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狼竜物語  作者: レオ
102/255

(4)

 ナーガは眼を開ける。


 眼前には、先程と変わらぬ部屋とオーディンの姿。


「聞いたか?」


 問い掛ける声には、疲れの色が伺える。


「つまり私はお前達親子の尻拭いをさせられた訳だな。こいつの魂は私が貰っていく、異存はないな?」


 少し考えこんだ後に「好きにしろ」とオーディン。


 権力欲に取り付かれた男ではあるが馬鹿ではない。


 短い間に肯定と拒否のどちらがより利があるか、思案して出した答えだろう。


「少年の魂は魔界に行ったのだな?」


「回収は魔界の長に頼んである」


 魔界の長だと!


 聞いてナーガの顔色が変わる。


 魔界の長をナーガはよく知っていた。


 人間の魂の回収などという面倒な事に、動くような人物ではない。


 オーディンもそれを知っているはずだ。


 真意は魔界の者に食われてしまえば、証拠隠滅も完了する。


 魔界の長に依頼したのも動かないのを知っていながら、一応行動は起こしたという弁解の為にだ。


 ナーガは怒りを覚えたが、目的のものを手に入れた以上、ここで騒ぎを起こすのは得策ではないと堪え思案する。


「もう一つ欲しいものがある」


 何が欲しいと問うオーディンに要求を伝えると、途端に顔色が変わる。


「そんなものどうするつもりだ?まさか・・・」


 権力欲に取り付かれた男の考える事は一つだ。


「心配するな今更神界の長になど興味はない。使う必要がなければそのまま返そう。何も聞かされずに古き神の討伐をしたのだ、これぐらいの褒美を貰っても罰は当たるまい」


「我が息子の魂だけでも、十分過ぎると思うが?」


 やはり拒否されたか。


 バルドルの魂は力付くでも奪うつもりだったが、今度はそうもいかない。


「ラグナロクの時、私がお前をフェンリルから助け出した褒美を、まだ貰っていなかったな」


「古い証文を持ち出しよって・・・」


 杖を握り潰さんかぎりに力が入る。


「やはり駄目じゃ!そんな要求はきけん」


 もう一押し足りなかったかと、ナーガは踵を返す。


 背後で要求を跳ね退け、ホッとするオーディンの気配を感じる。


「私も久しぶりにヴァーラスキャールヴに来たのだ。暫く逗留させてもらおう」


「うむ、それは構わぬ。傷の手当もせねばならぬだろう。部屋を用意させよう」


 傷の手当と言っても神界には、治癒を使える者は人間界よりも少ない。


 力さえ足りていれば人間とは比べものにならぬ程、自然治癒力が高い神にはそれ程必要がない為発展してないのだ。


「それには及ばぬ。門の衛兵達は、私を知らぬ新しい神のようだったな。昔話でもして時間を潰していよう」


「昔話だと?」


「そうだ。ラグナロクで神界の長たるお前が、どれ程勇敢に戦ったのかでも語ってやるとしよう」


 見なくても鬼のような形相のオーディンが手に取るようにわかる。


「待て」


 この一言で、オーディンとの駆け引きに勝ったのをナーガは悟る。


「・・・少し時間が掛かる。暫しの間待っておれ」


 ラグナロクの時、若く才能に溢れていたオーディンは、フェンリルに真っ先に切り掛かっていった。


 そして一合も交わす事なくフェンリルに飲み込まれ、オーディンのラグナロクは終わりを告げた。


 神界の長たる者がこれでは、権威も失墜してしまう。


 ラグナロクを知らぬ、新しき神達には知られたくもないだろう。


 ナーガは、魔界に向かったフェンリルに想いを馳せる。


‐後は貴様次第だ‐


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