(4)
明かりが落ちたままの部屋に、月明かりだけが部屋を照らし、ルークは自らの手を何度も確かめていた。
透けていった手は、しっかり握っていたコップの柄をすり抜けた。
一体何が自分の身に起こったのかわからぬまま、初めて感じた死への恐怖に震えが止まらない自らの身体を抱きしめる。
「親父が呼んでるぜ」
不意に呼び掛けられ思わずヒッと息を飲む。
入口には、闇にそのまま溶けたような漆黒の狼が立っていた。
「入る時はノックしてよ。ビックリするじゃない」
フェンリルは開いたままのドアに前足を打ち付ける。
コン、コン。
「ほら、これでいいか」
・・・入って来てからしても意味ないんだけど・・・一体父さん達はどんな話しをしたんだろ?
「そこに座れ」
いつもと違う父の様子に、緊張して言われた通り椅子に座ると、カイルが地図を机に拡げる。
それはこの周辺の地図ではなく世界地図
「お前を見つけた時の事から話さなきゃならん。長い話になる」
父さんから初めて聞かされる、自分の出生・名前の由来。
何故今になってこんな話を父さんが、自分に聞かせるのかわからなかった。
「自分のルーツを探しにいけ」
その言葉を理解するのに時間が掛かった。
「父さんは?」
「俺はお前が帰って来るのをここで待つ」
「僕一人でなんて無理だよ」
「一人じゃない。お前には立派な使い魔がいるだろ。俺ではもう足手まといなんだ」
事実ルークの手が透けた時、カイルは二頭を切るつもりで立ち上がった。
魂の力が足りないのなら完全に喰われる前に、その魂を喰っている魔獣を殺してしまえばルークを助けられる。
だが、二頭はカイルの殺気に瞬時に反応し、既に反撃の体勢になっていた。
そのまま仕掛けていれば逆に殺されていただろう。
圧倒的な技量の差。技量の劣る者は弱点にしかならない。
「本当は誕生日に渡すつもりだったんだけどな」
父さんは箱から短剣を取り出し渡してくれた。
「これなんの牙?」
ズシリと重く実用を重んじるカイルらしく装飾はついてないが柄には何かの牙が埋め込まれている。
「俺の相棒の牙だ。形見として先を少しだけ貰ってきた。きっと今度もお前を守ってくれる」
お守り等なんの効果もない。
戦場で嫌と言う程知ってはいても、渡さずにはいられない。
戦場に行く家族にお守りを渡す人も、こんな気持ちだったんだなとカイルは思う。
「我々が目指すのはここだ」
ナーガが身体の大きさにしては、短い腕は使わず尻尾で地図の一点を指す。
指している場所は地図では海だが、ナーガはそこに島があると言う。
指されている場所に行くには、父と離れていた今回よりも遥かに長い時間が必要だろう。
自分の中からそこに行かなければならないという思いが湧いてくる。
まるでそれが運命だと言わんばかりに。
家の明かりが落ち、カイルとルークもそれぞれの部屋に戻った
カイルが部屋に戻って暫くしてドアがノックされルークが入って来る。
「どうした?」
声をかけると、ルークがはにかみながら一緒に寝ていい?と聞いてくる。
無言で横に向かい入れると疲れていたのだろう。すぐにルークの寝息が聞こえて来る。
カイルはルークの髪を撫でながら、この子に課せられた運命がどうか辛くないようにと祈った。




