(2)
それは、フェンリルの何気ない一言から始まった。
「マスターは何が出来るんだ?」
唐突に出来る事と言われても、そんなの考えた事もない。
「掃除と洗濯かな」
二頭の冷たい視線が突き刺さる。
「そんなもん出来ても何の役にも立たないだろうが!そうじゃなくて、ほら、短剣とか貰ってただろ。それで何が出来るんだよ」
刃物も料理ぐらいしか使ってないし、父さんから剣術を習ってた訳でもない。
「キャベツの千切りぐらいなら出来ます」
沈黙がものすごく痛い。
そんな目で見る気持ちもわかるけど、大人を相手に剣術で圧倒したり、魔法を使いまくったりする子供がいたら怖いでしょ。
「二人が僕に魔法とか教えてくれればいいじゃない」
「それは無理だな」
「駄目に決まってるだろ」
くっ・・・普段仲悪いくせに、否定の時だけは息ぴったり。
「教えないのではなくて、出来ないものを教えても仕方あるまい」
ナーガが溜息混じりに呟く。
「どうして?」
それは、僕に全く魔法の才能がないって言ってるの?
「あのな、俺様や白トカゲが魔法を使う時に、呪文唱えてるの聞いた事あるか」
「バーベキューとか、負け犬とか」
「呪文じゃね~よ!」
フェンリルが、ビッと僕を指さした。
「俺様は力をそのまま具現化してるんだよ!人間みたいな貧弱なのが出来る訳ないだろ」
力を具現化とか、難しい事を言われても全くわからない。
「同じ事をするにしても、人間では力が足りない。それを補う為に、言霊を組み合わせて、足りない部分を構築するのが、人間の使う魔法だ。残念ながら私は、人間の使う言霊と構築の仕方を知らないのだ」
ナーガ先生、難し過ぎてわかったのは、わからないという事だけです。
「自慢じゃないが、俺様も言霊やら構築なんぞサッパリわからん」
確かにそれは自慢じゃないです。
「マスターが魔法を使いたいならちゃんとした人間の魔法使いから習うしかないな」
結局魔法に関しては、この二頭から習うのは無理ってことか。
「じゃあ、剣術とか」
「剣使ってるように見えるか?」
・・・ですよね。
「弓とかは使えないのか?」
ナーガ先生の一言が、空気を変えた。
そうだよ!僕の食料危機は、かなり深刻になりつつある。
一週間分の食料しかないのに、三等分しているから育ち盛りの僕には栄養が足りない。
弓が使えれば、動物を狩ったりして食料が得られるじゃない。
そうすれば、お腹いっぱい食べれる。
「弓・・・作ろう・・・」
既に頭の中は、食べ物の事でいっぱいで、夢遊病者のように呟く。
「はあ?弓だって基本が出来てなきゃ意味ないぜ」
「フェンリル弓が使えれば狩りが出来るんだよ。美味しいものが食べれるんだよ。料理なら任せて」
僕の力説はフェンリルの心に響いた。
いや、多分美味しいものが食べれるってとこだけに反応したんだと思うけど「そうだぜ!何事もやってみなくちゃだな」とフェンリルの賛同が得られた。
民主主義らしく二対一・・・いや一対一点幾つかも知れないけど、かくして弓作りが始まった。
今思えばいきなり狩りが出来る腕がある訳ないし、さっさと王都を目指した方が良かったと気付いた時には後の祭だった。




