(8)
夜の帳が下りて町は、昼とは違う活気を見せている。
カダルフィークと違い、街灯が灯り夜でも明るい。
肩を組んで、千鳥足で歩く二人組。
夕飯だろうか?ネギが飛び出した紙袋を抱え、幼子の手を引き歩く母親。
「寝ねーのか?」
ずっと椅子に座り窓から町を見ていた僕に、フェンリルがいぶかしげに声を掛けて来る。
「もうちょっと後で。町を見てるのが楽しくて」
「何が面白いんだ?」
フェンリルは僕と同じ様に、窓から町を見下ろす。
「ほら、あの女の人とか道行く人に声掛けてるでしょ。何してるのかなぁ~とか」
その女の人は、化粧が厚くてヒラヒラのドレスを着ているが、それなりに歳を喰っているように見える。
「ああ、ありゃ春を売ってるんだよ」
もう季節は夏になろうとしているのに、一生懸命春を売ってるから、誰も止まってくれないんだ。
「ふ~ん何も持ってないのに商品は何処にあるの?」
小さな沈黙、そしてフェンリルが呆れた表情を浮かべる。
いや、もうそんな表情されるのも慣れたけどね。
「バッカだな。いいか、春を売るって・・・いって~な!」
「お前は教育に悪い」
フェンリルは、ナーガの尻尾に殴られた頭を押さえた。
「あいつの言った事は忘れる事だ。大人になればわかる様になる」
フェンリルは、ケッと吐き捨てる。
「俺様はあんな年増はゴメンだがな。やっぱ女は若いのがいいぜ。マスターはあんな年食ったのが好みなのか?」
「う~んよくわからないけど懐かしいなって感じるの」
ナーガは優しい光を宿す、金色の瞳で僕を見る。
「母親の記憶か」
「違うと思う。カダルフィークに住む前かな?毎日寝る迄僕の遊び相手してくれてたのが、あんな人だった」
「そりゃ親父の恋人じゃねーか?」
フェンリルが、横から口を挟む。
「それも違うと思う。毎日違う人だったし父さんに聞いたら、仕事にあぶれているのを安く雇ってんだよって」
「マスターの親父とは気が合いそうだぜ」
フェンリルと父さんが、あんまり似ているとは思えないけど。
「カダルフィークに住んだ頃かな。父さんがルークお前も五歳になって立派な大人だ。明日から村のおばさん連中から掃除、洗濯、料理を習って来いって」
「それで掃除洗濯が得意なのか」
「うん。父さんがお前は可愛いから、潤んだ目でお願いすればおばさん連中はイチコロだって言うから、そうしたら皆優しく教えてくれたよ」
ナーガも羽をくれたし、父さんの教えは凄い。
「それからずっと僕が掃除、洗濯、料理をやってたの。父さんは五歳になったら何処のお家も皆そうだって」
フェンリルが僕の肩に前足を置き、無言で数回頷きベッドに入っていった。
何なんだと思っていると、反対の肩にナーガの腕が置かれ同じ様に、無言で頷きベッドに入っていった。
何なんだろ?
僕も二頭に続いて、中央にデンと寝ているフェンリルをずらして、ふわふわのベッドに潜り込み眠りに落ちていった。




