(6)
鉄の二枚扉の城門を抜けると、そこは別世界のように建物はモダンな造りが並び、整備された道には所狭しと歩く人、人、人。
僕は田舎者よろしく、ポカーンと口を開けたまま圧倒されっぱなしだった。
「さっさと宿を決めて美味いもの食いに行こうぜ」
慣れた様子で、先を歩くフェンリルを追い掛ける。
道行く人達はフェンリルを一瞥しても、気にする事なくその横を通り過ぎていく。
「ねえねえ、もしかしてここでは魔獣って珍しくないの?」
「田舎じゃねーんだから当たり前だろ」
よくよく見れば、道にはフェンリル以外にも魔獣と思わしき生き物が、沢山闊歩している。
「ほら見ろ。ぬいぐるみのお友達がいるぜ」
指された方向を見れば、首輪にピンクのリボンを付けたトカゲが、飼い主らしき人に引かれてパタパタ飛んでいる。
「あれも魔獣なの?」
「ありゃ飛びトカゲだな。魔獣じゃなくてそこらのペットショップで売ってるぜ」
ふぅ~ん。あんなのが普通にいるなんて、流石都会だねと変に感心してしまった。
「もしかしてナーガ出しても騒ぎにならないんじゃない?」
「当たり前だろ」
フェンリルは、物凄く意地の悪そうな顔でニヤニヤしている。
「ちょっと待ってよ。フェンリルがそのままじゃ騒ぎになるって言うから、袋に入れたのにさ」
「俺様は”そのまま”ならと言ったんだぜ。袋に入れたのはマ・ス・ター・だろ」
背負っている袋から、物凄い冷気を感じる。
こんなところで喧嘩をされたら、大変な事になると背中に、「今は駄目だよ」と言うとわかっていると返事が返ってくる。
「なんで言ってくれなかったの!」
「その方が面白そうだったからに決まってんだろ。ぶひゃひゃひゃぬいぐるみだってよぶひゃひゃひゃ」
父さん、フェンリルは物凄く性格の悪い嘘吐きでした。
「宿はここにしようぜ」
木の看板には、黒狼亭と書かれている。
フェンリルが、名前だけで選んだ気がしないでもないけど、一階は食堂で二階以上が宿屋になっている標準的な宿だ。
中に入り一階の食堂を抜け、奥のカウンターに向かうと、カウンターには眼鏡のおじさんが新聞を広げて座っていた。
「泊まりたいんですけど」
おじさんは僕を一瞥すると、視線を新聞に戻し片手で犬を追いやるように、シッシッとジェスチャー。
子供だからって犬のような扱いを受けた事に立腹していると、フェンリルがカウンターに駆け上がり、バリバリバリとおじさんが読んでいた新聞を真っ二つにしてしまった。
「俺様のマスターがおめぇの小汚い宿に泊まってやろうって言ってんだよ」
両手に真っ二つにされた新聞を握ったまま、おじさんは目を白黒させている。
「こちらにいる御方はな、こんなショボイなりをしているが100年以上生きてる大魔法使いだぞ」
ショボイだけ余計だし、100年も生きてないし魔法も使えないです。
「こんな宿なんぞ一瞬で灰にするぜ」
フェンリルの気迫に圧倒されたおじさんは、壊れた玩具のように首を縦に振るだけ。
鍵を寄越しなと言うフェンリルに、恐る恐る鍵を渡しフェンリルがこちらに投げて寄越したのを、空中でキャッチする。
「大魔法使い様に、失礼な振る舞いをしたんだから宿代は半額な」
今まで言われるまま首を縦に振っていたおじさんが、一瞬止まるがフェンリルが睨むと縦に首を振った。
なんか可哀相になってきたけど、お金が無限にあるわけじゃないし、ここはおじさんの厚意に甘えよう。
父さん、フェンリルは交渉?上手でした。




