(5)
大きな肩掛けのバッグを肩に掛け、透き通る声といつもと変わらない笑顔。
「じゃあ、行ってくるね」
最初の目的地は王都。
本来街道沿いにぐるっと廻っていくのだがフェンリルの「面倒だから真っ直ぐいこうぜ。迷っても飛べるのがいんだから平気だろ」と森を抜けるルートに決まった。
「自分の使い魔を信用しろ。そうしたら使い魔もお前を信用してくれる」
頷き泣きそうな顔を見せないように、父さんの胸に抱きつく。
「お前が帰って来る場所はずっとここにある。すべき事が終わったらいつでも帰って来い」
小さくなっていく息子と狼の姿を見ながら、いつもは俺が見送られていたのに、まさかこんなに早く俺が見送る側になるなんてなと、カイルは感慨に耽る。
やっぱり歳は取りたくね~な。
見えなくなってから、これから食事も掃除も俺の役目かとカイルは家に入って行った。
遥か彼方からルークの旅立ちを見送る人物がもう一人。
その男をカダルフィークの住人が見たらこう声をかけるだろう。
こんなところでどうしたんですかサイ先生。
「これで俺の役目も終わりだな。フェンリルもナーガも衰えたもんだ。」
背後に氷の様な冷たい殺気を感じ、サイは降参の意を示すように両手を上げた。
「前言は撤回だ。いつから気付いてた?」
両手を上げたまま背後は振り返らない。
「初めからだ。そうでなければあんな少年と契約する訳がないだろう」
背後には金色の瞳に白い身体と翼。
「成る程・・・それにしてもよくルークが契約に堪えられるなんてわかったな」
「わかる訳ないだろう」
意外な一言にサイは驚く。
「ルークの魂が砕け散ったらどうするつもりだったんだ?」
「どうもしない。人間が一人死ぬ・・・それだけだ」
声のトーンはそうなっても仕方ないとでも言うように、感情が込められていない
「あんた・・・変わってないな。人間界での争いは禁じられている。そろそろ殺気を納めてくれないか?」
「それはお前達の決まりだ。今の私はただの使い魔、お前を滅してもなんら問題はない。答えてもらおう・・・何を企んでいる」
サイの額を冷や汗が流れる。
ナーガは答えによっては、本気でやるつもりだ。
「俺は何も知らない」
殺気がさらに膨れ上がる。
「待て待て待て!俺は何も聞かされていない。神に誓う」
胸の前で十字を切るサイにナーガは苦笑する。
「お前が何も知らされてないだと。そんな訳あるまい」
全身が凍るような殺気に、サイは振り向きたいのに振り向く事が出来ない。
「本当だ。受けた指示はルークに召喚術を使うように仕向けるだけだ」
やはりこいつが、父親を迷わせたのか。
「私やフェンリルを召喚したのもお前だろう?」
「いや、俺は何もしてない。俺だってあんた達が召喚されて腰を抜かしたんだぜ」
「ルークが自ら召喚したとでも言うのか?」
「俺にも聞かせて欲しいね。十年も放置されて久々に次の指示が来たと思えば召喚術を使わせろ・・・それであんたやフェンリルだ」
つまりあの少年が産まれた時から計画されていたという事だ。
「知っていてもお前に答える義理はない」
殺気が消えて、サイも緊張を解く。
「もう帰ってもいいかな。そろそろ故郷が恋しい」
「依頼主に言っておけ、もう少しだけ座興に付き合ってやるとな。だが、くだらない理由なら覚悟しておけ」
そう伝えておくと言い残すと、サイはその場から消えた。
残されたナーガは、遥か先を進む少年と狼を見つめる。
あの少年が私を巻き込んだのか、それとも私が少年を巻き込んだのか。
まあいい、あの子に興味が湧いたのは本当の事だからな。
ナーガは翼をひろげ、ルークとフェンリルの後を追っていった。




