88、終結
†
それは怪獣映画のような光景であった。
巨大な白い竜に群がる数頭の赤い竜。輝くブレスは砂の大地を焼き払い、天を焦がした。
白い竜は巨木の様な太さの尾を薙ぎ払い、赤い竜たちを打つ。
それでも、赤い竜たちは懸命に白い竜に戦いを挑んでいった。
《ガーネット!!散開だっ!!ブレスが来るぞっ!!》
《了解っ!!》
赤い竜たち、ラスタバンたちがパッと白い竜、シラユキから離れると、再び輝くブレスが吐き出される。このブレスは例え、竜化した竜人であっても直撃すればただでは済まない威力を秘めている。
それでもラスタバンはシラユキの長い首筋に牙を打ち込み、爪を立てる。その多くは堅牢な鱗に阻まれるが、わずかながら傷つけることができているようだ。それを機にガーネットたちも翼や足などに噛みつき、シラユキの身体を削っていく。
Gyuooooooooommm!!!
シラユキが苦しみの咆哮を上げるがまだまだ動き事態は力強いものがある。さらにシラユキへ迫るラスタバンたちであったが、大きく体を弾き飛ばされる。
シラユキは自らの身体を中心に爆風を起こしたのだった。これによってラスタバンたちは少なからずダメージを受ける。そこにシラユキは追撃をかける。シラユキの周囲に複数の魔法陣が展開され、そこから先ほどのブレスと同程度のエネルギーがラスタバンたちを襲う。
《妾の後ろへ!!皆、障壁を張れっ!!》
他の竜人を庇うように、ラスタバンは赤い翼を大きく広げ、前方に障壁を張る。それを倣うようにガーネットたちも障壁を張るが複数のエネルギーの塊をラスタバンたちを飲みこんだ。
バリン バリン バリン
障壁により、エネルギーがある程度散らされるが、障壁が次々と突破されていく。そして、ついにラスタバンが張った障壁のみになったが、それも突破され、ラスタバンたちをズタズタに焼いていく。
ラスタバンたちはその拍子に竜化が解け、人の形態に戻った。
†
巨獣が上空にいる神祖へ向けて爪を振るう。
巨獣化した白い虎のテトが、赤い猿のクシルが神祖へ襲い掛かった。さらに、飛行の魔術を受けた勇者の子孫ダイヤが斬りかかる。それらをミソノがゲーム魔法で援護する。
ミソノが使っているゲーム魔法は、ステータス倍化というとんでもない支援魔法であった。しかし、爪や拳、剣が直撃しているはずの神祖は涼しい顔を崩さなかった。
「な、なんなのさ!!僕の魔法が効いてないはずないのにっ!!」
ミソノが悲鳴に近い声を上げる。
「見た目がユウマだってのは、ちょっとやり辛いわ……ねっ!!」
輝く剣でダイヤが斬りつけるも、神祖の薄皮一枚すら傷つけることができていない。
《それなら衝撃を与えれば、内部から破壊できるはずっ!!》
テトが咆哮とともに、口から衝撃波を吐き出した。ビリビリと大気を震わせる。さらに、神祖の背後から、クシルが人の背丈ほどもある拳を叩き付ける。それによって、クレーターが出来上がる。クシルの拳はそれだけにとどまらず、ドラミングするが如く、神祖を地面に叩き付ける。
ドゴン ドゴン ドゴン ドゴン ドゴドゴドゴドゴン!!!
まるで高速のパイルドライバーの如く、拳が地面を貫き、クレーターが徐々に広がっていく。周囲には砂煙が立ち、クシルの姿も見えなくなった。
【君たちじゃ、傷つけることもできないってそろそろ解ったかな?】
砂煙の中に、神祖の声が響く。そして、砂煙の上から何かが落ちてきた。そこに落ちてきたのは人型に戻ったクシルの姿だった。
《クシル様っ!!何をしたのだっ!!》
再び咆哮を上げ、砂煙を吹き飛ばすとクレーターの中心に神祖が何事もないかのように立っていた。
【何って、鬱陶しかったから少し黙らせただけだよ。さて、改めて皆の奮闘ぶりを観戦しないと――――】
と、そこへ上空から無数の針が降り注いだ。神祖は表情を変えずに、手を上げると、周囲を包むようなベールを出現させる。
【おや。これは防がれましたか。先ほどの攻撃のように受けてくれれば儲けものだと思ったんですがね。】
上空からルシフェル・ファルファレルロが神祖を見下ろしていた。
【ふん。どうせ君の事だからあの針、変な効果があるんでしょ?それに、君が悠長に話しているのはさっきの針とは別にすでに違う攻撃を僕に仕掛けている時間稼ぎ……とかね?】
神祖は周囲に細かい糸を放射状に放出する。すると、糸が通過した地面には瘴気を孕んだ魔族が苦し気に地面から這い出てくる。
【神は何でもお見通し……ですか。でも、もう遅いですよ。やりなさい。】
ルシフェルが合図をすると、神祖を囲んだ魔族たちは呪詛を唱える。これらはただの上位魔族ではない。邪神アンラによって仙格を与えられた邪仙たちだ。それが12体、六芒星を形作るように陣取り、神祖の周囲に結界のようなものを完成させる。
【くっ……やっぱり抜け目ないね。君は。何をしたんだい?】
ここで神祖は始めて苦しげな声を上げる。周囲の魔族たちの呪詛が止み、赤い光が六芒星から放たれ、神祖へと吸い込まれていった。それと同時に、魔族たちもバタバタと倒れ伏していく。すでに魔族たちはこと切れていた。
【あなた達の死は無駄にはしませんよ。きちんと神殺しを成してみせますから……】
ルシフェルは倒れた魔族たちを一瞥すると、神祖の目の前へと転移する。そして、おもむろに神祖へと拳を突き出す。それは的確に神祖の顎を捉え、吹き飛ばした。
「なんだ!?あの魔族は……めちゃくちゃ強いわよっ!!私たちがあれだけやって歯が立たなかった神をぶっ飛ばしたわ……」
これまでのやり取りを見て、ダイヤは茫然と立ち尽くすしかなかった。
「ど、どうせあの神のことだから平気な顔してノーダメージに決まって―――」
ミソノが負け惜しみにも似た言葉を口にしようとした時、吹き飛ばされた神祖の姿が砂埃から露わになる。
「「なっ!?」」
神祖は辛うじて立ってはいた。しかし、全身が血まみれで、必死に神気による治療を自らで行っているようであった。しかし、その神気もごくわずかな輝きしか発せられていない。
【神様でも自分が何をされたのか解らないこともあるんですね。種明かしはもう少し後ですかね。そこの人間。勇者の子孫ですね。今ならあなた達でも攻撃が通じるはずです。試してみてはいかがです?】
ルシフェルは未だ茫然としているダイヤたちを見る。ルシフェル自身、神祖の状況を正確に把握できないため、瀬踏みのためにダイヤたちを嗾けたのだった。
しかし、これにダイヤたちは反応する。再び、ミソノの援護を受けて、ダイヤが斬りかかる。そして、易々と神祖の左腕を斬り飛ばした。
「や……やった……攻撃が通るわ!!ミソノ!ここが正念場よっ!!テトさん!!クシルさんの治療は後にして畳みかけるわよっ!!」
クシルへ蘇生薬を飲ませていたテトが再び巨獣化し、神祖へと躍り掛かる。そして、この攻撃も神祖へと深々と爪を立てることに成功する。
激しく血飛沫が舞い、神祖は瞬く間に全身に裂傷が走る。ヨタヨタと後退する神祖。それでも、ダイヤたちの攻撃は止まることはなかった。しかし、ダイヤは何か違和感を感じ、野生の勘ともいえるものに身体が反応する。
「離れてっ!!何か来るわっ!!」
その声に、テトは弾き飛ぶように離れ、ダイヤはミソノを抱えて、全力で距離を取った。
その瞬間、神祖が纏っていた神気が天を衝くかのように放出される。神祖の半径10mは神気に包まれ、なおもジワジワとその領域を広げていた。
神祖の斬られたはずの左腕は傷口から伸びた糸によって、回収、縫合される。その他の傷も、塞がっていった。
【やっぱり発動しましたか。ユウマさんの時も死にかけると【限界突破】が厄介でしたからね。さて、ここからが正念場ですね。】
ルシフェルは眉を顰め、神祖を睨み付ける。
【ふふふ……ふっふっふっふ……あはははは……あーっはっはっはっはっは!やってくれるね。まさか神を呪い、ステータスをすべて1にするなんてね。身体が動かないわけだよ。でもね。その呪いももうすぐ完全に解除される。神を冒涜した者は、神罰が下るんだよ。】
神祖の手には神槍が現れ、次の瞬間、掻き消える。
ポタリ ポタリ ポタリ
神槍はルシフェルの胸を貫き、そこから血がしたたり落ちていた。
さらに、神祖はダイヤたちを睨む。
【君たちも罰を与えないとね。】
にやりと神祖は笑うと、同様の神槍を複数作り出す。
【神祖、何を勘違いしているんです?すでにこの勝負は私の勝ちなんですよ。まだ解りませんか?】
神槍に貫かれたルシフェルは膝を着きながら、神祖を挑発する。しかし、心臓を貫かれたルシフェルは肩で息をし、話すのがやっとの状況だ。
【何を言うかと思えば……何の時間稼ぎにもならないよ。そんなも―――えっ?】
神祖の顔が驚愕に引き攣る。そして、神祖の周囲に現れていた槍が掻き消えた。そして、神祖は膝を着く。神祖自身、全く意図せぬ行動を取っていた。訳も解らず、周囲を見渡すが遠くでアイリたちが戦闘をする魔法の光が見えるのみ。しかし、その魔法の光も止み、辺りは静寂に包まれていった。
【どうやら……間に合い……ましたか。少々、時間を……かけ過ぎですよ。ユウマさん。】
口から血を流しながらも、ニヤリと笑うとルシフェルが神祖へと話しかける。
【まずは、クロ子をどうにかしないとな。うぐっ……ぐはっ!!!】
神祖の身体が輝くと、そこから同様に輝く人影が分離される。それは金髪碧眼の少女であった。紛れもなくクロウの姿がそこにあった。
【何を……何をしてる……これは、どうなってるんだい……】
神祖が苦し気な声を上げる。すると、神祖の表情が、穏やかなものに変わる。
【それは俺の方が聞きたいんだがな。俺の身体が弱ったのが切っ掛けみたいだな。お前の支配も弱まったって事か……ま、あとはお前からもらった神格ってやつを叩き返すだけだな。】
ユウマの言葉が、裡の神祖へと響き渡る。ユウマは瞳を閉じると、神気でもなく、魔力でも瘴気でもない力が溢れていく。【真・限界突破】により、ユウマは一時的に神祖を凌駕する力を発揮するに至ったのだ。
ユウマはさらに、周囲に新たな領域を創世していく。それは聖領域を超える未知なる領域。ユウマの周囲が虹色に輝くシャボンのような膜に覆われていく。
【人の身体で下らないことばっかりやってんじゃねぇぞ!!世界を作り直すだぁ!?ふざけんなよっ!!】
ユウマの圧倒的な力の前で、裡なる神祖は混乱していた。これまで全ての物を理解していたはずの神祖が訳の分からない存在に触れ、恐怖しているのだった。
【どうなってるんだよ!?何だよ!ここはっ!!こんなの知らないっ!!僕は神だぞっ!!何しても許される存在なんだ!!】
神祖は怒鳴り、神気を纏おうとする。しかし、神気は周囲のシャボンのような膜に吸収され、霧散していく。それどころか、ユウマの身体から神祖そのものが引き摺り出されようとしていた。
ユウマの胸のあたりから、輝く白い球体がゆっくりと体外へと姿を現す。その輝きもゆっくりと失われていく。そして、輝きの中から現れたのは、1つの脳であった。
灰色で黒い血管が網目のように走り、僅かに蠢動している。これこそが神祖の本体であった。かつて、この世界に転生させられた初めての異世界人の脳。
【うわっ!!グロいな!!幽霊の正体見たり枯れ尾花ってな!神様の正体が脳味噌かよっ!!】
【うるさい、うるさい、うるさいっ!!僕の事をバカにするなっ!!お前なんかこうしてやるっ!!】
再びわずかに輝きを増した『脳』はユウマの胸へと入り込もうと試みる。しかし、それはユウマにあっさりと躱されてしまう。
「こ、これ……どうなってんのよ!!ユウマさん……ユウマさんが正気に戻ってるの!?」
これらのやり取りを見て、ダイヤが思わず声を上げる。
ユウマを包む領域は外にいるダイヤたちもこれらの一連のやり取りを静観していたのだ。そして、傍らでは倒れたクロウがテトとミソノによって治療を受けており、ルシフェルは他の魔族から薬の様な物を受け取っていた。
周囲の戦闘もすでに終息し、精霊王とその分体は消失し、アイリ、サフィーナ、シラユキはそれぞれ倒れ伏していた。他の者は、立ち尽くしている者、治療を行なう者、仲間の死に慟哭する者様々だった。
グランディアとジャスリーンは仲間たちの治療に奔走していた。
ラスタバンとガーネットたちは傷つきながらも立ち上がり、残った魔族たちを牽制していた。
勇者タカハシとウェル、ドワーフたちは戦いで倒れた者たちを1つの場所に回収していた。
魔族たちは地に降り立ち、膝を着いたルシフェルとクロウを取り囲んでいた。
テトやダイヤ、ミソノ、そして、獣人たちはユウマと神祖とのやり取りを見守っていた。
ユウマは目の前に神祖をどうするか考えていた。このまま消滅させることもできる気がする。しかし、そうなればラクリアがどうなるか解らない。もしかするとこの世界そのものが崩壊してしまう可能性すらある。
かといって、神祖を再び身体に入れることは、先ほどの二の舞になってしまう。
と、神祖の本体、『脳』からユラユラと糸の様な物がこちらへと伸びてきた。それは神経のようであった。
【僕の事を何も知らないくせに……僕がどれだけ苦労したか知らないくせに……】
神祖の声が響いてくる。
ユウマは伸びてくる糸に警戒しながら、手を伸ばし、その糸を軽く握った。
†
僕が、この世界、ラクリアに召喚された時は、何が何だか解らなかった。
急に目の前に白い髭のお爺さんがいて、神様だと言われた時は、なぜかすんなりと信じることができた。
剣と魔法の世界、ラクリア。そして、スキルやレベル、ステータスといったゲームのような世界システムを知った僕は、喜びのあまり叫んでしまった。そして、持っていたチートスキル【不死】と【全能】という万能感に打ち震えた。
でも、思い描いていた世界とは少し違っていた。まず、魔法が不完全だった。膨大な魔力が必要で気軽に使うようなものではなかった。それで、僕は魔術という体系を作り上げることにした。【全能】の力を持ってしても新しいシステムを作るのに100年はかかってしまった。
他にも、精霊や魔族、竜などが強大な力が犇めくラクリアでの人間を少しでも生き残らせるために、冒険者と冒険者ギルドという存在を作り上げた。そして、魔術のスキルを教え広めながら、冒険者というシステムをラクリアの人間世界に浸透させていった。ここまででまた、100年の時間を要していた。
と、ここで僕は【不死】のデメリットを知るのだった。決して、老いを止める物ではないのだと……。
200歳を超えると身体は干乾びた枝のようになり、節くれだち、関節が変形する。目、耳などはすでにほとんど機能せず、魔法の力でその代用としていた。
この身体を捨てることを決意した頃、再び僕の目の前に白い髭の神様が現れたのだった。
ようやくお迎えが来たのかと思ったがどうやら違ったようだった。そこで宣告されたのは絶望の言葉だった。僕は【不死】がある限り、決して死ぬことはできないということ。そして、このラクリアを発展させてくれたお礼として自分の代わりに神格を譲るということだった。
嫌だった。早く死んで楽になりたい。そう神様に訴えたが、それは不可能だということだった。そして、いつか神格に相応しい者が現れたら、それを譲ることができるという事を。それによって、自らのスキルを全てその者へ押し付ける事ができるのだと。
神様は、それだけを伝えると、あっという間に消えてしまった。その顔は忌々しいまでに穏やかだった。
僕が神様となってからは、早くこの神格を譲る事だけに執着した。そして、これまで育て上げてきたラクリアという世界その者に強い憎悪を抱くようになっていた。
僕は、僕と同じような境遇の者たちを異世界からラクリアへと次々と転生させていった。チートスキルをいくつかあげると嬉しそうにラクリアへと飛び出していった。それでも、大抵の異世界人は小さくまとまってしまう。勝手に、満足して成長を止めてしまう。いつまでたっても神格に相応しい者は現れてこなかった。
そこで、僕と同じスキルを異世界人に持たせてみた。しかし、その異世界人は200年も経たずに廃人と化してしまった。
もう、どうしていいのか解らず、異世界人に対してもその不甲斐なさに怒りを覚えた。ラクリアという世界そのものに絶望していた。
そして、異世界人の性質を厳選することにした。様々な不遇な状況、逆境を跳ね返した魂を厳選した。
ようやく見つけたのだ。不遇な魂を。
やっと現れたのだ。逆境をものともしない魂を。
その魂は、僕が作り出した聖領域の中で不安そうに彷徨っていた。
(どこだよ。ここ。
たしか、撃たれて……白い空間……この展開って……まさか……)
どうやら、自分が死んだってことは理解していたみたいだった。そこで、僕は気安い声を作り、その魂に声を掛けたのだった。
【察しがいいね。君は一度死んだんだ。
それで、ここで違う世界に転生してもらおうと思うんだけど。】
これが僕がユウマと出会うまでの物語だ。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
次回ついに最終回です。
※次回の更新は11/30を予定しております。




