(3)
幸い森の中を進んでいるので、弓を作る為の竹はすぐに見付ける事が出来た。
それを僕の身長よりも、少し低いぐらいに切らなければいけないのだが、それがまた手間だった。
何しろ刃物なんて、禄に使った事が無いのだから仕方ない。
一生懸命親の敵とばかりに打ち込むのだが、刃は表面で弾かれて浅い傷を幾つも作るだけで全然切れない。
「ほれ、俺様がやってやるからちょっと貸してみな」
フェンリルは短剣をくわえると、凄くゆっくりのモーションで、真横に首を振った。
それなのに刃はまるで熱したナイフで、バターを切るみたいに竹を切断した。
「今のどうやったの?」
「刃に力を集中させんのさ。これぐらいは出来るようにならねーといけねーぜ」
普通出来ないでしょと思いつつ、唾液でベタベタになった短剣を受け取り、やっぱり出来るようにならなきゃいけないと強く思う。
竹に弦をつける部分を削り、湾曲させ弦を張る。
次に矢も竹の先端を削り尖らせていく。
「中々器用じゃないか」
初めて褒められた気がして胸を張り「ささがきで慣れてるから」
料理から離れろよという声は無視した。
あとは真っ直ぐ飛ばす為の矢羽が必要なんだけど・・・
「羽・・・」
四つの瞳が、ナーガの翼に注がれる。
「断る」
やっぱり。
「てめぇマスターが成長しようってのに手伝おうって気はないのか」
おおっ!それがたとえ、美味しいものを食べたい欲求から来るものでも嬉しい。
「ナーガお願い」
両手を合わせて、精一杯潤んだ目でナーガを見上げる。
「くっ・・・一枚だけだぞ」
ナーガは翼から一枚羽を引き、抜き渡してくれた。
「エヘヘありがとう」
その羽はまるで、ガラス細工のように透き通っててとても綺麗だった。
勿体ないけど、半分に切り矢羽としてつける。
「出来た」
初めて作ったにしては、かなりいい出来栄え。
「さっそく試し撃ちといこうぜ」
フェンリルはグルリと周りを見渡し「あれなんかいいんじゃねーか」と指差すのは、10メートル程先にある太さ50センチぐらいの木。
うん、あれぐらい当てなきゃ、とても獲物なんて狩れないよね。
呼吸を整える。
「ほらほらさっさとしやがれ」
弦に矢をかける。
「集中、集中」
ゆっくり弦を引く。
「しっかり狙えよ」
狙いをつける。
「脇しめねーか」
「フェンリルうるさい!集中出来ないでしょ!」
フェンリルはヘイヘイと脇に下がる。
もう一度最初からやり直し、ギリギリと弦を引き狙いをつける。
弓を支えている左手が小刻みに揺れ、もっと鍛えておけば良かったと後悔。
よしっ今だ!と右手を弦から放したと同時に、弓を支えてる左手が何かに叩かれた。
弦から放たれた矢は勢いよく飛んで、見事に木に刺さりビィィィーンと小気味よい音を立てる。
真横にいたフェンリルの頭を掠めて、その後ろの木に・・・
「惜しかったな。今度狙う時は眉間を狙うんだぞ」
いや僕が狙ったんじゃなくて、貴方が尻尾で叩いたからでしょ・・・ナーガ。
「ぶっ殺す」
フェンリルの身体から、まるで陽炎のような湯気が出ている。
・・・うわっ・・めちゃめちゃ本気で怒ってる。
「不細工な氷の彫刻にしてやろう」
二頭の睨み合いの中心から外れて、僕は近くの木に腰掛け空を見る。
今日の雲の数は幾つかな・・・




