(5)
「待って!」
その場の雰囲気に似つかわしくない声が響き渡り、狼と竜は何事かとその声の主である僕を見る。
「僕の父さんを助けて欲しいんだ」
はあ?狼はいきなりのお願いに顔を顰めている
「何で俺様がお前の父親を助けてやらなきゃいけないんだ?」
狼の態度に今度は僕が顔を顰める。
「召喚獣は召喚者の言う事を聞いてくれるんじゃないの?」
狼が言葉を発しようとして、竜がそれを遮った。
「少年よ。魂の契約がどんなものか知っているのか?」
本で軽く見ただけで知識の乏しい僕は、正直に知らないと答え竜は呆れたように首を振る。
「魂の契約は呼び出された魔獣が、召喚者を認めて教える真の名が必要だ。魔獣は真の名を召喚者に教えるかわりに召喚者の魂を糧とする」
狼がそれに反論した。
「嘘教えてるんじゃねーよ。俺様もテメエも真の名なんて持ってねーじゃねーか」
「嘘はついてない。真の名を持っていなくても相手を認めれば私達でも契約は可能だ」
ようやく見えた希望、これを逃す訳にはいかない。
僕だって必死だ。
「認めて貰うってどうすれば?」
「それは力であったり知恵であったり様々だ。決まった形はない」
力も知恵も人より優れたものがないと、自覚している僕は落胆して拳を強く握る。
「まぁ当たり前の話しだな。てめぇの命を預けるんだ軽々しく契約なんざ出来ねぇよ」
狼は既に僕に興味をなくし、竜に早くやろうぜと急かす。
狼の言葉は心に突き刺さる。
でも人の言葉を解すこの二頭なら、契約は出来なくても協力して貰う事が出来るんじゃないか?
「契約してくれなくても構いません。僕が持ってるものなら全部上げますから、どうか助けてください」
例え命をくれと言われても、差し出すだけの覚悟が出来ている。
「逃げて行った人間はお前の知り合いか?」
「サイさんは、よくしてもらっているお医者様です」
チラリと竜が先生が逃げた方を見遣り告げた言葉に僕も狼も驚愕した。
「いいだろう。私が契約してやろう」
空から探せば父さんを見付けられるかも知れない。期待に鼓動は早くなる。
「とかげお前本気で言ってるのかよ?」
狼は信じられないと思っているのが、見ただけでわかるような表情を浮かべている。
「ああ本気だ。私はその少年に興味が湧いた。お前にもう用はない、さっさと負け犬らしく尻尾を巻いて巣に帰れ」
狼は苦虫を潰したような顔になったが、何かを思い付いて僕に近づき耳打ちした。
「それでいいの?」
狼に問い返すけど、狼は笑いながら「それでいいんだ早くしな」と急かす。
狼に聞いた通りに宣誓を始める。
「汝の名は魔狼フェンリル、汝の名は氷竜ナーガ我がルークの魂と共に契約の誓いを果たさん」
竜が待てと叫んだ時には、宣誓は終わってしまっていた。
フェンリルと呼ばれた狼が笑い出す。
「はぁ~はっは~ざまーみろ俺様が先に契約を済ませてやったぜ」
ナーガと呼ばれた竜の困惑した顔を見て、フェンリルは尚も笑う。
「私も契約出来た」
は~っはぁ?
「何言ってやがる!俺様が契約してるんだぞ。出来る訳がねえ」
「出来たから出来たと言っているんだ。嘘を言ってどうする」
話の流れについていけず僕が「あのですね・・・」と声を掛けると、フェンリルは信じられないものでも見たような驚いた顔で僕を見詰める。
「お前・・・何ともないのか?」
自分の身体を見ても手も足も別段異常はなく。
「何ともないけど」
トットットとフェンリルは僕に近付き、胸に鼻面を押し当てて臭いを嗅いだ。
「ふ~ん俺様もお前に興味が湧いたぜ。宜しくなマスター」
フェンリルは何かに気づいた様に、にやりと笑った。




