(11)
地面の感触が冷たく、後ろ手に縛られた縄が腕に食い込む。
「ふむむふよ(離してよ)」
必死に抵抗しようとするが、子供の力で大人三人に敵うはずもなく、地面に転がされていた。
男の一人が無造作に髪を掴み、その痛みに僕は顔を顰める。
「結構可愛い顔してるし売る前に俺が楽しんでもいいか」
男の言っている意味はわからないが、良からぬ事だという事は伝わり恐怖が湧いて来る。
縛られたまま見上げると、空から降って来る漆黒の塊。
その塊に押し潰された髪を掴んでいた男が、グヘッとまるで蛙の断末魔のような声をあげ、地面に叩きつけられ動かなくなる。
「よお、マスター。いい格好だな」
僕の目に映るのは、倒れた男の上に乗り笑うフェンリル。
「ふぁふへふふぇへふぅへはふぉ(助けに来てくれたの)」
「おう!助けに来てやったぜ」
初めて心が繋がった。
「ふぁふふぁふぁふふふぁほ(この縄を外してよ)」
「任せな。ぶっ飛ばしてやるから」
気がしただけだった。
残った男二人が後退る。
「なんだこのでっかい犬は」
フェンリルの毛が逆立つ。
「マスターを殴ったのは許せても、俺様を犬呼ばわりは許せねぇ」
「ひゃふへよ!(逆でしょ)」
僕の非難も右から左のフェンリルは、男との距離を縮めていく。
背後では、こん棒を持っていた男の足が凍り付けになり、悲鳴が辺りにこだまする。
僕の横にナーガが降り立ち、さるぐつわを外してくれ晴れて自由の身だ。
「フェンリル殺しちゃダメだよ!」
残ったフェンリルと対峙する男は懐からナイフを取り出し「く、来るな。ぶっ殺すぞ」と威勢を張っているがその手は震えている。
フェンリルが地面を蹴り、男がナイフを繰り出すよりも速くその横を駆け抜け、男の足から鮮血が噴き出す。
そのまま背後から男を押し倒し、ナイフを持った手に足をかけた瞬間ゴキィッと鈍い音が響き、男は泡を吹いて白目になり動かなくなった。
僕は急いで倒れている男に駆け寄った。
「やり過ぎだよ」
転がっている鞄から薬草を取り出し、手で潰した後、傷口に塗り込み手際よく包帯を巻いていく。
「殺すなって言うから、ちゃんと手加減はしたし死んでねーだろ」
フェンリルは不満顔だ。
「そうだけど・・・」
「じゃあ俺様は、親玉に挨拶に行ってくるわ。こいつらから、昨日の門番の臭いがプンプンしやがる」
走り去ろうとするフェンリルに「殺すのも怪我させるのも無しだからね」
僕の声に、フェンリルは振り返り「わ~ったよ。マスターはおやさしい事で。俺様は紳士だから任せておきな」
フェンリルが道の向こうに消えた後、転がっているこん棒を拾うと男の折れた腕を固定していく。
「慣れたものだな」
「父さんに教えてもらったから。ナーガそこの人の足の氷外せる?」
パキィンと渇いた音を立てて氷が砕け、男はヘナヘナとその場にへたり込んだ。
僕はその男の前に歩み寄ると「この人を病院に連れて行って下さい」
男はル僕から視線を外し「そんな金があったらこんな事してねーよ」
僕は鞄からお金を取り出すと、男の手に握らせ急いでと男に告げた。
最初にフェンリルに潰された男を叩き起こし、怪我をした男は二人に抱えられ、その場から逃げるように消えていった。
「いいのか」
ナーガの声には不満がありありと現れている。
「甘い・・・と思う。でもほって置けないんだ。ごめんね」
僕はナーガに抱きつき「助けてくれてありがとう」と心から感謝する。
なんとなくナーガは気まずげに視線を逸らすけど、きっと御礼を言われ慣れてなくて照れてるんだろう。
その時、フェンリルの向かった方角から轟音が轟き、黒煙がランバルの空に上がった。
フェンリルが、猛スピードで帰って来て僕の前で止まる。
「まさか・・・」
僕の頬に冷や汗が伝う。
「なんだよ。俺様は誰も怪我すらさせてねーぜ」
じゃああの爆発は関係ないと、僕は安堵する。
「誰もいなかったから家吹っ飛ばして来た」
フェンリルは、満面の笑みを浮かべている。
僕の視線が宙を泳ぎナーガと合う。
「さっさとランバルから逃げ出した方が良さそうだな」
・・・やっぱり。急いで散らばった荷物を拾い一人と二頭は、ランバルから逃げ出したのであった。




