僕はナーガに抱きつき「助けてくれてありがとう」と心から感謝する。


 なんとなくナーガは気まずげに視線を逸らすけど、きっと御礼を言われ慣れてなくて照れてるんだろう。


 その時、フェンリルの向かった方角から轟音が轟き、黒煙がランバルの空に上がった。


 フェンリルが、猛スピードで帰って来て僕の前で止まる。


「まさか・・・」


 僕の頬に冷や汗が伝う。


「なんだよ。俺様は誰も怪我すらさせてねーぜ」


 じゃああの爆発は関係ないと、僕は安堵する。


「誰もいなかったから家吹っ飛ばして来た」


 フェンリルは、満面の笑みを浮かべている。


 僕の視線が宙を泳ぎナーガと合う。


「さっさとランバルから逃げ出した方が良さそうだな」


・・・やっぱり。急いで散らばった荷物を拾い一人と二頭は、ランバルから逃げ出したのであった。

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